テラスにて 2
「二人とも、ちょっとこちらへ」
エリスに呼ばれ、テラスに残っていたトマと、エリスと一緒にやってきたローラが進み出た。
「すぐ戻るから、二人ともはずしてちょうだい」
「ダメです、エリス様」
「陛下に命じられましたので、エリス様を残してここから動く事はできません!」
「陛下にはわたしがちゃんと話すから、大丈夫よ。せっかくの夜会なのだから、二人でダンスでもしたらいいわ」
「そんなわけにいきませんよ!」
「そうです、エリス様! わたくしはここでお待ちします!」
揉めている女性の方に、シャルロットは見覚えがあるような気がしたが、『マルタンの貴族なんて、知っているわけないわ』と思いなおした。
結局、二人は少し離れ、テラスの入り口で待機する事になり、エリスが自分の正面に立つと、シャルロットはニヤリと笑いながら口を開いた。
「本当に、生きているなんで驚きましたわ、お姉様。なんて悪運が強いのかしら」
「悪運ではないわ。わたしは今、ガルシアにいた頃よりもずっと幸せですもの。それよりもシャルロット、あなた、ブロケット国のレースを侮辱したというのは本当なの? そのせいで、ブロケットとの交易が停止してしまったと聞いたわ」
「ええ。でも、本当の事を言ったまでよ。今時ブロケットのレースなんて古臭いもの、流行らないわ」
「伝統と流行を一緒に語るなんて、間違いよ。それにブロケットとの取引は、レースだけではないのよ? 良質の塩を生産しているし、ガルシアは絹や砂糖を買ってもらっているでしょう? 今すぐブロケットのアナスターシャ姫に謝罪しなさい。今ならわたしが間に入ってあげられるから。さあ、行きましょう」
しかし、シャルロットは座ったまま動こうとしなかった。
「……その件は、お姉様にお任せしますわ」
「……なにを、言っているの?」
ニヤニヤ笑うシャルロットに、エリスはキュッと眉を寄せた。
「貴女が謝らなくて、どうするの。ガルシア帝国の皇后となる者が、帝国に損失を与えるなんて」
「皇后には、ならないかもしれないわ」
「えっ?」
「だって、フェリックス様が、わたしの事を気に入ったらしいの。ごめんなさいね、お姉様。また、お姉様のものを取ってしまって」
「…………」
「やだ、そんな怖い顔しないで。だってしょうがないじゃない。向こうが勝手に、わたしに好意を持つんだから」
「……そんな戯言を、信じろと?」
「戯言なんかじゃないわ。だって、ダンスの時にやたらと身体を触ってきたし、ここでお話ししているときは、ずっとわたしの胸を見ていたし。そうそう、結婚はまだしていないのだろうと、改めて確認されたわ。そして、ドレスを贈って下さるそうよ」
僅かにだが、エリスの目が動揺し揺れたのを見逃さず、シャルロットはクスクスと笑った。
「ここの特産の藍染のドレスだそうよ。お姉様が着ている、それと一緒でしょ? 地味なお姉さまには似合っているけど、わたしは地味で好きじゃないのよね。でも、フェリックス様がどうしても、っておっしゃるのだから、着てあげてもいいわ」
「…………」
「ねえ、わかったでしょう? フェリックス様は、わたしの事が好きなのよ。だから、わたしがこの国に残って、フェリックス様と結婚してあげる。お姉様は、アレクシ様とガルシアに戻ればいいわ。そして、大切なガルシアの為に、精々努力すればいい。喜びなさいよ。大切なアレクシ様を、返してあげるんだから」
そう言うとシャルロットは席を立ち、笑いながら室内に入って行った。
ガルシア帝国の事を放っておけないエリスの厚意を、この妹はっ!




