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マルタン王国の魔女祭  作者: カナリア55
フェリックス・マルタン

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33/79

キスサス視察

 キスサス地方。

 山と川と温泉と小さなさびれた村。

 栄えていたのは、百年以上も昔。

 ガルシア帝国の首都からも比較的近く、観光地として栄えていたが、首都が移され、観光客が徐々に減り、忘れ去られた地となったという。

 俺の印象としては『温泉がある』という事くらい。

 ただ、この地域だけマルタン王国にコブのように入り込んでいたので、国境の警備だとか、品物の行き来だとかが面倒で『もらえるんならもらっておこう』という感じだったけど。


「……もらっといて、良かった……」


 王宮から、馬車に揺られる事二日。

 俺達はキスサス地方に着いた。

 今回の視察のメンバーは、俺、エリス、サミュエル、ローラ、トマ、そして護衛兵十名。十日ほど王宮を空けるが、その間は宰相が中心となり頑張ってくれることになった。土産を買って帰らないと。


「エリス様! 見て下さい! 色々な所から煙が!」

「きっとお湯が湧き出ているのよ。凄いわね」


 馬車の中から景色を見て、楽しそうに話をしているエリスとローラ。

 観光地としては廃れてしまったんだろうが、古い建物があり、静かでいい雰囲気の村だ。

 観光地として整えるのもいいけど、王家の静養地としてこのままにしておくのもいいな。

 想像以上にいい場所で、俺は『もらって良かった』と思いながら、馬車の中から景色を楽しんでいた。

 

 そのうち馬車が止まり、外に出た俺達は、背伸びをしたり、肩を回したりした。


「ここが、今回滞在する領主の屋敷です」 


 目の前には、煉瓦造りの大きな屋敷があった。

 古いが頑丈そうだ。

 屋敷の前で並んでお辞儀をしているのは、領主とその家族、そして使用人達だろう。


「ようこそおいで下さいました。私はキスサスの領主のダル・ノーザンです。引き続きこの地域の領主を命じて頂きまして、心より感謝致しております」

「ああ、しっかり頼む」

「かしこまりました。誠心誠意、務めさせていただきます」


 白髪交じりで、中肉中背のノーザンは、緊張した面持ちで頭を下げた。

 まあ、そうだよな。国が変われば、領主を変える事も多いし。俺は、面倒だから変える気はないけど。


「まずは部屋でおくつろぎ下さい、こちらでございます」


 ダル・ノーザンは俺達を屋敷の方へと案内し歩き出した。


「お食事前に、温泉はいかがでしょうか。ここの温泉は疲れを取り、節々の痛みに効きます。肌にもとても良いので、ご婚約者様にも喜んでいただけると……」


 そう言い、エリスを見た領主の、動きが止まる。


「え……」


 恐ろしいものでも見たかのように、目を大きく見開き、唇が震え、


「……エリス様っ?」


 絞り出すかのようにそう言うと、それまで表情を変えずに黙って歩いていたエリスが、クスリと笑った。


「ノーザン卿、お久しぶりです」

「えっ? えっ? 本当にエリス様ですか? ええーっ!?」


 のどかな田舎の空に、ダル・ノーザンの声が響き渡った。


びっくり!

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