新王
ザワザワしている王宮の回廊を、ルグラン侯爵の後に続いて進む。
「先王の肖像画が百枚以上飾られていたもので」
使用人達が忙しそうに作業しているのを見つつ、ため息交じりにルグラン侯爵が言う。
「今、片付けさせているんですが、なかなか終わらなくて」
「そうですか……」
ゴテゴテと装飾が施された金の額縁に入った肖像画が、床の上に大量に積まれている。
……わたしが殺した、マルタン先王の肖像画。
金色の髪に、つり気味の細い目、薄い唇。
残忍な笑い方をする人だった。
『お前がガルシアの女騎士か』
口の端を上げてそう言った時の顔を思い出し、体が芯から凍えるような気持ちになった。
……王だとは、思わなかった。
王があんな、前線に来ているだなんて。
『あの女を捕えて服を剥げ。下級兵達に犯させてから、死体をガルシアの陣営に投げ入れてやれ』
捕まったら、尊厳のある死は望めない。
そう思い、必死に剣を振るった。
部下達も、わたしを守って必死に戦ってくれた。
そうして結果、そうとは知らず、王を葬っていた。
しばらく回廊を進み、両脇に護衛兵が立っている大きな扉の前でルグラン侯爵がわたしを振り返った。
「……ここが、王の執務室です」
扉を叩くと『入れ』と声が聞こえた。
「陛下、ガルシア帝国のエリス・ルロワ侯爵令嬢をお連れしました」
「ん」
新王は、大きな机の向こうで書類から目を離さず、ヒョイと手招きをした。
「少しここで待っていて下さい。妙な真似はしないように」
「かしこまりました」
ルグラン侯爵は大股でフェリックス陛下の所へと行き、何やら小声で話している。
待つ事しかできないわたしは、少しだけ首を回し、部屋の中を見た。
毛足の長い絨毯、豪華な調度品、シャンデリア、そして床に伏せてある何枚かの絵、これも前王の肖像画なのだろうか。
しばらく待っているとルグラン侯爵が戻ってきた。
「陛下が二人で話したいとの事です。あちらへどうぞ」
促された先の大きなソファーに、いつの間にかフェリックス陛下が深く腰掛けていた。
「部屋の外には護衛兵がいることを忘れずに」
「はい」
もちろん何もする気はないけれど、護衛兵を近くに待機させているとはいえ、先王を殺した者と王を二人きりにするなんて……女だから、武器を持たないから、と思っているのかしら……。
わたしの方が心配になりながら、部屋の中へと進んだ。
先王と同じ金髪だけれども、顔は似ていない、若く美しい王。まだ二十代前半のはず。
確か先王と母親が違う、少し年の離れた弟だと記憶している。
ドレスのスカートをつまみ、腰を深く折って頭を下げる。
「エリス・ルロワでございます」
「エリス嬢、長旅ご苦労。さあ、座って」
そう言われたけれど、わたしはお辞儀をしたまま『いえ』と答えた。
「わたくしはこのままで結構でございます」
「少し話がしたいんだ。首が疲れる、座ってくれ」
「……かしこまりました」
重ねて断るのは不敬にあたる。
わたしは、若き新王の前に座った。
フェリックス陛下、登場。




