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マルタン王国の魔女祭  作者: カナリア55
フェリックス・マルタン

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22/79

『黒い魔女』を王妃に

「ご自分が何を言っているのか、わかっているのですか!?」

「わかってるさ、もちろん」


 そう答えた俺に、宰相が盛大にため息をつきながら首を振った。


「ガルシア帝国の侯爵令嬢を王妃にするなど……しかも、あの『黒い魔女』とは……」

「いいじゃないか。彼女のおかげで、我々は良い国造りができるようになるんだから。ある意味女神だ。彼女は向こうの皇太子の婚約者だっていうから、皇后となるべき教育をしっかり受けているだろう。王妃にピッタリじゃないか」

「しかし陛下、それだったら向こうが手放す訳ないでしょう」

「それが、私が集めた情報によりますとガルシア帝国の皇太子は、婚約者の妹の方を皇太子妃にしたいと思っているらしいのです」


 サミュエルが援護してくれる。


「ですから、和議の条件の一つとして彼女を欲しいと言えば、すんなり了承すると思われますが」

「しかし……」


 みんな、渋い顔をしている。

 俺の味方はサミュエルだけだ。


「そもそも、なぜわざわざ他国の女性を王妃にするのです」


 宰相の言葉に、皆が頷く。


「そうですよ、陛下。自国の女性を王妃にするべきです。相応しい娘がいくらでもいるじゃないですか」

「ええ、その通りです。うちにも年頃の娘が三人もいます」

「うちの娘だって、ちゃんとした教育を受けさせていますよ」

「候補者を選ぶ宴を催しましょう」

「それは良い考えです」


 みんな、わいわいと盛り上がっているけれど、


「私にその気は無い」


 俺はピシャリと言った。


「マルタンの貴族の娘は無理。絶対!」

「なぜです!? そんな我が儘、認められませんよ」

「……そんな事、言えないはずですよ? 宰相」


 サミュエルが、苦笑しながら言った。


「宰相だけではなく、ここにいる皆さんもですが、心当たりがありませんか?」

「心当たりなど……」


 顔を見合せ、みんな首を傾げているけれど、


「そうだろうな。ああいう事は、された側の人間でなければ覚えていないものだよな……」

 

 思わせぶりに、大きくため息をついてみせる。


「ああいう、事とは……?」

「陛下はご自身の、成人を祝う宴での事を仰っているかと……」


 同じくため息をつき、額に手を置き答えるサミュエル。

 よし、いけ! そいつらに言ってやれ! 任せたぞ!


「……六年前、フェリックス様が十五歳になり、社交界デビューでもある成人を祝う宴で、ダンスのパートナーに選ばれていた令嬢が、それを嫌がって控室に立てこもりましたよね。確かお名前は、ヴィクトリア・ゴーティー公爵令嬢……ああ、宰相のお嬢様でしたね」

「うっ……」

「しかもその後、誰でもいいからダンスの相手を、と頼んだのにみんな嫌がって、泣き出す令嬢や、拒否する親もいましたよね。私は全て、記憶しておりますよ?」


 そう言いながらサミュエルが見回すと、その場の全員が目を背けた。


「と、いうわけだ。それにその時だけでなくその前後も、私に対する令嬢方の対応は常に冷たいものでね。『平民の血が流れている者と同じ空間にいたくない』とか『平民として育った者は言葉遣いも行動も品が無い』とか、さんざん言われたなぁ」

「し、しかし、たしかあの時、陛下は誰かとダンスを踊ったはず……」

「あれは私が頼んだんですよ、私の婚約者にね。ちなみに今は私の妻で一児の母ですから、王妃になるのは無理です」

「ああ……そうですか……」


 皆、気まずそうに黙り込んでしまい、俺は思わず吹き出しそうになったけど、グッと堪えて言った。 


「と、いうわけで、この国の貴族の令嬢との結婚は無理だ」

「……わかりました。しかし、本当にガルシアが了承するかどうかはわかりませんからね。向こうが嫌だと言ったら、この話は無しですからね!」

「ああ、それでいいから、和議の条件の一つに入れてくれ」


 こうして俺は望み通り、和議の条件に『エリス・ルロワ侯爵令嬢の身柄の引き渡し』と入れる事に成功したのだった。



いい事とは、こういう事でした。

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