出発_1
合宿一日目
本部で集合した春樹たちは杏奈たちに連れられ、エレベーターで地下へと下っていた。各々の横にはボストンバッグやキャリーケースが置かれている。今回、春樹は手持ちのバッグで参加する予定だったのだが、準備をしてみると紅花の分の荷物が入らなかった。と、ここで一悶着あったのだが、とりあえず今は置いておこう。いろいろあったが、結果として新たに旅行用の大きなボストンバッグを買うことにした。
「むぐ…」
リュックの膨らみで突撃された春樹は苦悶の表情を浮かべる。
「ああ、すいません春樹さん」
「いや、大丈夫。………………それにしても、_」
突撃されたリュックを横目で見る。
「ひなき、荷物ちょっと多くないか…?」
ひなきの荷物は大きなリュック一つに纏めているらしく、それを背中に背負っている。それに関してはいいのだが、その大きさが異常である。人間が二、三人入ってるんじゃないかと思うほど、パンパンに膨れ上がっていた。その結果広いエレベーター内を一人で半分も陣取っている状況だった。
「私は他の人よりも必要なものが多いので。これでもいつもより少ない方ですよ」
「…そっそうか」
女子は荷物が多いと言うし、そういうことなのだろう。まぁ柚利乃の荷物の二倍以上あるけど。
しばらくして、到着音が鳴りドアが開く。
息苦しかった箱から出ると、目の前の光景に春樹は感嘆を漏らす。
「おぉすげー」
そこは大量の車やバイクなどの乗用車が格納された車庫だった。上の方にはヘリコプターもある。
「地下にこんなところがあったんですね~」
ひなきも初めてだったようでキョロキョロと周りを見渡していた。
杏奈に連れられ歩いていくと、一両の電車のような車両が春樹たちを出迎える。
「今日はこれに乗っていく」
親指で車両を指し杏奈が示す。
「高速移動車両〈ブランチ〉。こいつはリニアモーターカーの原理を使って動くんだが、バカみたいに速い。ガーデン内ならどこでも5分以内に着いちまう。普段、任務で出るときもこれに乗って現場に行ってる」
後から思えば、前にザープが家に現れた時、柚利乃の到着が異様に早かった。こんだけ早ければ警報が鳴ってからすぐに駆けつけられるのも納得がいく。
「5分以内って時速何キロでんだよ………」
改めてアッシュの技術に驚く。
「ってことはこれ新幹線ってことですか!?嬉しいです!私乗ったことないのでいつか乗ってみたかったんですーー!」
車両を見ながらひなきは嬉しそうに目を輝かせている。
驚きと喜びの声を上げながら春樹たちは車両へ乗り込んだ。
杏奈が先頭の設置された端末に手をかざすと、作動音が鳴り車内に明かりがついた。出てきた空間ディスプレイを操作し、ほどなくして車両が動き始めた。
名前に高速、とついているだけあって走り出すと一気に加速していき、瞬く間に景色は線状に横のびした。
地下なので当たり前だが、窓の外を見ても無機質な黒い壁が永遠と流れていく。
車内は進行方向と平行に長椅子が向い合わせで置かれており、大人と子供に別れて座っていた。
線路沿いには灯りは無く、車内の照明だけが五人を照らしていた。
「そういえば、お前ら他の剪定者とは面識あんのか?」
暇そうに天井を見ていた杏奈が前の三人に聞く。
「紫粋さん以外とはあまり…………」
「俺は全然いないですね。というか、誰が剪定者なのかわからないです」
「私もです」
三人はそれぞれ首を振った。
「………そうか。じゃあ、最初は自己紹介からだな」
進行方向を見ながら遠い目をして杏奈は呟く。
「あれ?今回の合宿って他に誰かいるんですか?」
杏奈の言葉に春樹は首を傾げる。
チームの強化と言っていたからてっきり自分たちだけなのだと思っていた。
すると、杏奈がジト目でこちらを見てくる。
「おい、春樹___お前、しおり呼んでないだろ?」
「っ!___いやいや、読みましたよっ!読みました!」
持ち物の欄だけは……。そういえば、準備に手こずって全然中身を見ていなかった。
隠しきれていない額の汗にを見て、杏奈はため息をつく。
「はぁ仕方ねぇ。どっかのアホのために軽く話してやるよ」
「す、すみません………」
体を三人に向け杏奈は話し出した。
「今回の合宿は二つのチームで行う合同合宿。前にも言ったが、お前らがこれからチームとして必要なことを学ぶためのものだ。今日一緒に訓練するのは第三十四区から第六十三区の北部の剪定を担当している北部組のチームの三人だ。ちなみにあたしらは第一区から第三十三区の担当の南部組な」
ガーデンは全部で六十四に区分けされている。南から上昇していくように一から六十三まで割り振られており、ガーデンの中心であるアッシュの本部がある地域は第零区となっている。ガーデンは広いし、こうやって担当が分けられてあるのも納得だ。
「今回の三人は今年の四月に結成したばかりで、新人もいる。チームとしては浅いが、その内二人は今年で五年目の剪定者だ。今までは二人でタッグは組んでいて、現場経験も豊富だ。チームとしてもかなり高い水準をもっているし、得られるものも多いだろ」
杏奈の説明で今回の合宿の重要性が理解できた気がする。適当にやるつもりは毛頭なかったが、身が引き締まるのを感じた。
「そういえば柚利乃もそんぐらいだったか?」
「私は今年で四年目ですね」
「まだそんなものか」
四年目、4年目、よ年目ってことは…………。
「お前中二じゃんっ!そんなころからザープと戦ってたのか!?」
驚きのあまり聞いていた春樹は思わず飛び上がる。
柚利乃の戦闘は今まで何度か見ている。あの動きは一朝一夕できるものではない。しっかりと考えればわかったことなのかもしれないが、実際に言葉にされるとやはり驚いてしまう。
まさかそんな頃から戦場に身を置いていたとは………。
「あっでも、実際に現場に出たのは今年の三月からね。私、誕生日が二月だから」
「えっ?剪定者って歳、関係あるの?」
春樹が疑問符を浮かべていると正面の舞香が説明する。
「剪定者は十五歳以下は現場に出ちゃ行けない決まりなんだ。それまでは見習い扱いでアッシュの施設内で訓練している」
「ちなみにこの間まで私そこにいました~」
ひなきがヒラヒラと手を振る。
なるほど、さすがに中学生で現場に出たりはしないか………。
でも、鷄のザープと戦ったときの柚利乃の戦闘。結構、現場慣れしてる雰囲気あったよな。
「そうなんですね…。えっ?でも俺、歳は確かにクリアしてますけど、ここに入って二ヶ月ぐらいしか経ってないですし、一回見習いで訓練積んだ方がいいんじゃないんですか?」
春樹がそう言うと杏奈が顔を歪める。
「はぁ?何言ってんだお前。この間、大型ザープ一人で倒しただろ」
大型……?あぁ、四本腕の熊のザープのことか。
「いやまぁ…そうですけど、物事の順序的に_」
「大型ザープ倒しちゃったんですかっ!?」
横で聞いていたひなきが驚きの声を上げる。
いきなり大声を出されたので、ピクリッと肩を動かす。
「おっおう、まぁ………な」
「大型ザープの剪定って危ないから基本的に複数人で行うことが推奨されていて、一人でやるとなるとかなりの上級者じゃないと難しいって言われてるんです。それを入ったばかりでやっちゃうなんて、春樹さんすごいですっ!どうやって倒したんですか?相手はザープはどんなタイプだったんですか?大きさはどのくらいですか?あと元の花は__」
「ちょま、待って…っ!」
大きく目を見開き、早口でぐいぐいとひなきは詰め寄ってくる。
たまたまなんだよなぁ…。そんな言葉が喉までから出かかったが、向けられた羨望の眼差しに思わず飲み込む。
「ちょっと、重い…」
「あぁごめん」
「す、すみません…!」
ひなきの勢いのあまり体を後ろに反らしていたら、いつの間にか柚利乃に寄っ掛かってしまっていた。
柚利乃に軽く背中を押され、二人とも元の位置に戻る。
「ひなきはザープと戦ったことあるのか?」
「何回かありますよ。ガーデンの外にアッシュが管理している区域があって、訓練の一環でそこのザープと戦ったことあります。けど、私一人だと中型がギリギリですね~」
中型ってことは鶏と熊のザープは倒せるってことか。それだけでも十分すごいと思うが。
「ちなみにいつもどうやって戦っているんだ?」
「あっ、それ聞いちゃいますか?聞いちゃいますか?ふふっ。いいですよ!それはですね___」
聞かれて嬉しかったのかウキウキで話し出そうとした時、車内にチャイムが鳴る。
『間もなく、第三ガーデン第二訓練施設。第三ガーデン第二訓練施設です』
乗ってから十数分。どうやら目的地に着いたらしい。
「よし、降りるぞ。みんな準備しろ」
杏奈の一声でみな下車の準備を始める。
「えっ!?もう着いちゃったんですか?まだ話の途中なのに…………」
「わるいなひなき。その話はまた後で聞かせてくれ」
「うぅ…はい………」
春樹になだめられると残念そうな顔をしながら、ひなきも準備を始めた。




