勘違い
浮かれている場合じゃないと気づき、俺は彼女に向き合った。
「さっきサミュエルに聞いたが……エリス嬢は、死を覚悟しているとか……」
「はい、ガルシア帝国を出た時から、覚悟はできております」
やっぱり、そうなのか。
不本意な結婚よりも、死を選ぶと。
「……エリス嬢は、何歳だったか」
「十八でございます」
「十八で死ぬとは……」
「これも運命でしょう」
彼女の瞳には、哀し気な、諦めの感情のようなものが見えた。
俺は、彼女を傷つけると思いながらも、いろいろ質問してみた。
皇太子の婚約者だった事とか、彼を愛していたのかとか、皇太子が戦場から逃げる間の時間稼ぎのおとりにされた事をどう思うか、等。
彼女はそれらに、淀みなく答えた。
すべて仕方のない事で、納得している、というように。
……これが、皇后となるべく教育を受けた者の答えなのだろう。
自分の事よりも、皇帝の事、国の事を優先させるよう教育された者の。
しかし、そんなの辛すぎるじゃないか!
「そなたの妹に、皇太子は入れ込んでいるとの噂も聞いたが、本当の事か?」
「…………」
初めて、彼女が答えに詰まった。
顔を見ると、今にも泣きだしそうな表情だった。
『しまった、言い過ぎた』と思う反面、口では何とでもいえるけれども、心はやっぱりその皇太子にあるんだと思ったら、俺は心底腹が立った。
「そんな男に操をたて、死を選ぶというのか?」
妹の方へ心変わりし、邪魔になったからといって戦場に連れて行き殺そうとした男を、まだ慕っていると!?
「そんな男、もう忘れたらいいじゃないか。そもそも貴族の結婚なんて政略結婚がほとんどだし、そりゃあ敵国の王と結婚するのは嫌かもしれないけど、そんな男よりはずっといいと思うが? ちゃんと和議も結んだし、そもそも、先に攻めてきたのはガルシアの方だし。俺は結婚したら、他の女とどうこうする気は全くないし、側妃は置かないと約束しよう。君が王妃。それ以外無し!」
俺は一気にまくし立てた。
彼女は、心に何も響いていないような顔で俺を見ている。
くっ、だったらこれならどうだ!
「きちんと書類を作成しよう。そうしたら安心して結婚できるだろう?」
「へ、陛下、申し訳ございませんが、その、仰ってる意味が……結婚、とは一体……」
ん?
「えっ? あれ? ガルシアと言い方違うのか? 婚姻? 伴侶? 皇后になって欲しいって言えばわかる」
「ちょ、ちょっとお待ち下さい。あの、わたくし、先王を殺害した罪で処刑されるために、マルタン王国に呼ばれたのではないのでしょうか!?」
…………
「え? ええっ!?」
驚きすぎて思わず立ち上がったとき、扉がノックされてサミュエルが入って来た。
丁度よかった、サミュエルに聞かないと!
「マルタン王国との交渉の時、エリス嬢について何て言ったんだ?」
「何て、って……え、どうでしたかね……『エリス侯爵令嬢をマルタン王国に引き渡すなら、賠償金は減額する』とかでしたか……」
「新王の后として迎えたいとか、そういう事は」
「それは、言いませんでしたけど……いや、どうせあちらは拒否してくるだろうと思って軽く言ったら『解かりました』って即答されて……そういや、どうする気だ、とか聞かれなかったから答えてないか……って、それよりも、怪しい男女を捕えたんです。城に忍び込んでいて……おそらく、エリス侯爵令嬢の関係者かと……」
「わたくしの!?」
驚いたように、エリス嬢が立ち上がった。
それどころじゃないのに!




