元婚約者の変貌
『エリスって、あんなに綺麗だったか?』
一年ぶりに見たエリスに、アレクシは胸がキュッと痛くなった。
結い上げた黒い髪、すっと背筋を伸ばした細い身体、長い手足。
品の良い藍色のドレスが美しさを引き立てている。
その横に立つ、長身の王。
母親が平民だと聞いていたが、堂々としたその姿は威厳を感じる。
その若き王がエリスの腰に腕を回し、嬉しそうに、愛おしそうに、事あるごとに彼女を見つめている。
戦争をしたせいで仲が悪いはずのブロケットの王が、にこやかに彼と話をしている。
『それもそのはずだ。あそこの姫とエリスは仲が良かったから。きっとこれからは、ガルシアではなくマルタンがブロケット国の友好国となるだろう』
それまで静かに演奏されていた音楽が大きくなった。
王と婚約者のダンスのようだ。
エリスの手を取りフェリックスが広間の中央に進み出ると、客人達は壁際へと下がった。
ゆっくりと滑らかにダンスが始まる。
長身の二人のダンスは動きが大きく、優雅で、ターンするたびにエリスのドレスの裾が大きく広がり、大輪の花が咲いたかのようだった。
ダンスが終わり、大きな拍手の後、客人達が踊り出した。
フェリックスとエリスは席に着き、顔を近づけて言葉を交わして笑い合っている。
『……どうして、エリスの隣にいるのが僕じゃないんだ……』
正直、アレクシは悔しかった。
他国の王族とにこやかに交流し、注目を集め、パートナーと本当に楽しそうに会話をしている。
『なぜ、僕があそこにいないんだ? 小さな頃からエリスと一緒にいたのは僕なのに! エリスはずっと、僕のために努力していたんだ。勉強も剣術もマナーも、僕を助けるために、僕の横に並び立つために。それなのにどうして僕じゃなくあの男の横にいるんだ。なんで僕にも見せた事のないような笑顔で、あの男と話しているんだ!』
「アレクシ様!」
名前を呼ばれ、アレクシはハッと我に返り横を見た。
「アレクシ様、挨拶に参りましょう」
「あ、ああ、そうだな」
隣にいるのは、輝く金の髪を大きく盛って結い上げ、ガルシアで流行しているピンクのドレスを身に着けたシャルロットだ。
色白で、小柄で、華奢だが胸は大きい。
胸元が大きく開いたデザインのドレスから、白い胸がこぼれ出しそうに盛り上がっている。
アレクシが夢中になった姿が、そこにはあった。
けれど。
『……こんなだったか?』
そう感じてしまった事がとてもショックだ。
『あんなに美しくて、可愛くて、愛らしいと思って、どうしてもどうしても自分のものにしたくて、無駄な戦争をしてエリスを排除して、手に入れたのが、この?』
幸せそうに微笑んでいる姉の姿を悔しそうに睨んでいるその顔は、とてもじゃないが、そんな犠牲を払ってまで手に入れたかったものとは思えない。
エリスと比べ、品が無く、教養が無く、愚かにさえ見えてしまうのだった。
自分のものじゃなくなった途端に、良く見えてくる。




