ピンクのドレス
「さーあ、支度を始めましょう。あら、ちょっと髪が……少し切ってもいいかしら?」
「はい」
処刑方法は斬首刑で、長い髪は邪魔だから今のうちに切るという事かと思ったのだけれど、髪は毛先を揃えるくらいしか切られず、いい香りのする香油を付けて梳かされた。
「手入れをしていなかったのね。とりあえず、香油を付けたから艶は出たわ。それから、化粧もしましょうね。……可哀そうに、顔に傷が……でもこれくらいなら化粧で隠れるから大丈夫よ。あ、これはわたしの独り言だから。話しかけているわけじゃないからいいわよね」
そう言うと、いたずらっぽくウインクをするエマ・ルグラン夫人。
「さあ、コルセットを締めて……あらぁ、随分細いのね。羨ましいわ」
「いえ……女性らしい体つきじゃなくて恥ずかしい……あ……」
会話をしてはいけないのに、思わず話してしまい、慌てて口を閉じたけれど、
「小さな声なら聞こえやしないわ」
エマ・ルグラン夫人はそう言って笑った。
「剣術は、小さい頃から習ってらしたの?」
「はい」
「そう……とはいえ、戦場に出るのは辛かったでしょうね……さあ、ペチコートを穿いて、あとはドレスね……あ……」
大きな箱を開けたエマ・ルグラン夫人の動きが止まった。
「……どうしましょう、ごめんなさい。昨日の夜遅くにフェリックス陛下からこのドレスを預かって、すぐこちらに移動だったものだから、中を確認していなくて……」
途方に暮れた顔でわたしを見るエマ・ルグラン夫人。
「……何か、問題でも?」
「ええ。これを見てちょうだい」
そう言って箱から出されたドレスは、濃いピンクで、大きなフリルと大きなリボンが全体にあしらわれたものだった。
上等な布を使ってはいるけれど、これはあまりにも……、
「こんなの、わたしの祖母の時代に流行ったようなドレスだわ。今でも小さな子供なら着るかもしれないけど」
確かに、三、四代前くらいの先祖の肖像画で見るようなドレスだ。
しかし、だからこそ。
「わたくしには充分です」
そう。
これは一種の、辱めなのだろう。
わたしはこれからマルタン王国の新国王陛下に謁見し、そして、罰を下され、処刑される身なのだから。
「でも……」
「いえ、本当に」
むしろ、この方がいい。
国に見捨てられた元皇太子妃候補として憐れに思われるより、笑われた方がましだ。
ピンクのドレスは、わたしの体には大きく、エマ・ルグラン夫人が懸命に整えてくれたけれども、不格好になってしまった。
丈はいいけれども、幅が全然合っていない。特に胸のあたりがガバガバなのが、情けない。
そもそもこんなかわいらしいピンク色、わたしには全然合わないわ。シャルロットなら、似合うだろうけど……。
鏡に映った自分を見て少し可笑しくなりながら、わたしは部屋を出た。
「お待たせ致しました」
「ああ……あ、ええ……」
わたしのドレス姿を見たルグラン侯爵は、一瞬ギョッとしたような表情になったけれど、すぐに表情を戻した。
「では、行きましょう」
「はい」
外で待機していた御者や護衛の人たちも、気の毒そうにわたしを見ている。
「サミュエル! あなた、ドレスがあんなだって知っていたの?」
「知りませんよ。陛下が用意したんでしょう? 私は全く関係ありません!」
二人が小声で言い合っている。
……最悪、裸で引き立てられてもしょうがないような身だもの。
ありがたい事だわ。
そう自分に言い聞かせ、わたしは馬車に乗り込んだ。
エマさんは優しくて気さくなご婦人です。




