気がかりな事
エリスは努力家だ。
俺ならとっくに諦めるような事を、諦めなかった。
大昔に消滅した『皇帝の紫』の復活。
なにも手掛かりが見つからない状態でも諦めず、探し続けた。
そして、誰も成しえなかった事を、成し遂げたのだ。
「凄い事だと思うよ。尊敬する。そういうところ、大好きだ」
「じゃあ、いいじゃないですか。さっきから同じ事繰り返してますけど、何か気になることでも?」
「いや、なんていうか……うーん……」
サミュエルに問われ、俺は言葉を濁した。
領主家族と一緒に夕食をとった後、俺はサミュエルとトマと一緒に応接間で酒を飲んでいた。
エリスとローラは、領主の母と夫人と娘に雑穀を使ったクッキーの作り方を教えると言ってどっかに行っている。
男三人だけなので、気楽に飲んでいるわけで、俺は昼間に感じたモヤモヤを、言おうかどうしようか悩んでいた。
「いや、いい事なんだけど……けどさぁ……なんか、うーん……」
「どうしたんですか、一体。気になる事があるなら話してみてくださいよ。貴方らしくありませんね、ウダウダと……」
酒が入っているからか、サミュエル、ちょっと無礼だな。まあ、その方が言いやすいから許すけど。
「……なんかさ、これほど必死になったのって、やっぱり婚約者の皇太子の事が好きだったからかなー、なんて思ってさぁ……」
「ああ! 嫉妬ですか」
笑いながらグラスの酒を飲み干すサミュエル。
「お前、面白がってるだろう。君主に対して失礼だぞ!」
「いやぁ、嫉妬だなんて、女性嫌いだったフェリックス様が成長したと思いましてね。私は喜んでいるんですよ。本当ですよ? 本当に……で、えーと? エリス様とガルシア帝国の皇太子様は、幼い頃に婚約したんですよね?」
「ああ、そうらしいけど、詳しい事は聞き難くて……トマはその辺の事知っているか?」
「はい、ローラに聞いた話では5、6歳の頃に婚約をしたらしいです」
「皇太子はエリスよりひとつ年上だったか……お互い、よくわからないうちに決められたんだろうな」
「王族、貴族の婚姻なんてそんなものですよ。大人が、自分達の都合で決めるんです」
「だよな」
家同志の繋がり、権力の均衡、地位の安定……子供なんて親の駒にすぎないから、あっちにやったりこっちにやったり、場合によっては使い捨てたり、切り捨てたり。
そんな事をされた子供も大人になれば、親と同じ事をして家を守る。
「私も似たようなもので、妻と婚約したのは10歳でした。私は彼女の事が気に入っていますし、愛していますが、それだけではなく、こう……運命を共にする同志、というような感情を強く持っていますね」
「へーぇ、運命を共にする同志、か」
「はい。助け合っていかなければならないパートナーです。大人になる前の婚約ですので、相手がきちんとした人間に成長するよう、互いに監視していた感がありますね。だって、ちゃんとした人と結婚したいじゃないですか」
「ハハッ、まあ、そうだよな。我が儘だったり、周りからの評判が悪いのは嫌だな」
「そうそう。ですから我々は、幼い頃から相手の事を思い、気にかけ、困っていたら助けあってきました。エリス様もそうじゃないですかね? 皇太子様が好きだから、というより、自分の為にも偉大な皇帝と認められて欲しいと願ったのでは?」
「うーん……そうかもな……」
そういえば初めて対面したとき、『好きだった時もあったけど、今はそういうわけではない』的な事言っていたな。
「とにかく現在、エリス様はフェリックス様の婚約者です。大丈夫ですよ、フェリックス様は性格も見た目も良いですから、ちゃーんと好かれていますよ。なあ、トマ?」
「はい。エリス様は今、本当に幸せそうです! それにエリス様は背が高いので、皇太子様よりフェリックス陛下と並んだ方がお似合いです」
おっ、嬉しい事を言ってくれるじゃないか。
俺は、顔がにやけるのを必死に堪えた。
「……エリスが幸せなら、それが一番だ。ところで、皇太子は背が低いのか?」
「高くはありませんが、普通ですね。皇太子様が低いというより、エリス様の背が高いんですよ。剣や体術を習ったせいでしょうか」
「あー、そう言われてみると、そうか……なあトマ、あとなんか、エリスの話はないか?」
知らないエリスの話が聞けるかも、と、俺は身を乗り出して尋ねた。
好きなので気になってしまう、ってヤツですね。




