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マルタン王国の魔女祭  作者: カナリア55
フェリックス・マルタン

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28/79

改めて

 ……うーん、さて、困ったぞ。

 執務室に戻り、使用人に新しいお茶を入れさせ、再び二人きりになったわけだけど……どうすりゃいいんだ? これから。

 彼女はずっと、処刑されると思っていた。

 ということは、さっき一生懸命に言った俺の言葉は、伝わってなかったって事か? 

 だから、あまり感情のない顔で聞いていたのか。

 うーん……。


「何か、誤解があったようだが」


 俺は、改めて彼女に伝える事にした。


「私は貴女を、王妃として迎えたいと思っている。決して、処刑しようなどと思ってはいない」


 そう伝えると、彼女は驚いたように目を大きくした。


「ですが、わたくしは、マルタン王国の王を手にかけた者です。そのような者が新王と結婚するなど、ありえない事かと」


 そっか、まあ、そう思うよな。

 だから俺は、大丈夫だという事を説明した。

 

 浪費家で戦争が好きな兄は、あまり民衆に人気がなかった事。

 民衆はむしろ、王が変わる事を歓迎している事。

 そして、自分はあまり、血筋が良くない事。


 彼女は皇太子の婚約者となるくらいだから、血筋はかなり良いんだろう。

 話の流れでつい言ってしまったけど、これまでの令嬢達のように、俺を嫌がるかもしれない。

 そう思って心配したけれど。


「では、ご苦労もあった事でしょうね……」


 そう言った彼女は、とても悲しそうな顔をしていた。

 憐れんでいるのではなく、心配してくれているその表情に、俺はなんだか胸が苦しくなった。


「ああ、そんな顔しなくて大丈夫。そういう奴らは剣の稽古にかこつけてコテンパンにしてやったし、そのうち、私の考えに賛同してくれる者も出て来たし」


 なんだか泣いてしまいそうな気分になり、慌ててそう言って笑ってみせた俺に、彼女も微笑んでくれた。でもすぐに考え込むような表情になり、『なぜわたくしを王妃にと?』と尋ねてきた。

 本当に、不思議そうに。

 じっと、俺の目を見つめて。

 その黒い宝石のような瞳に、俺は吸い込まれてしまうような感覚を覚えた。


「……それは、その……」


 ちゃんと目を合わせて答えなくちゃいけないのに、俺は耐えきれず、目を逸らしてしまった。


「一目惚れです……」


 そう言ってから深呼吸をし、ゆっくり視線を戻すと、彼女はこれまでになく驚いた表情で、頬をピンクに染めていた。


「今日、こうやって改めてきちんと対面できて、やっぱりとても美しいと思った。そして、サミュエルからここに来る途中にあった出来事を聞いて、心も美しいとわかり更に好きになった」


 ドキドキする。

 心臓が口から出るんじゃないかと思ってしまう。

 空気が薄い。

 初めて戦に出た時より緊張しながら、俺は言った。


「……エリス・ルロワ嬢、どうかこの、フェリックス・マルタンと結婚してくれ。私の妃として、このマルタン王国の為に、一緒に歩んで欲しいんだ」

「……はい」


 その言葉に、俺の頭の中は一瞬、真っ白になった。

 ……今、『はい』って……


「えっ? 本当に?」

「はい、その……わたくしで、よろしければ……」


 蕾が、フワッと開くような。

 控え目で、愛らしい笑顔。


 ああ……なんてことだ。

 こんなに素晴らしい事が、現実にあるんだ。


「私は、マルタン王国の王として、この国の事を一番に考えなければならない」

「はい」

「けれどもそれが、貴女の幸せとなるよう、常に貴女の事を思い、大切にすると誓おう」

「それではわたくしは、貴方様を支え、少しでもお力になれるよう尽力する事を誓います。フェリックス様、どうぞ、よろしくお願い致します」


 握りしめた彼女の手は小さく細く、でもその手のひらは、長年剣を握ってきた為固かった。

 それは彼女のこれまでの努力の証で、とても、美しい手だった。


『この手は、絶対に離さない』


 俺は改めて、国王になれて良かったと思ったし、絶対に善い王になろうと思った。

 彼女が誇らしく思ってくれるような『善王』と呼ばれるような王になろうと。



……王になって良かった。

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