甘え 2
シャルロットは、着飾っていた。
流行りのドレス、髪型、化粧、そして美しい宝石。
昨日、嘘泣きをして擦った目の腫れも、とっくに引いている。
それなのに、
「私は、君一人で好きに買い物をしていいなんて言った覚えはない! しかも、あんな高い宝石を独断で買うなんて、非常識にも程がある!」
美しく愛らしい自分に対し、昨日の父親と同じように怒っているアレクシに、シャルロットは困惑していた。
「どう思っているのか知らないけれど、君は私の婚約者だ。まだ皇太子妃でもない。それなのに、君の振る舞いはまるで、皇后にでもなったかのようだと言われているぞ。しかも皇后だって、他国の姫や令嬢達を侮辱したり、自分のやるべきことを放棄したりしないからね!? エリスがやっていたように、なぜ出来ない!?」
「そ、そんな……お姉様と比べるなんて!」
両手で顔を覆い、泣き出したシャルロットに、アレクシは怒りを鎮めようと口を噤んだ。
「……悪かった、つい……」
まだまだ言い足りないが、泣かれては仕方がない。
「……しかし、父上や母上からも注意を受けている。もっとしっかりしてくれないと、皇太子妃にはなれないぞ」
「で、でも、わたくしは、小さい頃から皇后となるべき教育を施されたお姉様とは違います」
「だからこそ、今から必死にやらなければならないのでは?」
「そ、そんな……」
嘘泣きをしながら、シャルロットは心の中で憤慨した。
『なによ! 美しいわたしは、その場にいるだけでいいんじゃないの!? みんな、わたしのご機嫌をとって、わたしに声を掛けてもらうだけでも有難い事だと思うんじゃないの!?』
「ブロケット国の姫君と、悪口を言った令嬢達に謝罪をし、母上を手伝って孤児院の資金集めのバザーを成功させるんだ。皇太子妃になるための勉強にも真剣に取り組むように。それから、今後請求書をこちらに送るつけるのは禁止だ。毎月の手当は半分に減額する」
「そんなっ! アレクシ様はわたくしの事を愛していないのですか!?」
「愛しているから言っているんだ! そうしなければ、婚約破棄になるくらいのところまできているのだ! むしろシャルロットに尋ねたい。君は私の事を愛していないのか? 私の事を愛しているのなら、私の為にそれくらいの努力はできるだろう!? どうなんだ!?」
「わ、わたくしは……」
『そんなの、イヤ! なんでわたしがそんな事しなくちゃいけないの? こんな事なら、皇太子妃なんてなりたくない! そうよ、婿を迎えて、家で好きに暮らす方がずっといいじゃない! お母様は、ドレスや宝石を買って、パーティーやお茶会に出席しているだけよ? わたしだってその方がいい!』
シャルロットは後悔した。
皇后の姉を持ち、その権威を笠に着て生きていく方が、どんなに良かっただろう。
『こんな苦労をしなきゃいけないなんて……じゃあもういっその事、婚約を破棄する? でも、皇太子と婚約破棄をして、わたしはちゃんと、身分の高い貴族と結婚できるの? それに今、わたしの取り巻きになっているあの女達は醜聞が大好きだわ。わたしの事を、皇太子に捨てられたとか、好き勝手に噂するんじゃないの? イヤよ! そんなの! せっかくわたしが一番になったのに!』
「……アレクシ様、わたくし、アレクシ様の仰る通りに致します。だってわたくし、アレクシ様の事を、本当にお慕いしているんですもの」
「シャルロット……良かったよ、そう答えてくれて。私もシャルロットを愛しているよ。二人で力を合わせ、帝国の為に良い皇帝と皇后になろう」
「はい、アレクシ様」
『……とりあえず、今はこれでいいわ……』
アレクシに抱きしめられながら、シャルロットは自分を納得させるため、心の中で呟いた。
『皇太子妃になれば、そして皇后にさえなれば、わたしに逆らい、意見する者など全て排除できるのだから。そうよ、きっと公爵様が手伝って下さるわ。マルタンと戦をして、お姉様を戦死させればいいと教えてくれたあの人。いつでも力になると言ってくれたもの……』
典型的な『利用しやすい者』ですね。そして『ガルシア帝国』終わりです。




