エリス隊長
「そうですねぇ……」
少し考えてから、トマは言った。
「社交界での事はわかりませんので、軍での事になりますが……『戦いについて何も知らない女が来た』と思ったのは、最初のうちだけでした。エリス様は『こんなのできない』『怖い』『嫌だ』そんな、貴族の女性が言いそうな事は一切言いませんでした。鎧を身に着け、酒も瓶から直接飲んだし、隊員達と回し飲みもしたし、我々男となんら変わりなく過ごされました」
あんなに美しく、完璧なマナーで食事をするエリスが、瓶から直接酒を?
「そして、とにかく強かったです。異国の者から指導を受けたそうで、動きが我々とは違うので予測ができないのです。そして、徹底して急所を的確に攻めてきます。動きがとても速く、体勢を崩したところをすかさず突いてきて……最初のうちは『女の隊長なんて認めない』と言っていた部隊の兵達も、剣の訓練でことごとく敗れて、認めざるをえなくなりました。私もそのうちの一人です」
「へぇ、最初からすんなり受け入れられたわけではないんだな」
「命を懸けて戦うわけですから、戦えもしない女性に従うのは嫌でした。でも、実際剣を交えてみたら、強かったんですよね、めちゃくちゃ……」
がっくりと、肩を落として言うトマ。
「で、剣では勝てないと悟った俺達は、ある晩、エリス隊長を腕相撲に誘いました。まあ、本気でやるつもりはなくて『力ではちょっと』と困って断る姿を見たかっただけなんですが、隊長は『喜んで』と言って、一番の怪力の男と対戦したんです」
「うわ、それはさすがに……むしろ情けないと思わなかったのか? お前達」
「いや、そうなんですけど、その時は酒も飲んでいたもんで、『生意気な女をギャフンと言わせたい』という雰囲気が強くて……ですが、結果から言いますと、エリス隊長が勝ったんです」
「はっ? その対戦相手がベロベロに酔っていたとか?」
「いえ。隊長は、なんか変な技を持っていまして。隊長と手を組むと親指の付け根のあたり押されるんですよ。そうすると、腕に電気が走ったみたいに痺れたり、組んだ手に激痛が走ったり、力が出なくなったりするんです。たぶんそれも、異国の体術の一種かと思いますが、俺達が真似してみても、そうはならないんですよね……」
そう言うと、トマはブルッと身震いをした。
いつもは『エリス様』と呼んでいるのに、いつの間にか『隊長』になっているし。
「ですから、陛下は決して、手合わせなどしようとは思われないよう……」
若干青ざめたようなトマを見て、俺は思わず笑ってしまった。
「心配するな、そんな気は無い。練習だろうとなんだろうと、エリスに剣は向けられないからな」
「そうですか、良かった……あれ……? どうしよう……なんだか私、余計な事を言ってしまったような……フェリックス陛下、エリス様の事、嫌いになりませんよね?」
不安げなトマに、俺は『勿論!』と答えた。
「今の話に、エリスを嫌うようなところは全く無い。俺の知らないエリスの事を聞けるのは、単純に嬉しいから」
「それなら、良かったです。エリス様の事を女性らしくないと言って煙たがる男性も多いので……あ、酒がもう無いですね。もらって来ます」
そう言うと、トマは部屋を出て行った。
合気道的な感じ?




