到着
今日まで、本当に大変だった。
彼女の部屋決め(俺の部屋の近くにした!)、生活に必要そうな物を揃えさせ(侍女長に任せたから大丈夫なはず)、王宮の掃除をさせ(肖像画がまだまだ残ってる、どうしよう!)、沢山のお菓子を用意させ(食事の方も完璧!)俺はとりあえず身支度を整え(髪も切った)、緊張しながら到着を待っている。
サミュエルに命じて旅の工程をゆっくり目にさせたおかげで、新しいドレスが間に合ったのは良かった。
サミュエルの母上にお願いし、エリス嬢の支度を手伝ってもらう事にしたから安心だ。
俺がデザインしたドレス、気に入ってくれるといいんだけど……。
「陛下、エリス・ルロワ侯爵令嬢が到着されました」
うわ! 来た!
「よし、ここに案内しろ」
「かしこまりました」
しばらくすると、サミュエルが彼女を連れて執務室にやってきた。
「フェリックス陛下、ガルシア帝国のエリス・ルロワ侯爵令嬢をお連れしました」
「ん」
……駄目だ、緊張しすぎて顔が上げられない。
書類を読んでいるふりをして手招きをすると、サミュエルがやって来て小さな声で言った。
「何やってるんですか! 全然準備できてないじゃないですか! 先王の肖像画があちこちにまだありますよ。エリス嬢、それ見て青ざめていましたよ」
「だって多すぎる上に、落ちたりしないようにガッチリ据え付けられてて、取るのに苦労してるんだよ。まあ、やる順番間違えて、上の階から外しはじめちゃったんだけど」
「何やってるんですか! 指示不足ですよ! 戦なら負けてますよ! それにあのドレス、なんなんですか。サイズも合っていないし、私は母に、あんな流行遅れの物を用意するなんてと叱られましたよ!」
「えっ? そうなの? 城に飾ってる歴代の姫達の肖像画の中で、一番可愛いと思ったやつを元に、俺なりにデザインしてみたんだけど……」
「なに余計なことしてるんですか。陛下のセンスが独特すぎるのは、民も知る程ですよ! あーもう、王家専属の衣裳部門に全て任せておけばいいものを……」
そう言われてみると衣裳部の責任者が何とも言えない表情をしていたような気がする。
おかしいならおかしいと、その時言ってくれればいいものを!
「フェリックス陛下、もしかしてその他のドレスとか肌着類とか、それらも貴方が手配したんじゃないですよね?」
「ああ、侍女長に任せたが」
「良かった……エリス嬢はほぼ何も持たずに来ていますので」
「そうか、それは大丈夫。で、彼女の様子はどうだ? 落ち込んだりしているか?」
「そうですね……実は王都に入ってから、国民達の強い要望で、馬車から降りてお姿を見せて下さったのですが……」
「えっ? 歩かせたのか? 長旅で疲れてるだろうに!」
「だってすごかったんですよ、みんな『黒い魔女様』を一目見ようと集まってしまっていて。『一目見るまで帰れない』『見せろ見せろ』とゾロゾロ後をついて来る者も多く、収拾がつきそうになかったのでしかたなく……。で、その時に、女の子が投げたアメ玉が額にぶつかってしまって」
「はっ? 何てことしてるんだよ~!」
「申し訳ございません、それについては後で罰を受けます。で、その女の子ですが、悪気があったわけではなく、純粋に、魔女様にアメをあげたかっただけのようでして。しかしこちらとしては、罰しないわけにはいかないと困っていたところ、エリス嬢が、地面に落ちたアメを拾って食べたんです」
「地面に落ちたアメを?」
「もちろん、紙に包まれてはいたのですが。女の子にお礼まで言ってくださって。おかげで私はその子と母親を罰することなく済んだのですが」
……姿が美しいだけでなく、心まで美しい……。
「それで、有難かったのですが、一応、毒でも入っていたら、と注意したところ『死ぬのが少し早まるだけ』と仰って……」
「それって……死のうとしている、って事か?」
「……そういう事かと……」
「……とにかく、話してみる。ふ、二人で!」
「はい、頑張って下さい」
そう言って、サミュエルは部屋を出て行った。
いざ対面!




