姉の変貌
『あれが、お姉様?』
一年ぶりに見た姉の姿に、シャルロットは思わず唇を噛んだ。
戴冠式の二日前、すでに城に入っている貴賓を招待しての夜会が催された。
そこで見たエリスは、艶やかな黒髪を結い上げ、藍色のドレスで登場した。
首元と耳には、大きな紫の宝石が輝いている。
『以前より、美しく見えるわ。いい化粧師と髪結いを雇っているのね。あの宝石も、わたしのより大きいわ』
購入してこっぴどく叱られた真っ赤なスカーレットの首飾りが、負けている事に腹が立つ。
『でも、わたしのドレスの方がピンクで華やかだし、胸元も開いていて目立つわ。わたしの金色の髪は光輝いているし、多少綺麗に見えるようになったって、わたしの方がずっとずっと美人だわ』
そう思いながら、エリスの隣に立つフェリックス王を見て、扇子で口元を隠しながら『ほぅ』と小さくため息をついた。
『なんて素敵な王様なのかしら』
エリスと同じ藍染の絹地で作られたマルタン王国の正装がとてもよく似合っている、若く、凛々しく、美しい王から目が離せなくなる。
自分の隣に立つ婚約者と比べると、なんと貫禄があることか。
『アレクシ様はまだ皇太子だから、仕方がないのかしら。でも、あの容姿は本当に素敵。母親が平民だと聞いたから、もっと平凡な姿を想像していたけれど……あの方の横に並んでいるから、お姉様も立派に見えるのね、きっと』
楽団が音楽を奏で、飲み物が運ばれ、テーブルにはたくさんの料理やデザートが並んでいて、皆、思い思いに好きな物を手に取り楽しんでいる。
「エリス! おめでとう!」
早速、二人の元に向かった女性に、シャルロットは見覚えがあった。
「まあ! アナスターシャ様! 遠い所いらしていただいて本当にありがとうございます。それに、急な願いにもかかわらず、素敵なレースを沢山ご用意いただいて……本当に感謝致します」
「いいのよ、エリス。エリスはずっと前から、結婚式ではブロケットのレースを使いたいと言っていたでしょう? 約束を守ったまでよ。ああ、それにしても、本当にエリスが無事で良かったわ。マルタン王国に行ってしまったという話を聞いてから、どのようにしているか全くわからなくて、本当に心配したのよ!」
「ご心配をおかけして申し訳ございません」
頭を下げたエリスの手を両手で包むように握り、アナスターシャ姫は首を横に振った。
「ああ、謝らないで! 謝って欲しいわけじゃないの! 本当に嬉しいのよ、幸せそうなあなたの姿を見る事ができて。それにあなたはもうこの国の王妃なのだから、わたくしにそんな改まった言葉で話す必要はないわ。ナーシャ、と気軽に呼んでちょうだい。ねっ」
「それでは、まだ慣れないから徐々に……本当にありがとう、ナーシャ様」
少し前、自分がレースを貶した国の姫が嬉しそうに姉と話しているのを、シャルロットはイライラしながら眺めた。
その横では、姫の父であるブロケット王とフェリックスがにこやかに握手をしている。
「陛下、この度は本当にありがとうございます。戦争後、ブロケット国との交易は停止していたので失礼かとは思ったのですが、どうしても王妃の願いを叶えてやりたくて……」
「気にする事は無い。王が変われば付き合い方も変わる。それにちょうど、ある国との交易を停止していたので、レースの在庫に余裕もあったのでね」
「うちのレースは、流行遅れと言われたので。ねぇ、お父様」
顔をしかめてそう言ったアナスターシャ姫に、エリスが驚いたように尋ねた。
「まぁ、その方はブロケットのレースで飾った花嫁衣裳を身に着ければ幸せになれるという伝承を、知らなかったのかしら……女性達に恨まれているでしょうね」
エリスの言葉に、姫は『ウフフ、どうかしら』と笑いながら、チラリとシャルロットを見た。
『……ムカつくわ、あの女』
プイッと横を向き、アレクシの方を見ると、手にしたグラスの酒に口もつけず、ぼんやりとエリスの方を見ている。
『……まったく、ムカつく』
シャルロットはイライラしながら甘く薄いピンクの果実酒を、苦い薬でも飲むかのような顔で飲んだ。
姉の幸せが癪に障るようで。




