宝探し鬼
「うぅ…………肌がヒリヒリします」
休憩中、少し赤くなった自分の腕を見ながらひなきは声を漏らす。
「ひなきちゃん日焼け止め塗ってないの?」
「持って来てはいるんですけど、すぐに取り出せなくて」
「あぁ、ちょっとバタバタしてたもんね。私の使う?」
と美琥は言うと手荷物用に持ってきたバッグから化粧ポーチを取り出す。
「いいんですか!?ありがとうございます!」
「柚利乃ちゃんも使う?」
タオルで汗を拭いていた柚利乃にも尋ねる。
「私は一応塗ってあるから大丈夫」
「そう。紅花ちゃんは?」
「ん?なんだ?」
呼ばれた紅花は美琥の方を向く。
「日焼け止め。紅花ちゃんも塗る?」
「ヒヤケ…………あぁ〜。もらえるならもらうぞ」
「いや、お前はいらねぇだろ」
春樹がツッコむと美琥が怒る。
「むーっ。はるくんそれはダメだよ!小さい頃からとケアしないと大人になった時にシミとかのシワの原因になるからね。女の子だし、その辺はちゃん気にしないと」
「いや、俺はそういう意味で言ったんじゃ___」
「はい、紅花ちゃん。手 出して」
「ん」
いや、精霊に紫外線なんて関係ないだろと反論しようとした春樹だが、もう事が進んでしまったので言うのをやめた。
「春樹くん、ちょっといい?」
話が終わったのを見て清水が声をかける。
「紅花ちゃんのことさっき相棒って言ってたよね。あの子もザープと戦ったりするの?」
そう聞かれ、少し考えるようなしぐさをしてから春樹は答える。
「う~ん、戦闘の時はいつも一緒ですけど、基本的には俺がメインで戦ってそれのサポートって感じですね」
「そっか………」
清水が短く答えると、少し視線を下げる。
「どうかしましたか?」
「…………いや、大したことじゃないよ。ただ___」
「よし、休憩は終わりだ。訓練に戻るぞ」
雑談をしている面々に、杏奈が号令をかえる。
それを聞き、各々ボトルを戻しながら校庭に戻っていった。
「…………剪定者の人手不足も深刻だな」
額に流れる汗を拭きながら誰にも聞こえない声で清水は言った。
休憩終了後、再び訓練に戻るとき何の気まぐれか紅花も一緒についてきた。訓練に一緒に参加、と言うわけではなく春樹専属の応援団としての参加のようだ。
応援と言っても罵詈雑言を浴びせ続ける悪質な声援であったり、ペナルティで校庭を走る際は肩車をさせたりするという横暴っぷりだった。
ただでさえ辛い状況で更に精神と肉体に負荷をかけてくる。これ応援というよりむしろ煽りなんじゃないか?
「午後は親睦も深める意味を込めてちょっとしたゲームをする」
昼休憩に入る直前、杏奈が皆を集めた。
「ゲーム………ですか?」
「あぁ、そうだ。内容は_______宝探し鬼だ」
そう宣言したすると、杏奈が説明を始める。
「簡単に言えば宝探しと鬼ごっこを混ぜたゲームだ。宝箱を探す側と妨害する鬼側で分かれてやる。今回の探す側は南部、鬼は北部だ」
「人数は三体三ですか?」
花見が手を上げ杏奈に聞く。
「あぁそうだ。チーム同士の直接対決。やっぱ仲を深めるには殴り合うのが一番だからな」
自分の拳を反対の手で叩きながら杏奈は言う。この人の中では〈殴る= コミュニケーション 〉なのだろう。
「開始は昼休憩を挟んで一時間後。細かいルールはそれ用のアプリを送るからそれを見てくれ。昼飯食いながら作戦会議でもしろよ」
こうして午前の訓練が終わった。
昼休憩。
昼食は食堂(家庭科室)に舞香が準備していた。
お盆に皿を乗せると花見たちは食堂の外へと向かう。
「すまないが、俺たちは別室で食べさせてもらう」
「作戦会議するからね~。盗み聞きしちゃダメだよ」
「それじゃまた後で」
そう言って三人は出ていった。
「私たちも出ましょ」
「え?あっちが移動してかれたんだから俺たちは動かなくてよくないか?」
「食器戻しに来たタイミングではち合わせして聞かせちゃうかもしれないでしょ」
「あ、そっか」
柚利乃に言われ、春樹たちも食堂を後にした。
三人は一年三組の教室を訪れ、席をくっつけ向かい合わせていた。
今は時間が惜しいので昼食は早々に食べ終え、すぐに会議に取りかかっていた。
「本題に入る前に少し二人に話しておきたいことがあるの」
「なんだよ改まって」
「大した話じゃないわ。ただ、今回みたいな花の持ち主同士の戦いの時の注意点を簡単に話しておこうかと思って」
言われてみれば、対人で戦うのは今回が初めてだ。確かに人間相手の注意点は一回聞いておきたい。
「花の持ち主同士の戦いでは相手の能力をどれだけ理解できるかが重要になってくるわ。戦いの中で情報を集め弱点を探していくという感じね。そして、逆を言えば相手もこちらを探りながら戦ってくるということ。聞いたかもしれないけど能力はその人の花によって決まる。人によっては花の名前を聞いただけである程度の相手の能力を推察できる人もいる。だから、むやみに自分の花の名前を出すのは控えたほうがいいわ。相手に情報を与えることになるから」
柚利乃が話すと二人は軽く返事し頷いた。
「まぁ私はもうバレていると思うけど…………」
愚痴のように柚利乃が言うと、春樹は突っ込む。
「何でだ?名前に『梅』が入っているからとかか?それなら俺にも須藤で『藤』が入ってるじゃんか」
「そういう理由ではないんだけど………」
他に何か言いたげだったが、これ以上は時間がもったいないと思ったのか柚利乃は話すのをやめた。
「とりあえず、そういうことだから気をつけてね。そろそろ本題に入りましょうか」
話を切り替えるように柚利乃がシードを起動する。アプリの一覧に宝箱と鬼のイラストが描かれた いかにもなデザインのものがあり、それを開いた。
宝探し鬼。施設付近の山を使い指定された範囲内で行われる。
制限時間は40分。それとは別にゲーム開始前、探す側のみが動ける3分間の準備時間がある。
探す側の勝利条件はエリア内の赤、青、緑の三つ宝箱を見つけ出し手に入れること。箱の中のボタンを押すことで獲得判定になる。
鬼の勝利条件は三つの宝箱を奪われないようにすること。鬼は探す側を捕まえて妨害することができ、探す側の背中に触れれば確保となる。背中に触れられるとシードからアラームが鳴るのでそれで判断する。
「___と、ルールはだいたいこんな感じらしいわ」
柚利乃が文を読み終えるとこちらに視線を戻す。
「う〜んそのルール、よく考えると俺らきつくねぇか?」
説明が終わると同時に春樹が口を開く。
「だって、探す側の俺たちは三つ全部開けなきゃ行けないんだろ?鬼側からしたら適当な宝箱一個に三人で張ってればいいってことなんじゃないか?」
「それ対策かはわからないけど、マップに宝箱が描かれているのは探す側だけらしいわ」
なるほど、詰みにならないように一応、考えられているのか。
「探す側はどう動いた方がいいのでしょう?三人散らばった方が、効率的ではあると思うんですけど…………」
顎に手を当てひなきが頭を振りながら考えていると、柚利乃が小さく手を挙げる。
「そのあたりの作戦に関しては、私の中で一応纏っているわ」
「お、さすがだな」
二人の視線が柚利乃に集まる。
「今回の作戦は_____」
昼休憩が終わり、昇降口前に舞香も含めた八人、全員集まっていた。これからみんなで宝探し鬼の森のエリアへ移動するとのことだ。
「須藤」
「はい?」
先頭の杏奈たちが歩き出したのとほぼ同時に、花見に声をかけられる。
「紅花、と言ったか。あの子はどうした?」
花見に聞かれると、一度上を見て思い出すように春樹は答える。
「えっと…………紅花なら今、中で寝てると思いますよ」
「…………そうか。まぁ朝も早かったからな。杏奈さんたちに言われているかもしれないが、森の中は定期的に剪定しているとは言え突然ザープが出てくる可能性がある。後から来ようとているなら一人で外に出るのは控えた方がいいと伝えておいてくれ」
「あぁ…はい」
少しぎこちない雰囲気で春樹は忠告を受け取った。
森に入り行きに来た道を少し戻ると途中で分かれ道があった。そこを曲がって10分ほど歩いたところが今回の戦場らしい。
「ひなきちゃん……ホントにそれで行くの?」
歩きながら困惑の表情を浮かべ美琥は聞く。
「はい、これが私の戦闘スタイルなので」
「そ、そう………」
戸惑う美琥に構わずひなきは言った。
とはいえ、動揺するのは当然である。なぜなら、ひなきは行きで背負っていたあの巨大なリュックと共に参加すると言っているからだ。
初めて見たときほど膨れていないので少しは中身を抜いたようだが、それでも大きい。
これから森の中を走るにしては明らかに不利に思える。
「そんないっぱいの荷物背負って重くないの?」
「全然大丈夫です!私、元気なのが取り柄___ってわっ!」
「______っ!」
「おっと」
倒れかけたひなきを後ろにいた清水がリュックを掴み支える。
「大丈夫?この辺り木の根っこが地面からいっぱい出てるから、足元 気をつけてね」
「………はい、ありがとうございます」
振り返りひなきはペコリと清水に頭を下げた。
そうこう雑談しているうちに宝探し鬼のエリアである森の入り口に到着した。
青空の下、インカムの装着などの準備を各々整えると、向かい合い列を作っていた。
両チームが並んでいる前に大人組の二人が立つと、舞香が口を開く。
「このゲームのルールを考えたのは私だ。何か質問があれば聞くぞ」
すると、柚利乃が手を上げた。
「確保された後の制限を聞きたいです」
「あぁ……書き忘れていたか。捕まった場合はその場で待機。能力の使用も禁止だ。だが、捕まっても通信で指示出しするのはアリだ」
「なるほど………ありがとうございます」
少し考え込むような様子を見せながら柚利乃は手を下ろした。
「他、何かあるか?」
再び全体に聞くと次に花見が手を上げる。
「これは質問と言うより提案なのですが、探す側の開ける宝箱の数は三つではなく、二つ以上で勝利というのにしてはどうでしょうか?チームとしての力の差を考え、もう少し調整するべきかと」
「…………とっ言っているが、それでいいか?」
舞香が南部チームの三人に聞く。
三人は「はい」と答えた。
「他は?」
その舞香の問いに反応はなかった。
最後の説明が終わり、杏奈が口を開く。
「よし、ではこれより宝探し鬼を始める。どっちも開花して準備しろ」
杏奈が言うと、花の持ち主たちはそれぞれの輝きを放つ。
「開花っ!」
両チームとも開花モードとなり準備が整う。
「それじゃ始めるぞっ!よーい____」
「〈雪花__かまくら〉」
「スタートッ!」
宝探し鬼の火蓋が切って落とされた。




