思惑
「マルタン王国の王都って、立派ですわね」
「お祭り騒ぎで飾り立てているから、いつも以上に華やかに見えるんだろう」
馬車の中から夢中で外を眺めているシャルロットに、アレクシはそっけなく答えた。
「小さな女の子は皆、ピンクの大きなリボンをつけているけれど……なにか意味があるのかしら」
「……さあ……」
気のない返事をするアレクシに、シャルロットはそっとため息をついた。
『まったく……気も利かないし、つまらない男。このわたしが話しかけているのに、なんなの? その返事。でもまあ、勉強漬けにされているよりはマシね。新しいドレスも沢山作ったし、楽しまなくちゃ。それに……マルタン国王と結婚するというのが本当にお姉様かどうか、この目で確かめないと』
一方アレクシは『観光気分で気楽なシャルロットとは、話をする気にならない』と思いつつため息をついた。
『一時は反省したと言ったけれど、結局のところ、なんやかんやと理由をつけて、勉強もしないし慎み深くも思慮深くもならない。シャルロットは駄目だな。それより、エリスが生きていたというのは本当だろうか。それが事実であるなら、どうにかして連れ帰らないと……』
『その情報』は、ブロケット王国に謝罪に訪れた使節団が持ち帰った情報だった。
「今度行われるマルタン国王の結婚式で、花嫁が身に着けるドレスに、ブロケットのレースが大量に使われるそうです」
マルタン王国が戦争を仕掛けたせいで、両国の交易はうまく行っていないと思われていた。
それがなぜ、と不思議に思い尋ねたところ『お妃様となられるお方の強いご希望で』との回答で、更に詳しく尋ねたところ、
「なんと、王妃になられるのは、あの、エリス様だというのです!」
「エリス……エリス・ルロワか?」
「はい、そうです!」
その言葉に、皇帝をはじめ、ガルシア帝国の重臣達は驚愕した。
「招待状を持ってきたマルタン王国の使節団は何も言っていなかったぞ? 間違いではないのか? 侯爵、何か情報は入っていないのか?」
皇帝の問いに、父親であるルロワ侯爵は驚いたように首を振った。
「私の所には何も……初耳です」
皇帝は顔を顰めた。
「そもそも、エリス嬢がまだ生きていると? 『王殺し』の罪で処刑されたはずでは?」
大騒ぎになり、協定書を確認した結果、エリス・ルロワの引き渡しとの記載はあったが、その後の彼女の処遇は一切記載がなかった。
そして、婚約者や親でさえ、引き渡した後どうされるのか、一言も言及していなかったのだ。
「……しかし、まさか王妃として迎える為だとは……」
「てっきり、処刑かと……」
マルタン王国使者団はとっくに帰った後だ。
他国から聞いた事を、使者を出して尋ねる事もできず、結局は実際に式典に参加して確認するという事になった。
そしてその事を聞いてから、アレクシには、どうにかしてエリスを取り戻したいという考えが芽生えた。
『調べたところ、マルタン国王の母親は平民だという。そのせいで、自国では王妃となる令嬢が見つからなかったとか、そういう事なんだろうか。それとも、もしかしたら我が国に対しての嫌がらせか? 交渉次第で、返してもらえる?』
態度を改めると誓ったシャルロットだったが、その後もあまり変化は見られなかった。
少しは大人しくなったものの、なんやかんやと理由をつけてはあまり勉強をしていないし、他の令嬢に対して見下した態度をとるのは変わらないし、皇后と表面上は仲良くしているが、自分と二人きりになると文句を言ってくる。
そしてその事は、アレクシにとって大きなストレスとなっていた。
『マルタンのフェリックス王が、シャルロットの事を気に入ればいいのだけれど……』
突拍子もない事だが、かつて自分がそうだった事を思うと、あながち、無い事とも言えないような気がしてくる。
『最初のうちは本当に美しい容姿で、可愛らしい性格だと思ったんだ。彼女の社交界デビューは衝撃的だった。若い貴族達は皆、彼女との交際を望んだ。フェリックス王も、シャルロットに夢中になるんじゃないだろうか。そしたら、エリスと交換すればいいんだ。そうだ、そうしよう』
そんな都合の良い考えのもと、シャルロットが望むだけ新しいドレスを作らせ、宝石や靴を買い、髪結いと化粧師を連れ、皇太子アレクシを代表としたガルシア帝国の使節団はマルタン王国へ入ったのだった。
自分に都合がいいように考えてるけど、そんなわけないでしょう。




