開幕
開始の号令と同時に巨大なかまくらが北部チームを包んだ。
「えっちょ、何!?」
突然視界が真っ暗になり、美琥は戸惑う。すると、白い光を顔に浴び、小さく悲鳴を上げる。
「落ち着け、美琥」
反射的に覆った手の隙間から見ると花見がシードのライト機能を使って美琥を照らしていた。
「びっくりした…。何が起きたの?」
「白梅の能力、雪の創造物だ。これで少しでも遅らせようということなのだろう」
「へぇ〜雪 作れるんだ。結構頑丈そうだね__冷たっ!」
冷たさに驚いた美琥は冷えた手をもう片方の手で温めている。
夏場はひんやりてて気持ち良さそうだが、ここは標高が高いのでどちらかと言うと寒い。できれば、訓練中に体を動かして熱くなった時に出して欲しかったな。
そんなことを考えていると花見が雪の壁に耳をつける。
その花見の行動に、見ているだけで美琥は身震いした。
「足音が聞こえない。防音にも優れているようだな」
視覚、聴覚。この壁によってどちらも防がれ、南部チームの行方が分からなくなった。
「だが、暗くてちょうどいい、トモ」
「はいはい、今出すねー」
呼ばれた清水がシードを起動し、空間ディスプレイを操作する。すると、宝探し鬼のエリアマップが展開され、その上に移動する赤い点が一つ表示されていた。
「ひなきちゃんのリュックにつけた発信機、ちゃんと機能してるね」
宝探し鬼の開始より前、施設からの移動中にひなきのリュックにこっそりつけていた。
そして、この発信機には位置情報以外にもう一つ機能がある。
「トモ、音は拾えているか?」
「一応ね。音質悪くって何言ってるか分からないんだけど」
GPS機能がついた盗聴器。施設にあった物を適当な備品を借りてきたが、盗聴用としてはハズレを引いたみたいだ。ノイキャンを使ってはいるが、人の声なのか環境音なのかという二択の事しか判断できない。
耳を押さえ清水はインカムから流れてくる音に集中する。音声を繋げてすぐ、ひなき本人らしき声は聞こえた。インカム越しの会話かもしれないが、もしかしたら周りに誰がいるかもしれない。
「………………っ!」
そう思い耳を澄ませていると、「あーはいはい」と言って清水は首を縦に揺らした。
「ん?どうした?」
清水の様子に気づき、花見が尋ねる。
「たぶんだけどね。あっちのチーム、三人纏って行動してるっぽいよ」
「…………やはりか」
「えっ、なんで三人固まってるの?効率悪くない?」
美琥が疑問に思うとそれに清水が答える。
「確かに探すだけなら散らばって探した方が効率いいよね。だけど、今回は鬼ごっこの要素も入っている。あっちのチームは新人二人。うちチームはこの中ではちょっと先輩な僕ら二人がいる。一人で探している最中に出くわして、一対一だったり一対二になった時に捕まるリスクが高い。それを懸念しての作戦だろうね」
「ふーん、なるほどね〜」
美琥たちがそんな話をしている間、赤い点はどんどん森の奥へと進んで行く。
「たぶん、そろそろ止まる」
そう花見が言った数秒後、赤い点が止まった。
「えっすごーい!隊長なんでわかったの?」
宣言通りの点の動きに美琥は目を丸くする。
「宝箱の位置が後からわかる以上、闇雲に動くのは体力の浪費でしかない。不確定要素に対応でき、比較的最小限の体力で宝箱に向かえる場所。____中心付近。それが王道だからだ」
静かな口調で花見は言う。
花見の説明通り、南部チームの赤い点はエリアの中心を示すようにマップ上に表示されていた。
「ちなみに隊長が探す側だったらどこの位置に居た?やっぱり真ん中のところ?」
「無論、スタート地点だ」
予想外の回答に美琥は呆けた顔をする。
即答かつ一切迷いがなかった。
「え?でもそれじゃ鬼にすぐ見つかっちゃうじゃん?」
探す側が勝つために最も重要な事はできるだけ鬼に会わず、宝箱を探すことだと思う。だから、スタート地点から離れれば離れるほど、見つかりづらくなるし、それが正解だと美琥は思っていた。だから、隊長の回答の意味が正直わけがわからない。
しかし、美琥の反論に花見は表情を変えず答える。
「鬼を全員倒せば、楽に探せるだろう」
答えを聞いた瞬間、美琥は呆気に取られる。その直後、清水の大きな笑い声がかまくら内に響く。
「ちょっトモくん、うるさい……!」
「はははっ。ごめんごめん」
ツボに入ったのか腹を抱えて笑っている。
清水の笑い声に思考を取り戻し、それに続き呆れたように美琥も口元を緩める。
「うちの隊長ってホント___むちゃくちゃ、だよね〜」
残り1分。中央付近で最初に止まって以降、少し左寄りに移動してまた点が動かなくなった。向こうは位置を決めたらしい。
「さて、僕らもそろそろ準備_____あっ!」
空間ディスプレイの地図上から点が消える。
それと同時に清水のインカムからは完全にノイズしか聞こえなくなった。
「あっちに気づかれちゃったか………。まぁ位置は大体わかってるしいっか」
そう言って清水はマップを閉じる。三人の目の前には時間を示す空間ディスプレイだけが残された。
「作戦はどうする?」
出発の準備をしながら花見は清水に聞く。北部チームの作戦立案は基本的に清水がおこなっている。
「う〜ん。この感じだと二個目の方がいいかもね」
「追い込み漁か…。よし、それで行こう」
タイマーがゼロになり、アラームが聞こえた。
「時間だ。二人とも少し下がれ」
「は〜い」
「りょーかい」
言われた二人は花見の後ろにつく。
二人の配置を確認し、花見は拳で雪の壁を叩く。瞬間、大きな衝撃波が森の木々を揺らす。そして、壁に大きな穴が開き、中から鬼たちが姿を現す。
「よし、行くぞ」




