アメ玉
行進が再開されると、また歓声が響いてきた。
その中には、降りた時に聞いたようなわたしに対する言葉も混じっていたけれど、武功をあげた兵士達に囲まれて歩いていたおかげで、罵倒されたりせず進むことができた。
わたし一人だったら、どれほど罵られただろう。
石や汚物などを投げつけられたりもしたかもしれない。
そう思っていた時、
「いたっ……」
何か固い物が目の上に当たり、わたしは思わず声を上げてしまった。
「どうしました!? おい! 止まれ!」
近くを歩いていた兵士が気づき、大きな声で行進を止めた。
「何事だ!?」
すぐにルグラン侯爵がやって来た。
「それが、石か何か投げ込まれたようで……侯爵令嬢の顔に当たったようなんです」
「なんだと? 本当ですか、エリス侯爵令嬢」
「ええ、でもなんともありません、お気になさらず」
石でも投げつけたくなるのは当然の事と思い、わたしはそう答えたけれど、サミュエル侯爵は沿道の人々に向かって声を上げた。
「誰だ! 誰が侯爵令嬢に物を投げつけた!?」
シーンと、静まり返ったところに、更に侯爵は言った。
「正直に名乗り出ろ! 投獄されたいか!?」
「も、申し訳ございません!」
慌てふためいたように、一人の女性が前に出て、ガバッと地面に平伏した。
「む、娘が……悪気は無く……申し訳ございません!」
女性の傍らには、五、六歳くらいの少女が震えながら立っていた。
「本当に申し訳ございません! 親の、わたくしの躾がなっていなかったせいでございます。どうか、どうかお許しを!」
「……子供のしたこととはいえ、国王の貴賓である侯爵令嬢に対して石を投げつけるなど、とんでもない。到底許されることじゃない」
「い、いえ、娘は、石を投げたわけではなく……その……アメを……」
「アメ、だと?」
その言葉を聞き辺りを見回すと、紙に包まれた物が足元に落ちていた。
「……これ?」
しゃがみこんで拾い、開いてみると、アメ玉が一つ出てきた。
「……このアメ、どうして投げたの?」
少し離れた所で、泣きそうになりながらわたしを見つめている女の子に向かって、声をかけた。
「あなたの大切なアメだったんじゃないの? 間違えちゃったのかしら?」
すると女の子は、ブンブンと激しく首を横に振った。
「ちがうの、間違えたんじゃないの。わたし、魔女様に、アメをあげたかったの」
「……わたしに?」
コクコクと頷く女の子。
「いいの? だってアメ、好きでしょう?」
「好きだけど、魔女様にお礼がしたくて。だっておとうちゃんとおかあちゃんが、魔女様のおかげでこれから生活が楽に」
「ミアっ!」
母親が慌てたように子供の口を塞いだ。
……先王は、暴君と有名だった。国民の中には、色々な感情があるのかもしれない。
でもここでそれを言うのは、不敬罪として処罰されかねない事。
親子が咎められないうちに、わたしは女の子に話しかけた。
「ミア、というの?」
母親の様子から、まずい事を言ってしまったと感じたらしい女の子は、少し青ざめながらもコクリと頷いた。
「ありがとう、ミア。わたし、とても疲れていて、王宮まで歩けないかもしれないと思っていたの。でもこのアメを食べたら元気が出るわ。いただくわね」
そう言って拾ったアメを口に入ると、彼女はパッと明るい表情になった。
これで、大丈夫ね。
わたしは立ち上がり、女の子に手を振ってから歩き出した。
「……侯爵令嬢ともあろう方が、道に落ちた物を口に入れるなんて」
ルグラン侯爵が、顔を顰めて言う。
「毒でも入っていたらどうするんですか」
「死ぬのが、少し早まるだけの事です」
「全く……しかし、貴女の行動のおかげで、あの親子の処分をうやむやに出来ましたよ」
……本当に、アメのおかげで少し元気が出たわ。
その後は特に騒ぎもなく、王宮までわたしは無事に歩き通した。
疲れた時の糖分は嬉しい。




