思いがけない、嬉しい事
「綺麗ごとを言うつもりはないが、私は、民がいてこその国だと考えている。だから、兄や兄の取り巻きの貴族達にそう言ったが『卑しい血の者の言う事』と相手にしてもらえなかった。……私の母は、王宮で働く侍女だったからね、平民の」
「さようでございましたか……」
フェリックス陛下の事が、あまりガルシアに伝わってこなかったのは、そういう出生のせいなのかもしれない。
「しかも小さい頃は、母親と一緒に街で平民として暮らしていたんだ。で、八歳になったばかりの頃、四人いた王子のうち三人が相次いで亡くなってしまったから、予備として急遽王宮に呼ばれたんだ」
「では、ご苦労もあった事でしょう……」
「剣やダンスとか、体を使う事は良かったんだけど、勉強やら礼儀作法やらは大変だったよ。周りの貴族やその子供達にも見下されていたしね」
「まあ……」
フェリックス陛下の少年時代を思うと、胸が痛んだけれど、
「ああ、そんな顔しなくて大丈夫。そういう奴らは剣の稽古にかこつけてコテンパンにしてやったし、そのうち、私の考えに賛同してくれる者も出て来たし」
そう、にこやかに微笑まれた。
「つまり兄は、民衆に人気のない王だったんだ。だから、兄が亡くなって私が新王になる事を民は歓迎している。そして、愚王やその取り巻きの貴族達を亡き者にしてくれた隣国の騎士、つまり貴女に感謝する者も多い。もちろん、大っぴらには言えない事だけれど」
そう言われてみれば、沿道にいた人達の対応は優しかった。
周りに兵士達がいるからかと思っていたけれど……。
「でも、そうだとはいえ、なぜわたくしを妃にと?」
わざわざ、わたしを望む理由がわからない。
ガルシア帝国との繋がりを強いものとしたいのであれば、もっと影響力のある令嬢がいるはず。わたしなんて、それこそ厄介者だったわけだし……。
不思議に思い、尋ねたのだけれど、
「……それは、その……」
フェリックス陛下は目を逸らし……、
「一目惚れです」
そう言った。
そして赤くなりながらも顔を上げ、わたしの目を見て続けた。
「今日、こうやって改めてきちんと対面できて、やっぱりとても美しいと思った。そして、サミュエルからここに来る途中にあった出来事を聞いて、心も美しいとわかり更に好きになった。……エリス・ルロワ嬢、どうかこの、フェリックス・マルタンと結婚してくれ。私の妃として、このマルタン王国の為に一緒に歩んで欲しいんだ」
「……フェリックス陛下……」
フェリックス陛下の言葉は、信じられないほど嬉しいものだった。
わたしと同じ『国の為、民の為になる事をしたい』という考えを持っているフェリックス陛下。
どこで見かけたかはわからないけれど、こんなわたしに『一目惚れした』と仰ってくれて、どうやらそれは本当のようで……。
嬉しい。
心の底から、本当に嬉しい。
これまで、愛される必要はないと思っていた。
自分の役割を果たせれば、それでいいと思っていた。
でも今、フェリックス陛下に好意を伝えられ、必要と言ってもらえたことが、とても嬉しかった。
望んでも手に入れられないと諦めていたけれど、わたしは、愛してもらいたかったのだ。
「……はい」
わたしを愛してくれる、この方と一緒にいたい。
そして、力になりたい。
そう思い、わたしはフェリックス陛下を見つめて答えた。
フェリックス陛下が、驚いたようにわたしを見る。
「えっ? 本当に?」
「はい、その……わたくしで、よろしければ……」
「貴女がいいんだ、エリス! ああ、ありがとう。絶対に幸せにする! 辛い思いはさせない。約束するから!」
こうして、処刑されると思っていたわたしは、思いがけなく、マルタン王国で新王の王妃になる事になったのだった。
エリス編、終了です。次回からフェリックス編、よろしくお願いします。




