黒い魔女
マルタン王国。
元は小さな王国だったが、戦争により領土を広げていき、現在はガルシア帝国に次ぐ大国。
特産品は綿や絹の織物と酒、宝石。
海に面した領土もあり塩も採れる。
農作地も充分あるが、近年は戦争のせいで食糧不足ぎみだという。
王都に入ってすぐ、数十人の兵達と合流した。
「この者達は、先の戦で手柄を挙げた者達で、ここから王宮まで同行させます。一度凱旋式は済ませていますので、あまり人は集まらないと思います。貴女の護衛も兼ねていますので、よろしいですか?」
「はい、もちろんです」
わたしは、彼らが打ち倒した帝国の象徴という事なのだろう。
マルタン王国の王都に来たのは初めてだ。
これまでの村はガルシア帝国の田舎とそう変わりはなかったが、王都は違う。こちらの方が発展して、栄えているようだ。
石だたみの広い道路の両側に煉瓦造りの建物が並ぶ、美しく整えられた街。
広い公園には大きな噴水や銅像が見えた。
王宮へとつながる大通りの両端には、大勢の民がこの行進を見るために集まっていて、馬車の中でも歓声が大きく聞こえた。
マルタン王国の旗を振り、老若男女、皆笑顔で心から勝利を喜んでいるのがわかった。
しばらく進んだところで、馬車が止まった。
何か嫌な予感がしつつ、息を殺して様子を覗っていると、
「申し訳ありませんが、馬車から降りてもらえませんか?」
馬車の扉が開かれ、ルグラン侯爵が言った。
「集まった国民達が、貴女の姿を見たいと騒いでまして……周りを兵達で囲みますので、安全は私が保障します」
そうよね、馬車の中に隠れっぱなしというわけにはいかないわよね。
みんな、わたしを見て罵りたいはず。
だって、国王を殺した女なのだから……。
「わかりました。歩いて王宮へ向かえばいいのですね」
「あ、いや、たまに降りて姿を見せるだけでいいで」
「いいえ、大丈夫です。鍛えておりますので、歩けます」
そう言って馬車から降りると、一瞬、それまで響いていた歓声が止まった。
そして間もなく、ザワザワし始める。
「あれが、ガルシアの黒い魔女か?」
「思ったより普通だな」
「あんな華奢な女性が、王を殺したのか?」
「やっぱり何か、魔法でも使ったんだろうか」
「そんなのデタラメに決まってんだろう」
「あのドレス、どうなんだ?」
「似合ってないわね。それに、古いデザインだわ」
「フェリックス陛下が用意したって聞いたけど……」
「ああ、じゃあ、仕方ないな。可哀そうに、あんなの着せられて」
「もう少し、まともなドレスを用意してあげればいいのにねぇ……」
そんな声が、聞こえてきた。
ドレスはともかく『ガルシアの黒い魔女』か……。
そんな風に呼ばれていたとは知らなかったけれど、王殺しの女にはピッタリの異名だと納得した。
知らぬ間に『黒い魔女』との異名がつけられていました。




