改めて
……うーん、さて、困ったぞ。
執務室に戻り、使用人に新しいお茶を入れさせ、再び二人きりになったわけだけど……どうすりゃいいんだ? これから。
彼女はずっと、処刑されると思っていた。
ということは、さっき一生懸命に言った俺の言葉は、伝わってなかったって事か?
だから、あまり感情のない顔で聞いていたのか。
うーん……。
「何か、誤解があったようだが」
俺は、改めて彼女に伝える事にした。
「私は貴女を、王妃として迎えたいと思っている。決して、処刑しようなどと思ってはいない」
そう伝えると、彼女は驚いたように目を大きくした。
「ですが、わたくしは、マルタン王国の王を手にかけた者です。そのような者が新王と結婚するなど、ありえない事かと」
そっか、まあ、そう思うよな。
だから俺は、大丈夫だという事を説明した。
浪費家で戦争が好きな兄は、あまり民衆に人気がなかった事。
民衆はむしろ、王が変わる事を歓迎している事。
そして、自分はあまり、血筋が良くない事。
彼女は皇太子の婚約者となるくらいだから、血筋はかなり良いんだろう。
話の流れでつい言ってしまったけど、これまでの令嬢達のように、俺を嫌がるかもしれない。
そう思って心配したけれど。
「では、ご苦労もあった事でしょうね……」
そう言った彼女は、とても悲しそうな顔をしていた。
憐れんでいるのではなく、心配してくれているその表情に、俺はなんだか胸が苦しくなった。
「ああ、そんな顔しなくて大丈夫。そういう奴らは剣の稽古にかこつけてコテンパンにしてやったし、そのうち、私の考えに賛同してくれる者も出て来たし」
なんだか泣いてしまいそうな気分になり、慌ててそう言って笑ってみせた俺に、彼女も微笑んでくれた。でもすぐに考え込むような表情になり、『なぜわたくしを王妃にと?』と尋ねてきた。
本当に、不思議そうに。
じっと、俺の目を見つめて。
その黒い宝石のような瞳に、俺は吸い込まれてしまうような感覚を覚えた。
「……それは、その……」
ちゃんと目を合わせて答えなくちゃいけないのに、俺は耐えきれず、目を逸らしてしまった。
「一目惚れです……」
そう言ってから深呼吸をし、ゆっくり視線を戻すと、彼女はこれまでになく驚いた表情で、頬をピンクに染めていた。
「今日、こうやって改めてきちんと対面できて、やっぱりとても美しいと思った。そして、サミュエルからここに来る途中にあった出来事を聞いて、心も美しいとわかり更に好きになった」
ドキドキする。
心臓が口から出るんじゃないかと思ってしまう。
空気が薄い。
初めて戦に出た時より緊張しながら、俺は言った。
「……エリス・ルロワ嬢、どうかこの、フェリックス・マルタンと結婚してくれ。私の妃として、このマルタン王国の為に、一緒に歩んで欲しいんだ」
「……はい」
その言葉に、俺の頭の中は一瞬、真っ白になった。
……今、『はい』って……
「えっ? 本当に?」
「はい、その……わたくしで、よろしければ……」
蕾が、フワッと開くような。
控え目で、愛らしい笑顔。
ああ……なんてことだ。
こんなに素晴らしい事が、現実にあるんだ。
「私は、マルタン王国の王として、この国の事を一番に考えなければならない」
「はい」
「けれどもそれが、貴女の幸せとなるよう、常に貴女の事を思い、大切にすると誓おう」
「それではわたくしは、貴方様を支え、少しでもお力になれるよう尽力する事を誓います。フェリックス様、どうぞ、よろしくお願い致します」
握りしめた彼女の手は小さく細く、でもその手のひらは、長年剣を握ってきた為固かった。
それは彼女のこれまでの努力の証で、とても、美しい手だった。
『この手は、絶対に離さない』
俺は改めて、国王になれて良かったと思ったし、絶対に善い王になろうと思った。
彼女が誇らしく思ってくれるような『善王』と呼ばれるような王になろうと。
……王になって良かった。




