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マルタン王国の魔女祭  作者: カナリア55
フェリックス・マルタン

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37/79

気がかりな事

 エリスは努力家だ。

 俺ならとっくに諦めるような事を、諦めなかった。

 大昔に消滅した『皇帝の紫』の復活。

 なにも手掛かりが見つからない状態でも諦めず、探し続けた。

 そして、誰も成しえなかった事を、成し遂げたのだ。


「凄い事だと思うよ。尊敬する。そういうところ、大好きだ」

「じゃあ、いいじゃないですか。さっきから同じ事繰り返してますけど、何か気になることでも?」

「いや、なんていうか……うーん……」


 サミュエルに問われ、俺は言葉を濁した。

 

 領主家族と一緒に夕食をとった後、俺はサミュエルとトマと一緒に応接間で酒を飲んでいた。

 エリスとローラは、領主の母と夫人と娘に雑穀を使ったクッキーの作り方を教えると言ってどっかに行っている。

 男三人だけなので、気楽に飲んでいるわけで、俺は昼間に感じたモヤモヤを、言おうかどうしようか悩んでいた。


「いや、いい事なんだけど……けどさぁ……なんか、うーん……」

「どうしたんですか、一体。気になる事があるなら話してみてくださいよ。貴方らしくありませんね、ウダウダと……」


 酒が入っているからか、サミュエル、ちょっと無礼だな。まあ、その方が言いやすいから許すけど。


「……なんかさ、これほど必死になったのって、やっぱり婚約者の皇太子の事が好きだったからかなー、なんて思ってさぁ……」

「ああ! 嫉妬ですか」


 笑いながらグラスの酒を飲み干すサミュエル。


「お前、面白がってるだろう。君主に対して失礼だぞ!」

「いやぁ、嫉妬だなんて、女性嫌いだったフェリックス様が成長したと思いましてね。私は喜んでいるんですよ。本当ですよ? 本当に……で、えーと? エリス様とガルシア帝国の皇太子様は、幼い頃に婚約したんですよね?」

「ああ、そうらしいけど、詳しい事は聞き難くて……トマはその辺の事知っているか?」

「はい、ローラに聞いた話では5、6歳の頃に婚約をしたらしいです」

「皇太子はエリスよりひとつ年上だったか……お互い、よくわからないうちに決められたんだろうな」

「王族、貴族の婚姻なんてそんなものですよ。大人が、自分達の都合で決めるんです」

「だよな」


 家同志の繋がり、権力の均衡、地位の安定……子供なんて親の駒にすぎないから、あっちにやったりこっちにやったり、場合によっては使い捨てたり、切り捨てたり。

 そんな事をされた子供も大人になれば、親と同じ事をして家を守る。


「私も似たようなもので、妻と婚約したのは10歳でした。私は彼女の事が気に入っていますし、愛していますが、それだけではなく、こう……運命を共にする同志、というような感情を強く持っていますね」

「へーぇ、運命を共にする同志、か」

「はい。助け合っていかなければならないパートナーです。大人になる前の婚約ですので、相手がきちんとした人間に成長するよう、互いに監視していた感がありますね。だって、ちゃんとした人と結婚したいじゃないですか」

「ハハッ、まあ、そうだよな。我が儘だったり、周りからの評判が悪いのは嫌だな」

「そうそう。ですから我々は、幼い頃から相手の事を思い、気にかけ、困っていたら助けあってきました。エリス様もそうじゃないですかね? 皇太子様が好きだから、というより、自分の為にも偉大な皇帝と認められて欲しいと願ったのでは?」

「うーん……そうかもな……」


 そういえば初めて対面したとき、『好きだった時もあったけど、今はそういうわけではない』的な事言っていたな。


「とにかく現在、エリス様はフェリックス様の婚約者です。大丈夫ですよ、フェリックス様は性格も見た目も良いですから、ちゃーんと好かれていますよ。なあ、トマ?」

「はい。エリス様は今、本当に幸せそうです! それにエリス様は背が高いので、皇太子様よりフェリックス陛下と並んだ方がお似合いです」


 おっ、嬉しい事を言ってくれるじゃないか。

 俺は、顔がにやけるのを必死に堪えた。


「……エリスが幸せなら、それが一番だ。ところで、皇太子は背が低いのか?」

「高くはありませんが、普通ですね。皇太子様が低いというより、エリス様の背が高いんですよ。剣や体術を習ったせいでしょうか」

「あー、そう言われてみると、そうか……なあトマ、あとなんか、エリスの話はないか?」


 知らないエリスの話が聞けるかも、と、俺は身を乗り出して尋ねた。



好きなので気になってしまう、ってヤツですね。

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