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マルタン王国の魔女祭  作者: カナリア55
フェリックス・マルタン

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25/79

緊張の対面

 戦場で見たときよりも、ずっと華奢で美しい女性が、ピンクのドレスのスカートをつまんで、深く頭を下げる。


「エリス・ルロワでございます」


 これまで俺に対する貴族の女性達は、扇子で口元を隠してクスクス笑ったり、わざと聞こえるように悪口言ったりするばかりだったから、こうやってきちんと挨拶されると、その美しい所作に目を奪われるけど……そうだ、ボーっとしていられない。


「エリス嬢、長旅ご苦労。さあ、座って」

「いえ、わたくしはこのままで結構でございます」


 ええっ?

 そんなこと言われるなんて……よし、じゃあこれならどうだ?


「少し話がしたいんだ。首が疲れる、座ってくれ」

「……かしこまりました」


 よーっし、座らせる事に成功したぞ!

 タイミング良く、お菓子も運ばれてきた。

 宮廷菓子職人に最高の材料で作らせた、最高の菓子だ。きっと喜んでくれるだろう。


「日程上、昼食の時間をとれなかったようなので用意させた。飲み物は、お茶でいいだろうか」

「はい」


 そう返事をしたものの、何も手に取ろうとしない。お茶さえもだ。

 え、どうしよう……。


「気に入らなかっただろうか。それなら別の物を用意させるが……あ、毒など入っていないぞ。ほら」


 俺は安心させようと、彼女の前のタルトを食べて見せた。


「お茶も入れ直させよう」

「い、いえ、このままで大丈夫です、いただきます」


 細い指でカップの取っ手をつまみ、口に運ぶ。

 その仕草も気品がある。

 ……こんな細い手で、剣を振るうとはな……。

 よく見ると、あちこちに傷が見える。


「……美味しいです」


 少しだけ、緊張がほぐれたような声にホッとしながら、俺はさっきサミュエルに言われたドレスの事を謝った。


「寸法が合っていなかったようで……いや、それ以前に、古いデザインの物のようで……悪気はなかったのだ、決して。ただ私は、あまりそういう事には詳しくなくて……」

「い、いえ……ご用意下さり、有難く思っております」

「ん、そうか……」


 はぁぁ、優しい!

 今まで会った貴族の女達と全っ然違う!

 しかも可愛い。いや、美人だとは思っていたけど、可愛さもある。ピンクのドレスだから、余計そう感じるのか? というか、そんなに悪くないじゃないか、このドレス。ああ! 彼女が美人で可愛いから、なんでも似合うって事か! ああ、まともに顔を見られない。


「わたくしのような者のために、ありがとうございます。こちらも、いただきます」

「ああ、食べてくれ。口に合うといいのだが」


 銀のフォークを持ち、俺なら一口で食べてしまうような小さなケーキを更に小さく取り、口に運ぶ。


「……とても、美味しいです」


 はあぁぁ、そんな、花がほころぶように微笑むなんて!

 い、いやいや、俺は王なんだから、デレデレしないで威厳をもって話さなければ。


「それは良かった。ああ、夕食も、今日は豪勢な物を用意するように命じておいたから、楽しみにしていてくれ」

「夕食……」


 彼女の表情が変わった。


「ああ。ん? もしかして、長旅で疲れているのか? 今日は早く休みたいか? それだったら無理に一緒に食事をとらなくてもいい。これからいつでも一緒に食べられるし」

「これから、一緒に?」


 怪訝そうな顔をしている。

 ああ、そういえばさっきサミュエルが言っていた。

 彼女は死ぬ気なのかもしれないと。

 敵国の王になど、嫁ぎたくないのかもしれない……。



どうしよう……。

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