追いかけて来た二人
「前庭に捕えております」
そう言うルグラン侯爵とフェリックス陛下の後を、わたしは緊張しながら早足でついていった。
誰が捕まったというの?
わたしの関係者?
心当たりはない。一体誰が……。
前庭に出てみると、二人の男女が芝生の上に跪いていた。男性の方は、後ろ手に手を縛られている。
「トマ・ユーゴーにローラじゃない! どうしたの!? なぜここに?」
「エリスお嬢様!」
涙目のローラに、わたしは思わす走り寄り、肩を抱いた。
「あなた、なぜここにいるの?」
「も、申し訳ございません、お嬢様。どうしても、エリスお嬢様の事が心配で……」
「トマ、あなたはなぜ」
「隊長を、お一人で死なせるわけにはまいりません」
「トマ……」
わたしは膝をついた格好のまま、フェリックス陛下を見上げ、事情を説明した。
「この者は、わたくしが率いた隊の一員です。そしてこちらは、わたくしの侍女だった者です。二人とも、わたくしを心配しての行動のようです。どうか、ご慈悲を」
「……トマ、と言ったな、お前に尋ねる」
厳しい表情で、フェリックス陛下が直接声をかける。
「お前、なぜエリス侯爵令嬢を追ってここまで来たのだ。令嬢に、特別な感情でも?」
「エリス侯爵令嬢は、女性でありながら隊長として隊を率いて戦い、その人並み外れた技術と戦術で我らを導いて下さいました。酷い戦場で私が生き残れたのも、エリス様のおかげと思っております」
「だから、特別な存在だと?」
「はい。尊敬する上官であります」
トマのその言葉に、フェリックス陛下は『その言葉を信じろと?』と肩をすくめた。
「尊敬する上官だからと言って、それだけの気持ちでここまで来るものか?」
「そう言われましても……戦場で、命を救われましたし……それにエリス様の働きのおかげで皇太子殿下は逃げ延びることができたのに、こんな扱いは納得がいかなくて……」
「つまり、お前はエリス嬢の事が好きだと!」
きつい口調で尋ねるフェリックス陛下に、トマは、そしてわたしも戸惑う。
「いや、その……好きか嫌いかといえば好きですけど……あくまでもそれは、人として……」
「偽りを申すな! お前は女性として、エリス嬢の事を愛しているのだろう!」
「いえっ! それは絶対ありません! 皆無です!」
きっぱりと否定するトマに、フェリックス陛下は怒鳴るように言った。
「そんなわけないだろう!? こんなに美しく可憐で気品がありすばらしい女性に対して、何も思わないはずが無い!」
「お言葉ですがっ! 美しく気品がありすばらしい方というのは認めますがっ、決して可憐ではありません!」
フェリックス陛下につられて、トマの声も大きくなる。
「女性とはいえ、部隊では一番強くて、適う者はいませんでした! こんな恐ろしい女とは絶対結婚したくないと、あ……その……わ、私だけではなく、隊の者全員がそう言っておりました!」
物凄い形相のフェリックス陛下に対しそう言いわけし、トマは地面に額を付けた。
『本当か?』と言うように、わたしの方を見るフェリックス陛下。
まあ……自分で肯定するのもなんだけれど……、
「……陛下、わたくしは隊で、このような事を気軽に言う事も許可しておりまして……確かに、皆そう言っておりました」
さすがに言い過ぎと思うけれど、庇わなければいけないだろう。
「ですから、どうか……」
そう言って頭を下げると、フェリックス陛下は少し考えこむようにあごを撫でていたけれど、
「……では、お前は本当に、エリス嬢に懸想しているわけではないのだな?」
念を押すように、そう尋ねた。
「はっ! 私にも好みというものが……い、いえっ! なんでもありませんっ!」
……トマ……正直すぎでしょう……。
「……エリス嬢」
「はい、陛下」
名前を呼ばれ、わたしは苦笑しながらトマを見ていた視線を、フェリックス陛下に向けた。
「貴女も、この男の事は何とも思っていないのだな?」
「はい、もちろんです」
「……わかった。それではトマ、それから侍女だったという女、お前達は不問に処す。なんなら、雇ってやってもいい」
「えっ?」
「雇うって……」
「詳しい話は後だ。とりあえず、そこにいるサミュエル侯爵の指示に従っていろ。ではエリス嬢、話の続きを」
「は、はい」
心配だけれども二人を残し、わたしはもう一度、王の執務室へ戻った。
トマ『こっそりと隊長の見送りに行って、ローラさんに会いました』
ローラ『エリス様に頂いたお金で、後を追いかける事ができました!』




