立ちはだかる者_2
昼休憩___
「今回の作戦は三人で纏って行動して、一つずつ確実に宝箱を開けていく____にするつもりだったたんだけど、やめたわ」
身構えていた春樹とひなきはズッコっと力が抜ける。
「なんでフェイント入れたんだよ………」
「ギリギリまで悩んでたのよ。大丈夫もう決めたから」
崩れた態勢を二人は元に戻し、気を引き締め直す。
「おそらく鬼側はバラバラに捜索して来ると思う。さっきひなきが言ったように探すならそっちの方が効率がいいから。それをふまえて今回はこっちでいくわ」
顔を上げ、柚利乃は宣言する。
「改めて、今回の作戦は最初は三人で一緒に行動する。でも、もし鬼と遭遇したら一人が他の人を逃がして、鬼と一対一で戦ってもらう」
「一対一で………ですか?」
柚利乃の言葉に二人は顔を曇らせる。
「単純な疑問なんだが、俺たちが北部の人たちとタイマンで戦って勝てるのか?」
不安げな顔つきで春樹は柚利乃に問う。
当然の疑問だ。午前の訓練の中でも実力差は明らかだった。仮に柚利乃とひなきは大丈夫だったとしても、少なくとも春樹自身、戦って勝てるとは思えなかった。
しかし、そんな春樹の不安に柚利乃は迷いなく頷く。
「えぇ、ちゃんと組み合わせを考えればそれなりに対抗できると思うわ」
自信に満ちた静かな表情で柚利乃は二人を見つめる。
彼女の目には二人の不安げな顔が映っていただろう。しかし、その表情は依然として変わっていなかった。
「………わかったよ。負けても文句言うなよ」
「ちょっと怖いですけど頑張ります!」
不安は残っているものの二人は頷いた。
「ありがとう。一応、こっちに来る前に北部チームの戦闘記録を覗いてきてたの。少しなら対策もできると思うわ」
「準備いいな、お前」
「前情報で入れておこうかと思って。本当はプロフィールを見たかったんだけど、アクセス権限無くて見れなかったわ」
会話のタネになりそうな事を事前に考えておこうと思っての行動だったのだが、こんな形で役立つとは柚利乃も思っていなかった。
「で、その組み合わせなんだけど清水さんはひなき。花見さんは私。美琥は須藤くん。これで行こうと思う」
名前を呼び、それぞれに視線を合わせてから柚利乃は説明する。
「清水さんは飛行能力と弓矢を使った攻撃をするわ。同じ遠距離系のひなきが相性がいいと思う」
「ひなきって遠距離系だったのか」
そういえば、行きの車内で聞きそびれてから聞く機会がなかった。
「そうなんですよ!もうバンとかボンとかドカーンって感じです!」
「へぇ………すごいなぁ………」
全然わかんねぇ…………。
困惑の表情を浮かべる春樹をよそに柚利乃は説明を続ける。
「花見さんは近接戦闘に特化している。北部チームの中だと一番強いと聞いているわ。正直どれくらいかは対面してみないとわからないと思うけど、歴が二人よりも長い私が担当するのがいいかなと」
視線が下がり一瞬不安げな表情を浮かべたが、直ぐに視線を戻し柚利乃は気持ちを固める。
「最後に美琥だけど。この子はちょっとわからないわ。一、二年前の戦闘記録は見つかったんだけど、サーバーの保存場所が変わったのか最近のものは見つけられなかったわ」
アッシュのサーバーを覗いたことがないからわからないが、まぁそういうことなのだろう。
「そうか…………。ん?ちょっと待て。なんで美琥の相手、俺にしたんだ?」
「消去法よ」
「おい」
雑な対応に春樹が柚利乃を睨みつけるとひなきは何かに気づき「あ!」と大きな声を出す。
「柚利乃さん、この作戦ってもしかして、ここは俺に任せて先にいけっ!的なやつですか?」
「えぇ、まぁ簡単に言えばそうなるわね」
柚利乃が答えたとき、ひなきが急に慌てだす。
「マズイですよ柚利乃さん!これ死亡フラグですよ!死亡フラグ!」
「ふら………何かしらそれ?」
「ストーリー的に死んじゃう展開ってことです!アニメや漫画で最終戦の2個前ぐらいの敵が出たときに突然ライバルキャラが出てきて、ここは俺に任せて先にいけっ!と言うんですよ。あるあるですよ!でその後、全く世話の焼けるやつだ、みたいな捨て台詞を言うんです!もうお決まりですよ!柚利乃さん見たことないですか?」
「ご、ごめんなさい、アニメや漫画そんなに詳しくないから………」
ひなきの勢いに、柚利乃は顔を引きつらせる。
そういえば柚利乃こういうの疎いんだよな。
家にお世話になっていた時に何度かそういう話を振ったがそのたびに疑問符を浮かべていた気がする。
「とにかく、ひなきの話はちょっとよくわからないけど、この作戦でいくわ」
前のめりになったひなきの体を押し、柚利乃は元の位置に戻す。
「それと最後に、今回の宝探し鬼。最もキーになるのは___」
数秒言葉をためた後、柚利乃の視線は春樹に向けられる。
「……?………俺?」
「虫のザープがいて、それを殴ったら当たりそうになってしまった」
そう言い、花見は二人に謝罪する。
どうやらエリア内にザープが紛れ込んでいたようだ。
「…………」
地面に転がるザープの骸を一瞥する。
飛んできたザープのサイズ感としては小さなバス一台ぐらい。おそらく中型のザープだ。
以前、春樹も中型のザープを倒してはいるが、現状 初めて開花した時にあった爆発的な力は今は無くなってしまっているため、倒すとしても苦戦するだろう。柚利乃は鶏のザープを倒していたし、言うまでもないだろう。
だが、そういう話ではない。
春樹よりも少し背が高く、服の上からでもわかる筋肉質な体躯。
そして、まるで魂のエネルギーが体から漏れ出し、空気の色を変えているかのような気迫。同じ空間にいるだけで肌がピリつく。
疾駆によって上がっていた心拍数は今は違うものによって上昇していた。
「………………」
左足が一歩後ろに下がる。戦闘への構えではない。無意識に体が逃げろ、と訴えかけていた。
「須藤くんは先に行って。ここは私が引き受ける」
春樹とは対照的に柚利乃が前に出る。
「一人で、大丈夫か?」
「そういう手はずでしょ。ほら早く」
決して作戦を忘れていたわけではない。だが、この状況を前に思わずそんな言葉が出てしまった。
「………おぅ」
柚利乃の後ろに並んでいた春樹は一人、森の奥にある緑の宝箱へと足を向ける。
「須藤くん」
「…………なんだ?」
去り際、柚利乃が声をかけてくる。
「わかっていると思うけど、あくまでも宝箱優先で」
「了解………っ!」
返す言葉に静かに力を込めて春樹は森の奥へと走っていった。
過ぎ去って行く足音を聞きながら、柚利乃は右腕を前に出す。
「〈雪花_白鷹〉」
顕現させた白鷹を掴み、柚利乃は構える。
「ほぉ、薙刀か。だが、思っていたよりも少し短いように見えるが」
「小薙刀と言う種類です。こちらの方が小回りがきくので」
いつもザープが相手の時は通常の薙刀サイズで戦いっているのだが、今回は対人戦。そして、森の中というのもあって短い小薙刀のサイズに調整した。
「なるほど、一つ学びを得た。では_」
言葉の途中、花見の足元に小さな砂煙が立つ。次の瞬間、花見の拳が眼前にあった。瞬きした後、それはそこにあった。歩数にして十数歩。その間合いが一瞬にして消えていた。
「___っ!」
花見の一撃が柚利乃の顔に打ち込まれる。
体は飛ばされ、数メートル先の木の幹に体を打ち付けてようやく止まる。
「ばっ!…………はっぁぁ……はぁぁ…」
口の中を血の味が満たす。鼻血が柚利乃の顔をつたって服へと落ちる。
全身を襲う痛み、吐き気に耐えながら、ゆっくりと顔を上げる。そして、目の前に毅然と立つ男を見る。
「手合わせ願おうか」




