王と側近達
「……ハラハラしましたよ、フェリックス様」
アレクシの足音が遠ざかるのを確認してから、サミュエルが歩み寄った。
「地が出てましたよ、まったく……トマ、お前もだぞ。皇太子が部屋に入ってきた時からずっと、今にも斬りかかりそうな形相で殺気立って……肝を冷やしたじゃないか」
「申し訳ございません、サミュエル卿。けれどあの方には、恨みと憎しみの感情しか持ち合わせてなく……」
「おいおい、帝国の皇太子に対して、物騒な事言ってくれるな。フェリックス様も、同意しないで下さい」
サミュエルは、大きく頷いているフェリックスに注意したが、
「いや、だって、あいつが全て悪いっていうのは事実だろ。祝い事の前だから我慢したが、これまでの行いだけでなく、今日のあの言動も酷かったし。なあ、トマ」
「はい、陛下。エリス様を裏切り、傷つけ、命を脅かしたくせに、今になって『返して欲しい』だなんて、よく言えたものです。全ての元凶です。まあ、もちろん、妹君も同罪ですが」
「ああ、あの女もかなり酷いな。姉の婚約者を奪うって、どういう神経なんだ? って思っていたけれど、俺の事も『わたしの事を好きになった』って言ってたそうじゃないか。どこをどう見れば、そう思えたのか……」
「胸を、見てたからじゃないですか?」
「ええそうですね、それですね」
サミュエルの言葉に、トマが同意する。
「ええっ? いや、あれって、喜んで見てたんじゃなくて、『うわっ、品がねぇ』って見てたんですけどっ?」
「ああいう、自分に絶対の自信をもっている人間は、自分に向けられる視線を全て好意と受け取るのでしょうね」
「怖っ……。ローラから報告……ていうか、苦情? を受けて、俺は冷や汗かいたよ。いつのまにか『婚約者よりもその妹に夢中』って事にされててさぁ。トマ、これからも何でも教えてくれって、ローラに伝えておいてくれ」
「はい。そう言っていただけると助かります。ローラは、エリス様の事となると人格が変わるといいますか……昨日は陛下に対して『どういう事ですか!』などと詰め寄り……寿命が縮まる思いをしました。本当に、申し訳ございませんでした」
妻のした事を謝り、恐縮しているトマに、フェリックスは『大丈夫、大丈夫』と笑った。
「その方がこちらとしても有難い。まったく気にしなくていいから。あー、それにしても疲れた。ちょっとエリスのところに行って癒されてこようかなぁ」
「そんな時間はありませんよ。明日の衣裳の最終調整があります。それにエリス様も今衣装合わせしているはずですから、陛下は部屋に入れません。さあ、移動しますよ」
「えー、そんなぁ……じゃあその後は?」
「昨日夜会に参加できなかったお客様方との昼食会があります。そこでエリス様に会えますから、頑張って下さい」
「ちーがうんだよ! 皆がいるところじゃなくて、二人っきりで会いたいんだよー。のんびりイチャイチャしたいんだよー!」
「ああ、それは式典が終わるまで無理ですね。さっ、行きましょう」
「はぁぁぁ」
「ため息ついていないで、早く早く」
サミュエルに急かされ、フィリックスは仕方なく衣装合わせに向かった。
式を控えて大忙し。




