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花結びの剪定者  作者: 右島咲多
第二章_夏合宿編
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32/33

立ちはだかる者_1

「不味いわね…向こうに居場所がバレてるわ」

潰した発信器を捨てながら、柚利乃は苦悶の表情を浮かべる。

「すみません私のせいで………」

「ひなきのせいじゃないわ。私がもっと警戒するべきだった」

「柚利乃、地図が出たぞ」

春樹の呼びかけで柚利乃は顔を上げる。

飛ばされてきた空間ディスプレイを受け取り、柚利乃は内容を確認する。

「ここからだと青が近いわね。すぐに移動しましょう」

柚利乃の号令で三人は立ち上がり、すぐにその場を離れた。

先頭を柚利乃、その後ろに春樹、ひなきという順で進んでいく。この辺りは元々果樹園だったようで、三人の行く手には巨大化したリンゴやブドウなどの果物がたくさん実っていた。

相手チームにバレてしまっている以上、一刻も早くこの場から離れる必要がある。

だが、何も考えずに移動すると足音や木々に擦れた音で余計に気づかれてしまう。急ぐ心と冷静さを並列させ、辺りを警戒し隠れながらながら進む。

「…………失敗した、そのまま捨てれば位置を偽装できたのに」

誰にも聞こえない声で柚利乃が独り言つ。

発信器を見つけた時の驚きで思わず、反射的に壊してしまった。これも経験不足と言うものなのか。

「なぁ柚利乃」

「何?」

「さっき俺も一瞬地図見たけど、直線距離なら緑の方が近くなかったか?」

宝箱の配置は左側の入り口付近に赤。右側の中央に青。真ん中の奥に緑という配置になっている。

今、春樹たちの位置は左側の中央。同じ中央でも青は逆側の端であるため、春樹には緑の方が近く見えた。

「須藤くん、今回の宝探し鬼だけど、宝箱を開ける順番があるわ」

「順番?別にルールにそんなの書いてなかったぞ」

「ルールにはね。正確にはオセロで角を狙うみたいなセオリーの話だけど」

木々を分けて走りながら柚利乃が説明する。

「鬼が手前から来る以上奥から開けていった場合、折り返して戻って来たときに前から来た鬼と鉢合わせる確率が高いわ。だから宝箱は鬼の進行に合わせて、手前から奥に進むように開けていかなければならないの」

「なるほどな」

さすが、柚利乃だ。あの一瞬で考えたのか元から考えていたかは知らないが判断が的確だ。

ほぼ直線的に進んでいた三人だが、ふと 柚利乃が足を止める。

前を見るとリンゴの木々から伸びたトゲが視界を埋め尽くしており、歩くだけで体が傷だらけになりそうだ。。

「ここは進めそうにないわね………。あっちから回りましょ」

「あぁわかっ___」

歩き出そうとした時、春樹の体を柚利乃が後ろに突き飛ばす。

「__っ!何すんだ………よ」

怒りを向けようとしたとき春樹の言葉が止まる。

柚利乃と春樹の間に立つ木に一本の矢が立っていたからだ。矢の刺さった場所はほんの数秒前まで春樹の頭があった位置。

「ありゃー。バレちゃったか。気配は消すの、前より上手くなったと思ったんだけどな」

矢の軌道の先に目を向ける。

その声の主は木の上にいた。

「清水さん………っ!」

北部チーム、清水巴久だ。

背中に純白の翼。そして手には弓矢を持っていた。だが、少し異様だったのは、その弓矢が弓道で使うような厳かなものではなく、明るい色合いのポップな弓に矢じりの形がハート型のキュートなデザインをしていた。

「なんだあれ……天使か………?」

「いえ、どちらかと言うと__」

柚利乃の言葉に乗るように清水がその後をつづる。

「キューピット。これが僕のビオラの花の能力」




ビオラ。スミレ科スミレ属の紫、白、黄色の三色の代表的な組み合わせとして知られている花。日本では三色菫(さんしきすみれ)と言われている。ピオラの逸話としてキューピットの放った矢が白のスミレに当たり、色が三色に変化したことで生まれたと言う話がある。

「キューピットってあれですよね?恋に落とす、とかっていう…」

「そ。僕のこの矢にあったちゃうとメロメロになって僕のこと攻撃できなくなっちゃうかもね~」

そう言って、矢をペン回しのようにくるくると指の上で回転させる。

その能力が本当なら一人当たっただけで2対4と形成は一気に不利になる。もし、さっきの攻撃をかすりでもしたらとんでもないことになっていたかもしれない。

「まぁ、モテたいのはやまやまなんだけど、あいにく女の子を痛める趣味はないからね。まずは君から取らせてもらうよ。__春樹、くんっ!」

弓を弾き清水が矢を放つ。放たれた矢は桃色の光を帯びながら枝分かれし、春樹へと集約されていく。

「雪花っ!」

柚利乃の叫びと同時に正面に雪の壁が出現する。その白き盾が矢の襲撃を受け止める。

「また、雪の壁か…。結構分厚いし貫通は無理かな。…………でも____」

清水は枝を蹴り、飛翔する。

「真上がガラ空きだよっ!」

矢を構え、壁の向こう側へ体を乗り出す。三人の姿が一瞬見た。だがその直後、清水と三人の間に異物が割り込む。

____手榴弾っ!

突然の訪問者に清水は目を見開く。

「………っ!」

咄嗟に矢先の向きをずらしギリギリで弾く。当たった瞬間、手榴弾は爆発し、辺りに煙が充満する。

「ごほっ、ごほっ………煙幕………っ!」

翼を羽ためかせ、後退する。

視界は煙で埋め尽くされ、周りの様子が正確に確認できない。

「くぅー見失ったか………。あーもしもし。こちら清水、ごめん逃がしちゃった。煙の伸びてる方角的には幸輔の方に向かったと思う。……………うん、このまま僕も__」

花見たちと連絡を取っていた時、突然銃声が鳴り響く。

情景反射で体を右に反らす。左足のふくらはぎに弾がかすった。

目下を確認する。薄くなった煙の層の中、銃口が光る。

「やば………っ!」

再び煙の中からの銃声が聞こえる。今度は複数、連発型だ。

すぐさま清水は翼をはためかせ、銃弾を躱す。

追尾するように銃弾の雨は清水を追う。

一度、木の裏に身を隠す。隠れてもなお、銃弾の雨は止まず、執拗に打ち続ける。背中に伝わる振動から庇ってくれている木の表面がボロボロになっているのが想像できた。

やがて銃撃がやみ、清水は警戒をしながらゆっくりと顔を出す。

先ほど動き回ったおかげか随分と煙も晴れていた。

「逃げると思っていましたか?ふふふっ…………私たちはそんなに臆病者じゃありませんよ!」

煙の奥にいた雪の壁が再び姿を見せる。そして、その上には自信に溢れた面持ちで仁王立ちし、アサルトライフルを持ったひなきの姿があった。

「ここは私が相手ですっ!!!」





「俺を一発目から狙うとか。清水さんの花、ビオラじゃなくてホントはバラなんじゃないの?」

「そういう冗談はいいから。急いで」

空へと伸びる大木の連なりを横に柚利乃と春樹は進んで行く。清水に見つかってしまった以上、もう隠れて進んでも意味はない。地図と位置情報を確認しながら、宝箱に向って全力で駆けていく。

「残り、500メートルぐらいかしら。もう少し走れば宝箱あると思うわ」

清水と遭遇してから地図上を右へと進んでいき、二人は青の宝箱の付近まで来ていた。

ひなきが繋いでくれた時間、無駄にするわけにはいかない。ここで一つ、宝箱を開ける。

目の前にそびえる大木の横を通り過ぎようとした時、突然、衝撃波が二人を襲う。攻撃かと思い、慌てて地面を蹴り二人は後退する。直撃した大木の幹が爆ぜ木片が飛び散る。幹の下部分が無くなった大木の上層はなだれるように地面に落ちた。

お互いに目配せし、異常はないことを認識した後、状況を確認する。

そして、気づく。木々の破片に混ざって巨大な緑の塊が爆散していたことに。原型をとどめていなかったため、詳細はわからないがかろうじて生き物だということはわかった。これは………ザープ?

「__っ!」

物音に気づき、再び正面に春樹たちは目を向ける。こちらに誰かが来ている。

草を掻き分けようともせず、ただ真っ直ぐに歩いてくる。開けたところに出て、その姿を認める。

「すまん_____虫がいた」

花見隊長がそこにいた。


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