激昂
「……そういえば、シャルロットが昨夜陛下とお話しした際に、エリスのどこを好きになったのかと尋ねたそうですが」
そう切り出したところで、フェリックスが鋭い視線で自分を睨んでいる事に気づき、アレクシはハッとして口を噤んだ。
「な、何か、失礼な事を……」
「……アレクシ殿下、エリスは私の婚約者だが? もう殿下とは関係が無いのに、名を呼び捨てにするのはどうかと思うが」
「あっ! も、申し訳ございません。つい癖で……」
蒼白になり、慌てて謝るアレクシに、フェリックスは表情を緩めた。
「まあ、長年の癖は、なかなか抜けないかもしれない。だが、今後は気を付けてくれ」
「は、はい……」
「で、何の話だったか……ああ、エリスのどこが好きか、ね。いやぁ、いざ尋ねられると困るものだな。もちろん『全部』だけれど、そういう事じゃないのだろう? 簡単に『頭のてっぺんから足先まで全て!』と言えばいいってものじゃないからな。それで、改めて考えてみたんだが……」
機嫌を直したようで、フェリックスはニコニコしながら言った。
エリスの事を話す事自体が楽しくて、嬉しいらしい。
「まあ、まずは見た目だな。黒曜石のような瞳にバラの花びらのような唇に、絹のような黒髪。スラっとした鍛えられたしなやかな身体、長い手足……もう、女神だとしか思えないな。それから優しいところもいいな。忙しい私を心配してくれるし、使用人達にも国民達にも優しく接している。やっぱり女神だな! あと、とんでもなく賢い。まだ一年程しか経っていないけれど、彼女がマルタン王国の為に行った事業は数多くあり、良い結果を出している。最初は結婚に反対していた貴族等も、彼女を認める者が増えてきている。期待していたわけではないが、彼女のそういう賢さと実行力には驚嘆させられたよ。あと料理もできるし、剣術も武術も学んでいて強いし……エリスに出来ない事はないんじゃないか? 人間とは思えない、やっぱり女神だな。そうそう、この前だって……」
うっとりしたようにエリスの良い所を語り続けるフェリックス。
そして、そんな事を聞いている場合ではないアレクシ。
『ああ本当に……シャルロットの言った事は、まったく違っているじゃないか……でも……エリスを諦める訳にはいかない。僕の、そしてガルシア帝国の未来がかかっているんだから……』
「あ、あの……」
エリスの好きな所から、彼女がマルタン王国で行った慈善事業や、国民にどれだけ支持されているかを延々と話していたフェリックスが、ようやく一息入れたところで、アレクシは意を決して言った。
「フェリックス陛下、その……」
「ん?」
お茶で喉を湿らせながら、フェリックスはアレクシを見た。
「その……」
「どうかされたか?」
「エ、エリスをお返し頂けないでしょうか!」
「は?」
それまで上機嫌だったフェリックスの雰囲気が、変わる。
しかしアレクシは『今言うしかない』と、一気にまくし立てた。
「エリスをこちらに渡したのは、間違いでした。そもそも、王妃に迎えようとしていたなんて聞かされてなく……そういう事なら、渡したりはしませんでした。で、ですから、お返しいただきたいのです。もちろん、賠償金はお渡しします。ですから」
「…………な」
「?」
フェリックスが何か呟き、アレクシは口を噤んだ。
「陛下、今なんと……」
「さっき、気安くエリスの名を呼ぶなと言っただろう」
フェリックスの、怒気をはらんだその言葉に、アレクシは血の気が引くのを感じた。
あーもぉ……。




