22話 宵闇の支配者・レイラ
学園都市アクアリアの夜は 運河に映る街灯の光が美しく揺れて幻想的な静寂に包まれていた
昼間の騒動とブラック地下施設の改修工事を無事に終え 俺は夜風を浴びようと時計塔の屋上にたたずんでいた
そこへ 月光を背にしてすっと舞い降りてきた漆黒の羽を持つ美少女
夜風にそよぐ紫がかった黒髪と 闇夜の中でも妖しく輝く緋色の瞳
彼女こそが『ブラック七大幹部』が第三の刺客——『宵闇の支配者・レイラ』だった
「暴食伯グラトニーに 過労死の支配者ゼノス……我が七大幹部の面汚しどもを一瞬で退けた『全自動の男』……フフッ どんな厳めしい大魔導士かと思えば 案外普通の男なのね」
レイラは漆黒の翼を優雅に羽ばたかせながら くすくすと不敵な笑みを浮かべた
その華奢な身体からは 先ほどのゼノスとは比べものにならないほど重厚で禍々しい暗黒の魔力が溢れ出している
「君が次の刺客かい? できれば夜の静かな時間を邪魔されたくないんだけどな」
俺があきれたようにため息をつくと 屋上の扉が勢いよく開いた
「レン様ーーーっ!!」
「レン殿! 敵の気配を感じて駆けつけました!」
ルナやシルフィア ミーナにエルナまで 心配そうな表情で屋上に飛び出してきた
シルフィアは即座に愛剣を構えてレイラを睨みつけ ルナは両手に眩しい光の魔法を宿す
「ほう……綺麗なヒロインたちを侍らせて余裕のつもり? だがそれもここまでよ」
レイラが空中で指をパチンと鳴らすと 彼女の背後に無数の『暗黒の魔導書』がズラリと出現した
「我が魔術は空間そのものを死滅させる漆黒の絶望! その生ぬるい家ごと 灰も残さず消し去ってあげるわぁぁ!!」
空全体がドス黒く染まり 学園都市全体を丸ごと吹き飛ばすほどの極大破壊呪文が構築されていく
「レン殿! あの魔力は危険です! 私たちが全力で結界を——」
シルフィアが叫ぼうとしたが 俺はそっと手を差し伸べて制した
「大丈夫だよ あんなに肩肘張ってイライラしてる子には……これが一番効くからさ」
俺は静かに指を鳴らした
『思考:極大暗黒魔術の全自動吸収および全自動超大型特製イチゴチョコパフェの召喚』
【全自動リラックススイーツプロセス:起動】
シュバッ!!
「な……なにィ!?」
レイラが放とうとした極大暗黒魔法が一瞬で空中で分解され 甘くて芳醇なイチゴとチョコレートの香りに塗り替えられた
次の瞬間 空中を浮遊していたレイラの腕の中に バケツのように巨大で色鮮やかな『特製全自動メガ盛りホワイトパフェ』がドスンと抱え込まれた
「な……ななな何よこれぇぇぇ!? 私の極大魔法が……冷たくて甘いお菓子に変わったというの!?」
レイラはパニックを起こして空中でバタバタと脚をバタつかせるが 腕の中のパフェからは湯気ならぬ冷気とともに 極上の生クリームと採れたてイチゴの甘い香りが漂ってくる
「七大幹部だかなんだか知らないけどさ そんなにカリカリして夜遅くまでブラックな破壊工作ばかりしてたら 体に悪いよ」
俺は優しく微笑みながら 全自動で生成した銀のスプーンをレイラに手渡した
「一口食べてみなよ 全自動で作ったから精神安定効果もバッチリだよ」
「ふ ふざけるんじゃないわよ! 我が名はブラック七大幹部の一角! そんな子供騙しの甘味などに惑わされるわけが——」
レイラは突っぱねようとしたが スプーンに乗った生クリームと完熟イチゴがうっかり口元に触れてしまった
パクッ……
「ん……ッ!?!?」
レイラの緋色の瞳が大きく見開かれた
口の中に広がったのは これまで味わったこともない極上の滑らかさと 甘酸っぱい果汁のハーモニー
前世の社畜時代に疲れた身体を癒やしてくれた最高のスイーツを 全自動スキルの力で最高品質に昇華させた至高の一品だ
「な……何よこれ……ッ! ふわふわで……甘くて……身体の中のドス黒いイライラが全部溶けていく……っ!?」
「あ……レイラちゃんがすごく幸せそうな顔をしてるニャ!」
ミーナが指を指すと レイラはハッと正気に戻って真っ赤になった
「ち 違うわ! これは油断させるための毒よ! 美味しくなんて……ううっ もう一口だけ……パクッ……うあぁぁぁん美味美味すぎるぅぅぅ!!」
空中での意地を張り切れなくなったレイラは 屋根の上にちょこんと座り込み 涙目になりながら巨大パフェを夢中でスプーンで掬ってほお張り始めた
「美味しいでしょう? レイラさん」
ルナが優しく隣に座り 温かい全自動ミルクティーを差し出す
「ううっ……本当は私だって……本当は可愛いお菓子を食べたり……お買い物したりしたかったんだからぁぁ……っ!」
レイラはミルクティーを飲みながらポロポロと涙をこぼし始めた
詳しく話を聞くと 彼女はブラック七大幹部の最高幹部によって『過酷な破壊ノルマ』を課され 休むことも許されずに世界各地で攻撃を行わされていたらしい
彼女自身もまた ブラックな組織に苦しめられる犠牲者の一人だったのだ
「もう大丈夫だよレイラ うちのキャンピング・キャッスルに来れば 毎日美味しいスイーツが食べ放題だし 誰も君に無理なんてさせないからね」
俺が優しく頭を撫でてやると レイラは顔を真っ赤にしながら照れくさそうに呟いた
「ほ 本当に……? 毎日パフェ食べさせてくれる……?」
「もちろん! 全自動だから何個でもおかわり自由だよ」
「うわぁぁん! 私……ブラック七大幹部辞める! 今日からレンの仲間になるぅぅぅ!」
こうして 敵として現れた第三の幹部・レイラは 全自動パフェの圧倒的な甘さによって一瞬でホワイト寝返りを完了したのだった
「ふふっ また新しく可愛い妹分が増えましたねレン様」
ルナが嬉しそうに微笑み シルフィアも「改心したのなら歓迎しよう! 明日から一緒にトレーニングだな!」と胸を張る
エルナも「レイラちゃん 仲良くしようね!」と手を取ると レイラは恥ずかしそうに羽を小さく折りたたんで頷いた
——だが レイラがパフェを食べ終えたその時
彼女が持っていた黒い通信水晶が激しく点滅し 冷酷な男の声が屋上に響き渡った
『レイラよ……無様に敵に寝返ったか……だが良い 貴様ごとき捨て駒に過ぎん』
「なッ……!? この声は……筆頭幹部のグランド様!?」
レイラが顔色を変えて身構える
『全自動の男よ……我がブラック七大幹部の本拠地『暗黒帝国ブラックヴァルハラ』へ来い……世界中の人間を永久無休で働かせる我が領域にて 貴様の甘いホワイト幻想ごと叩き潰してやる……!』
ブツッと通信が切れ 北の空に見たこともないドス黒い巨大な暗雲が立ち込め始めた
「暗黒帝国ブラックヴァルハラ……世界で一番ブラックな国家ですか……」
シルフィアが表情を引き締める
俺は北の空を見つめながら 胸の中の全自動スキルを強く意識した
「よし……いよいよブラック本丸へ殴り込みだね」
「みんな 全自動キャンピング・キャッスルを発進させよう! 世界で一番ブラックな帝国を……世界で一番ホワイトな天国に変えてやるんだ!」
「「「おー!!」」」
ヒロインたちの力強い歓声が夜空に響き渡る
第三の幹部レイラを新たな仲間に加えた俺たちの旅はついに敵の本拠地・暗黒帝国へと向かって行く!
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