立ち聞き
トマの話は、興味深かった。
俺が普段見ている、優しくて、聡明なエリスの別の顔。
軍では、認められ、馴染む為に、わざと粗野な振る舞いもしたんだろう。
そういえば、初めてエリスを見た、戦場でのあの姿。
間違いなく彼女は、剣を握って戦っていた。
戦いの女神かと思った、壮絶で美しい姿。
エリスは、なんでも一生懸命なんだな。そして、ずっとずっと、努力し続けてきたんだ……。
「ところで、トマ遅いですね」
サミュエルが、テーブルの上の酒瓶を、酒が残っていないか振ってみながら言った。
「ああ、そういえば……」
「ちょっと見てきますね」
サミュエルは部屋を出て行き、俺は一人で待っていたんだけど……二人ともなかなか帰ってこない。
「なにしてるんだ? 俺も行ってみるか……」
部屋を出ると、部屋の前に警護の兵二名が立っていた。
「トマとサミュエルは、どっちに行った?」
「あちらです。厨房へ行ってみると仰ってました。様子を見て参りましょうか」
「いや、俺が見てくるからいい」
「では、厨房までご案内致します」
「ん」
本当は一人でいいんだけど、護衛としてはそれを許可できないだろうからな。
俺は兵の一人と厨房を目指した。
「あそこです。あ、入り口にお二人がいらっしゃいますね」
「ホントだ、何やってんだ、あの二人」
さっさと中に入って酒をもらってくればいいものを。
「おい! お前達何やって……」
少し離れた所から声をかけたら、二人は慌てたように手を振ってきた。
『声出さないで! 静かにこっち来て!』
というような仕草だ。
不思議に思いながらも、俺達はソロソロと近づいた。
「……何しているんだ?」
「こいつの事を話しているんです」
トマの事を指さしながら、サミュエルが小声で言う。
一瞬ちょっとだけ中を覗くと、エリスとローラ、領主の母、妻、娘が、ワイワイとお菓子作りをしていた。
……うん、これは面白そうだ。
俺は護衛兵に『見張ってろ』と小声で指示し、二人と一緒に戸口の陰で耳を澄ませた。
「ですから本当に、何も言われていないんです」
ローラの声だ。
「色々良くしてくれますが、それはあくまでも、エリス様に仕える同僚としてかと……」
「えー? それは違いますよ、ローラさん。夕食の時もローラさんのことばっかり見てましたし、合って間もないわたしでも、トマさんはローラさんの事が好きなんだろうなと気づきましたよ。ねっ、お母様」
「う~ん、そうねぇ……まあ、そんな感じは受けたけれど……エリス様は、どうお考えですか?」
「わたしはリアーナさんと同意見だわ。トマは、ローラの事が好きよ。でも、何も言っていないなんて……なにやってるのかしらね、トマったら」
ああ、なるほど。
酒をもらいに来たら自分の話がされてて、思わず立ち聞きしていたトマのところにサミュエルもやって来て、二人で聞いてたってわけね。
「ローラさんはどう思ってらっしゃるんですか? だってエリス様を追いかけてマルタン王国へ行く間、二人で旅をしたわけでしょう? その間に、恋心とかは……」
「あの時は、それどころでは……もう、毎日泣きながら旅をしていて……まあ、でも、その間ずっと励ましてくれましたし、なんといってもエリス様の事を『素晴らしい隊長です!」と言っていたから、いい人だな、とは思っていましたけど……」
「では、今はどうなの? ローラはトマの事を、どう思っているのかしら?」
エリスの問いかけに、こちら、盗み聞き集団の方にも緊張が走る。
「……どう、でしょうか……」
なんだよー。
俺達は声を殺しつつため息をついた。
興味津々!




