23話 暗黒帝国ブラックヴァルハラ
学園都市アクアリアを飛び立ち 暗黒帝国ブラックヴァルハラを目指して北へ進む俺たちの『キャンピング・キャッスル』
上空を優雅に進む城の中は 新しく仲間になったレイラの歓迎会を兼ねて大いに賑わっていた
「レイラちゃん! こっちのマッサージチェアもすごく気持ちいいニャー!」
「ひゃあっ!? な 何よこのアーム! 背中を的確に揉みほぐして……あぁんっ……ダメ……腰が抜けちゃうぅぅ……っ」
広間ではミーナがはしゃぎながらレイラをマッサージチェアに座らせ かつて暗黒魔術を操っていた七大幹部の面影など微塵も残さず レイラはだらしなくとろけた顔で脱力している
「ふふっ レイラさんすっかり馴染みましたね」
ルナがキッチンから全自動で淹れられた特製ダージリンティーと焼き立てのスコーンを運んできて微笑む
「ああ 元々悪い子じゃなかったみたいだしね」
俺はソファに腰掛けながら 嬉しそうにスコーンを頬張るレイラを見つめた
「レイラ ブラックヴァルハラって具体的にどんな国なんだ?」
俺の問いかけに レイラは少し表情を引き締めてスコーンを飲み込んだ
「……あそこはね 『絶え間ない労働と魔力の搾取』で成り立つ世界最悪の国家よ 空は一年中分厚い黒雲に覆われて太陽の光が届かず 国民は生まれた時から帝国軍の武器や魔導具を作るために工場で働かされるの」
「生まれた時から……そんなの絶対におかしいです!」
エルナが眉をひそめて悲しそうに呟く
「ええ……それに筆頭幹部グランド様の力は圧倒的だわ 彼は『無休の支配者』と呼ばれ 帝国の全土に『疲労を麻痺させる呪い』をかけて 倒れるまで国民を働かせているのよ」
「疲労を麻痺させる……まさか前世のヤバい栄養ドリンクの過剰摂取みたいな状態を魔法で強制してるってことか!?」
俺は背筋にゾクッと冷たいものを感じた
ブラック企業も真っ青な究極の搾取システムだ
「そんな狂った国 一日も早く全自動でホワイト化してやるしかないな」
俺が力強く宣言すると シルフィアが剣の柄を叩いて立ち上がった
「レン殿のおっしゃる通りです! 悪逆非道な帝国など 我らの全自動の力で木っ端微塵にしてやりましょう!」
『アナウンス:暗黒帝国ブラックヴァルハラの国境に到着しました』
脳内に響くシステム音声とともに キャンピング・キャッスルの大きな窓から見える景色が一変した
それまでの青空が嘘のように消え去り 分厚くドス黒い雷雲が空を覆いつくしている
地上には巨大な黒い城壁がどこまでも続き その奥には無数の煙突から吐き出される黒煙で淀んだ工場都市が広がっていた
「ヒィィ……! あそこに戻ると思うと震えが止まらないわ……」
レイラが翼を震わせて俺の後ろに隠れる
「大丈夫だよレイラ 俺が全部ぶっ壊して最高のホワイト空間に変えてやるから」
俺がレイラの頭を撫でて安心させていると——突然 眼下の巨大な城壁から無数の魔力砲がこちらへ向けて一斉に火を噴いた
ドドドドドォォォンッ!!
「きゃあぁぁっ!?」
「敵襲です!! 国境警備隊の対空砲火——」
シルフィアが叫ぶが 俺は冷静に指を鳴らした
『思考:絶対防御結界の展開および反射プロセスの実行』
【全自動リフレクトシールド起動:敵の攻撃を100%反射して無力化します】
キャンピング・キャッスルの周囲に展開された半透明の黄金のバリアが 飛来する何百発もの極大魔力砲をいとも簡単に跳ね返した
シュババババッ!!
反射された光線は寸分違わず城壁の砲台へ正確に戻っていき 轟音とともに砲台群を一瞬でスクラップに変えた
「な……なんだと!? 我が軍の誇る国境防衛システムが一瞬で……!?」
城壁の上に立つ屈強な鎧の男——七大幹部の一人である『過労死の要塞・ガンツ』が驚愕の声を上げる
「フン……小賢しい真似を! だが我ら帝国の防衛線はこんなものではないぞ! 出でよ超大型労働ゴーレム部隊!!」
ガンツの号令とともに 城壁の奥から地響きを立てて無数の巨大な鋼鉄のゴーレムたちが現れた
その数は優に数千を超え 空を飛ぶキャンピング・キャッスルを叩き落とそうと腕を振り上げている
「れ レン殿! あの数のゴーレムは厄介です! 強行突破しますか!?」
シルフィアが焦ったように尋ねるが 俺はふっと笑った
「いいや わざわざ戦う必要なんてないさ あんなゴーレムたちも『ブラックな命令』で無理やり働かされてるだけだからね」
俺は両手を広げ 眼下の数千のゴーレムに向けて全自動スキルを大解放した
『思考:ゴーレム部隊の全自動ハッキングおよび強制有給休暇付与プロセスの実行』
【全自動ホワイト命令書き換え:完了】
【対象に『30日間の完全休暇』および『全自動温泉旅行チケット』を付与しました】
ピガガガガッ……!!
突如として数千体のゴーレムたちの赤い瞳が温かいオレンジ色へと変わり 一斉に攻撃の手を止めた
「な 何をしている貴様ら!! 働け! 我が命令を聞けぇぇぇ!!」
ガンツが怒り狂って叫ぶが ゴーレムたちはガンツを完全に無視してクルリと踵を返した
そして——ゴーレムたちの足元に『巨大露天風呂』が一瞬で出現した
ズゴゴゴゴ……ザパァァァン!!
数千体の巨大ゴーレムたちが一斉に温泉に浸かり「ぷしゅ〜っ」と頭から心地よさそうな湯気を噴き出し始めたのだ
「な……ななな何をくつろいでおるのだ貴様らぁぁぁ!? 鉄の体が錆びるぞォォォ!?」
パニックになるガンツを尻目に ゴーレムたちは全自動で流れてくるオイルマッサージを受けながら完全に骨抜き(鉄抜き?)になって昇天している
「よし これで国境警備は完全に無力化完了だね」
俺が満足げに頷くと テラスから見ていたルナたちが手を叩いて大爆笑した
「あはははっ! ゴーレムさんたち すごく気持ちよさそうです!」
「レン様にかかれば どんな無機質な兵器もホワイトに染まってしまいますね……!」
エルナも目を輝かせて拍手喝采を送る
「くそっ……くそぉぉぉ!! ふざけるな全自動の男ぉぉ!!」
ガンツが一人で剣を振り回してわめいているが もはや俺たちのキャンピング・キャッスルを止める者は誰もいない
悠然と暗黒帝国の国境を越え 俺たちはドス黒い雲の奥に広がる帝国の心臓部へと突き進んでいく
「待っていろよ筆頭幹部グランド……世界中のブラックを俺がまとめて全自動で浄化してやる!」
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