嫉妬
サミュエルとエリス嬢と共に宮殿の前庭に行ってみると、二人、囚われた者がいた。
エリス嬢によると、彼女が隊長を務めた隊の隊員と、侍女だという。
まあ、侍女はいい。
問題は、トマ・ユーゴーとかいう男だ。
年齢は二十代半ばくらいだろうか。
ガッチリとした身体つきで、なかなか強そうだ。顔もまあ、悪くない。
どうしてここまで来たか尋ねたら、『隊長をお一人で死なせるわけにはまいりません』なんてほざいている。格好つけやがって!
そしてそんな男の為に、エリス嬢は地面に膝を付き、俺に許しを請うてきた。
くそっ! 気に食わない!
この男、絶対エリス嬢の事が好きで追いかけて来たんだろう。他国の男には渡せないって。
「……トマ、と言ったな、お前に尋ねる。お前、なぜエリス侯爵令嬢を追ってここまで来たのだ。令嬢に、特別な感情でも?」
そう尋ねたら、『人並み外れた技術と戦術で我らを導いて下さったおかげで生き残れました。尊敬する上官です』と答えたけど、それだけのはずがない。
「尊敬する上官だからと言って、それだけの気持ちでここまで来るものか?」
「そう言われましても……戦場で、命を救われましたし……エリス様の働きのおかげで皇太子殿下は逃げ延びることができたのに、こんな扱いは納得がいかなくて……」
のらりくらりと言い逃れする男に、俺は苛ついてきて、ズバリ『お前はエリス嬢の事が好きなんだな!』と尋ねたが、
「いや……その、好きか嫌いかといえば、好きですけど、あくまでもそれは、人として……」
なんて答えてきた。
「偽りを申すな! お前は女性として、エリス嬢の事を愛しているのだろう!」
「いえっ! それは絶対ありません! 皆無です!」
はあっ? なに言ってんだ、こいつ。
「そんなわけないだろう!? こんなに美しく可憐で気品がありすばらしい女性に対して、何も思わないはずが無い!」
「お言葉ですがっ! 美しく気品がありすばらしい方というのは認めますがっ、決して可憐ではありません! 女性とはいえ、部隊では一番強くて、適う者はいませんでした! こんな恐ろしい女とは絶対結婚したくないと、あ……その……わ、私だけではなく、隊の者全員がそう言っておりました!」
え……ええ?
好きな女性に対して、そこまで言うか? 普通。
というか、もしかして……本当に?
エリス嬢を見ると、軽く頷き、
「……陛下、わたくしは隊で、このような事を気軽に言う事も、許可しておりましたので。ですから、どうか……」
そう言って頭を下げた。
……そんな……本当なのか?
「……では、お前は本当に、エリス嬢に懸想しているわけではないのだな?」
念押しに尋ねてみる。
「はっ! 私にも好みというものが……い、いえっ! なんでもありませんっ!」
ええっ? うそ! エリス嬢が好みじゃないって男も、いるのか?
あ、いや、そっか……好みは人それぞれだからな。
ガルシアの皇太子も彼女の妹を好きになったんだし、自分より強い女性ってだけで嫌悪する男もいるだろう。
じゃあ……、
「貴女も、この男の事は何とも思っていないのだな?」
「はい、もちろんです」
そっか……なら、問題ないか。
「……わかった。それではトマ、それから侍女だったという女、お前達は不問に処す。なんなら、雇ってやってもいい」
そうだ、それよりも、早くエリス嬢との話を再開しなくては!
俺はその場の事をサミュエルに任せて、エリス嬢と共に執務室に戻る事にした。
それどころじゃなかった!




