ダンス
当たり前の事のように絡められたシャルロットの腕を、ほどきたくなるのを堪えたアレクシだったが、フェリックスとエリスの前まで行くと、どうしても恥ずかしくなり、挨拶にかこつけてほどいた。
「ガルシア帝国皇太子、アレクシ・ガルシアです。フェリックス陛下、この度は戴冠式へご招待いただき、ありがとうございます」
「アレクシ皇太子殿下、来ていただいて感謝します」
表面上、にこやかに挨拶が交わされたが、
「噂には聞いておりましたが、驚きましたわ、お姉様」
シャルロットの言葉に、アレクシはギョッとしてエリスを、そしてフェリックスを見た。
その言い方は『会えて嬉しいです、良かったです』ではなく『まだ生きていたなんて』というように感じられたからだ。
『姉に対してとはいえ、なんて失礼な言い方を』と慌てたのだが、エリスは全く笑顔を崩さなかった。
「陛下、わたくしの妹の、シャルロット・ルロワです」
「シャルロット嬢、よろしく。アレクシ殿下、彼女は殿下の婚約者、と聞いたが」
「はい、その通りです」
「結婚は、そろそろ?」
「…………」
アレクシは笑顔をつくるだけで明確な回答は避け、シャルロットはその事に顔を顰めた。
「……アレクシ様、お姉様とダンスしたらいかがですか?」
「なっ、何を言うんだシャルロット」
突然の提案にうろたえるアレクシに、シャルロットは『だって』と、すまして答えた。
「だってアレクシ様、ずっとお姉様の事を見てらしたじゃないですか。元は婚約者なのですし」
「シャルロット!」
アレクシは強い口調でシャルロットの言葉を遮ったのだが、
「……まあ……いいだろう。勿論、エリスが良ければの話だが」
意外にもフェリックスがそう言い、エリスは『ええ、では』と席を立った。
そして、戸惑いながらも差し出したアレクシの手に、スッと手を乗せた。
「……あの……フェリックス陛下?」
「ん? シャルロット嬢、なにか?」
許可したものの、少し後悔しながらフロアの中央へ向かう二人を見ていたフェリックスは、その場にとどまっているシャルロットを、不思議そうに見た。
「あの……アレクシ様がお姉様と踊っている間、わたくしはどうすれば良いでしょうか」
その言葉に、フェリックスはイラッとする。
『おいおい、どうすればって……そんな事言うなら勧めなきゃ良かっただろうが!』
まあ、それを言葉にしてはいけないことくらいは承知している。
「あー、では、食事でも楽しんだらどうだ? 菓子も沢山用意している。マルタンの菓子は、味も見た目もとても素晴らしいとエリスが言っていたから、きっと貴女も気に入ると思うが」
「そ……それはとても楽しみですわ」
引きつった笑顔で、シャルロットは言った。
「ですがわたくしも、ダンスがしたいのですが……」
「ああ、そうか。ではサミュエル、お前、お相手して差し上げろ」
「え? ええっ? 私ですか?」
突然の王の言葉に、近くに控えていたサミュエルは驚く。
「えっと……そう、ですねぇ……」
チラリと見ると、シャルロットはこの上なく、不機嫌そうな表情をしている。
「あー……陛下、ここは、陛下がお相手する方が良いかと……」
「えっ? 俺、いや、私が? しかし私はエリスとじゃないと、上手く踊れないかもしれないし……」
「まあ! ウフフ、そんな事を心配されていたのですか?」
自分と踊りたくない男性はいないはずなのに、フェリックスはなぜ誘わない、と気分を害していたシャルロットは軽やかに笑った。
「大丈夫ですわ、フェリックス様」
「あー……それなら、ちょっとだけ……」
フェリックスはシャルロットの手を取り、既に踊り始めているアレクシ、エリスを横目で見ながら、ダンスを始めた。
チヤホヤされないなんて、ありえない! って事ですね。




