出発_2
駅降り、正面にあったエレベーターで上がると外は大自然が広がっていた。
超緑化現象の影響でガーデンの外はどこもこんな感じだ。
大人二人の後をついて行くと他のところよりも草刈りされた山道らしきものが見えた。どうやら今からここを登っていくらしい。
「着いたか?」
胸の辺りから紅花が顔を出す。
「いや、まだ。これから山を登るんだとさ」
「そうか。なら着いた時に起こし___」
「ちょ、おい待て!」
戻りかけた時、紅花の頭を春樹が掴む。
「なんじゃ?」
「お前が出たり入ったりする感覚まだ慣れてなくて気持ちわりぃんだよな。これから会う人たちへの紹介もあるし、今日はお前ずっと出てろ!」
「えっ………」
明らかに不満そうな顔をする。言いたいことはわかる。ベッドで寝てたら勝手に目的地に着いた、はどんなに楽かって話だ。
「お前用に持ってきたお菓子食ってていいから」
春樹の言葉に紅花は目の色を変える。全身を出し、定位置である肩に紅花はまたがる。
「ふん、仕方ないのぉ。主の命を聞くのも仕える者の仕事じゃからな」
春樹は荷物の中から紅花用の荷物を取り出すと適当にポテチの袋を掴み渡した。
大きな木々を通り過ぎながら春樹たち一行は登っていた。先頭に杏奈と舞香。次に柚利乃と春樹、紅花。最後にひなきなという順の編成だった。山道の広さ的にはもう一人ぐらい横に並べそうなのだが、ひなきの荷物が大き過ぎたため後ろに回ってもらった。
「ひなき、荷物重くないか?」
後ろを振り返り春樹は尋ねる。
「はい!全然大丈夫です!」
「そうか。すごいな」
「私、元気が取り柄なので」
肩車しているせいでしっかりとひなきの顔は見れなかったが、声の雰囲気からまだ元気そうだ。実は結構力持ちだったりするのかもしれない。
それはそれとして、春樹の中で一つ気になっていることがあった。
「なぁ、紅花」
「ん?」
口の中でボリボリと音をたてなから、紅花は視線を下げる。
「その服装って変えられたりできないのか?」
「それはもちろんできるが。なんじゃ、着せ替えでもしたいのか?」
春樹がロリコンでお人形遊び大好きならしていたかもしれないが、生憎そういう理由ではない。
「今の服、布面積が多いから首がすごく蒸れし、暑いんだよ。無駄に花の力を消費するし。後、めっちゃ部屋着」
紅花はエネルギーの塊だ。紅花の身体。そして、今着ている服は最初に着せた服を元に春樹の花の力を編み込んで再現したものである。作る服の体積が大きければそれだけ力も使う。元にしている服が柚利乃のサイズのため、そのサイズの無駄がずっと気がかりだった。
まぁ別の話として、この力のおかげで紅花の分の着替えを持っていかなくて済んだのは素直に助かったのだが。
「うむ、そうか……。なら消すか?」
そう言うと紅花が着ていた服が紅い粒子になって一瞬にして消える。
「は………?ちょ、おいっ!」
うなじの辺りが急にスッキリし、春樹は慌て出す。
「こ、紅花ちゃん!」
後ろ歩くひなきもいきなり紅花の肌があらわになって驚き、足を止める。
「なんだ?騒がしいな」
二人の騒ぎを気づき前方の杏奈たちも振り返る。
そして、その要因はすぐに三人の目にも飛び込んできた。
「ほぉ、これがクールビズというやつか。確かにこれは涼しそうだ」
「おい春樹。さすがに、言う事聞かねぇからってそれは可哀想だと思うぞ」
「須藤くん、未成年者へ性的虐待は罪が重いわよ。今から通報するから覚悟したほうがいいわ」
三人各々、言葉をくれたがどれも土台に軽蔑の感情が入っているように思えた。
「ちょっと待ってください!!誤解です!誤解! 服装、変えられないかなって話してただけなんです!もっとこう……外着みたいなのにって」
犯罪者扱いされそうになり、春樹は必死に弁明する。
名づけの時もそうだが、紅花は時々突拍子もないことをするからこっちはいつもヒヤヒヤする。これが人間と精霊の感覚の違いなのか……。
「ま、なんでもいいが、歩いている間に決めろよ。向こうの奴らにも変態野郎のレッテルを貼られる前にな」
そう杏奈が言うと進行方向に向き直り、皆止めていた足を動かし出す。お互い冗談だというのはわかっていたのでこの話はここで終わった。なんか適当に画像でも検索するか。
「春樹さん」
「ん?どうしたひなき?」
春樹も歩き出そうとした時、ひなきが声をかけてきた。
呼び止められた春樹はひなきの方に視線を向けると、ひなきはシードを起動し、春樹たちに一枚の写真を見せる。
「これ、妹の写真です。身長も紅花ちゃんと同じぐらいなんでちょうどいいかなと思います」
空間ディスプレイをフリックして春樹たちに飛ばし、写真を確認する。そこには小学生ぐらいのひなきに似た少女が写っていた。まさに、求めていたものだった。
「おぉ、ありがとうひなき!紅花、できるか?」
「うむ、わかった」
紅花の体が紅く光だし、表面の形状が変化していく。すると、写真に写っている服に似たロゴの入った半袖とショートパンツの年相応の可愛らしい装いに変身した。
「こんな感じか?」
「わぁ、紅花ちゃんすごく似合ってるー!」
紅花の姿にひなきは喜びの声を上げる。
褒められた紅花は腕を組み、高々と鼻を鳴らす。
「ふん、いい褒めっぷりじゃ。褒美にポテチをやろう?」
そう言って、紅花はポテチの袋から一枚取り、ひなきにあげた。褒められて完全に気分が良くなっている。
「ふふ、ありがとう。紅花ちゃん」
それを受け取り、ひなきはパクリと食べた。
「お前ら、何やってる。とっとと来い!」
先に歩いていた杏奈が春樹たちがついて来ていないことに気づき呼ぶ。
「す、すいません」
呼ばれた春樹たちは慌てて山道を登った。
「よし、お前ら着いたぞ」
杏奈たちの先導により春樹たちは頂上へ辿り着く。
「ここが第二訓練施設だ」
手前に広がるのは大きな平地。隅にはいくつかの倉庫のような小さな建物や訓練用の器具などがあった。そして、平地の奥には四階建ての大きな建物があった。
他の人たちの反応を見るに春樹たち以外にひなきもここに来るのは初めてのようだ。だが、その見た目に物凄い既視感があった。
なんかこの見た目、訓練施設ってより____
「学校…………みたいですね」
春樹の言葉をひなきが代弁する。ひなきにもそう見えたようだ。
「ここは元々中学校として使われてたんだが、超緑化現象により廃校舎になった。だが、人がいなくなっただけで建物としての被害としては少なかったから、こうして我々が改修して使わせてもらっているんだ」
二人の反応を見て舞香が説明する。
「へぇ、そうなんですね」
春樹たちが関心を示していると、先頭にいた杏奈のシードの通知音が鳴る。
「おっと、あっちの奴らはもう着いてるみてぇだな。あたしらもとっとと行くぞ」
杏奈のかけ声で春樹たちは足早に校庭を歩いて行った。




