最終章「二年後、恋の先にある未来」
あれから二年。
付き合って時間が経った今でも。
私はたぶん、まだ恋愛が得意ではない。
「美鈴、また考えごとしてる」
隣から聞こえた声に、顔を上げる。
休日の夕方。
並んで歩く帰り道。
付き合って二年経っても、
こうして隣にいることに時々まだ不思議な気持ちになる。
「……してない」
「嘘。してる時の顔」
相変わらず、裕史には全部見透かされる。
裕史はあれからアルバイトとして長く勤めた居酒屋チェーンの正社員に昇格して頑張っていた。
付き合ったからって、
不安がゼロになったわけじゃない。
忙しくて会えない日が続けば寂しいし、
連絡が遅ければ少し気になるし、
今でもたまに、
“私ばっかり好きなんじゃないか”と考えてしまう夜がある。
でも。
そんな時はもう、ひとりで抱え込まない。
「……今日、ちょっと寂しかった」
小さく呟くと、
裕史は歩きながら吹き出した。
「言えるようになったなぁ」
「うるさい」
「前なら絶対言わなかっただろ」
否定できない。
前の私はきっと、
こんなことを言ったら重いと思われると、
ひとりで飲み込んでいた。
「……でも」
裕史が繋いだ手を少し強く握る。
「言ってくれる方が嬉しい」
その言葉に、
胸の奥がじんわり熱くなる。
恋愛は今でも怖い。
大切になればなるほど、失うのが怖い。
でも。
それを“怖い”と言える相手がいることは、
思っていたよりずっと幸せだった。
恋愛不適合者。
昔の私は、そんな言葉で自分を守っていた。
けれど今ならわかる。
傷つくのが怖くて、
愛されることを信じる勇気がなかっただけだ。
それでも。
怖いままで踏み込んだ先に、
こんな未来があるなら。
あの時、勇気を出してよかったと。
今なら、ちゃんと思える。
隣を歩く人の手を握り返す。
「……ねえ、裕史」
「ん?」
「来年も、その先も」
一瞬だけ迷ってから、
ちゃんと言葉にする。
「隣にいてね」
裕史は少しだけ目を見開いてから、
柔らかく笑った。
「……当たり前だろ」
「あ、ちょっと目を瞑って」
「え!?」
急に言われて、驚きながらも目を閉じる。
「いいよ、目を開いて」
静かに目を開くと、いつもの裕史の優しい笑顔と両手で差し出された小さなリングボックス。
開かれたリングボックスには、銀色の指輪。
「黒田美鈴さん、僕と結婚して下さい」
「はい!よろしくお願いします!」
⸻涙が溢れた。
⸻Fin.




