第162話 飯炊き虫。
「ぴゃ! ぴゃ~!」
「ははは! なんとも柔らかい手触りだ!」
ハンゾさんが、ユキちゃんを抱っこして撫でている。
基本的にいいヒトはみんな大好きだからね、ユキちゃん。
いやー、助けられてよかった。
「この子が……報告にあったオルクラディのカス共に捕らえられていた妖精か。ムーク殿の活躍はとどまることを知らんな」
「イエイエソンナ――」
「――んだなっす! ムーク様は大した英雄様でやんす~!」
否定しようとしたらお茶を持ったロロンがスライディング気味に出てきた!?
こ、この子はもう……!
「……ロロンニ見捨テラレナイヨウニ頑張リマスヨ、ハイ」
「じゃじゃじゃァ!? そげなことばあり得ねのす~!!」
「ムギギギ~」
何が気に入らないのか、ロロンが目をくわっとさせながら体当たりしてきた! ポットが! 熱々のポットがボクの脇腹に! 脇腹に! ごめんて!
「はっはっは、相変わらずの謙遜ぶりだが……その姿はどうしたんだ? 成長するにしても急すぎるが……」
あっ、この人むしんちゅだった。
そりゃあ不審に思うよね、急に角増えたり体つきが変わったりしたら。
「白銀龍サンノポーションノ影響ラシイデス。ソレデ一気ニ成長シタッテ……」
「ああ、エンシュで大怪我をした時に使用されたという……成程な、凄まじい効果のようだ、龍のポーションとやらは。体を生やせるくらいだものな……」
……困った時のエルフ&ドラゴン!
これからも双方に訴えられないように生きていきたい虫ですよ、ハイ。
「ムーク様は型に嵌まらねえお方なのす~!」
……ロロンはボクへの絶大な信頼的なやーつで不審に思わないらしいね。
助かるけど……全肯定っぷりが時々不安になりますよ……
「アリガト」「はわわ」
でも嬉しいのは嬉しいので撫でておこう。
「ぴゃ、ぴゃう~」
何故かユキちゃんも飛んできたので撫でておこう……こっちもフワフワ!
妖精らしくたまに飛んでるけど、子狐ボディなので違和感が凄いよねキミ。
「アノ、ソウイエバボクニ何カゴ用デスカ?」
「うむ、ムーク殿と……妖精の力をお借りしたいのだ」
あっ……そういう言い方をするってことは、まーた怪しいヒトが出たのか。
「例ノ黒イアレデス?」
「ああ、そうだ。三の街にいる人族の集団が、どうにも怪しくてな……」
むーん……西の国は密偵が大分入り込んでるんだろうか。
まあねえ、怪しい動きをしてるならともかく……ただ入ってくるだけなら誰にでもできるよね。
鎖国してるわけじゃないんだからさ。
「ロストラッドから来たと周囲には言っているが……なんとも、気にかかる」
「ロストラッドノヒト、本当ニ大変デスネエ……」
風評被害が凄まじいよ、同じ人族なんだしさあ。
角とか尻尾とかで判別できないもんね、ヒューマン。
「見た目は同じだが、ロストラッドとあの2国は精神性が違いすぎる。おそらく西国12国で一番人族国家への恨みがあるのはあの国だろうよ」
「デショウネエ……トニカク、イツデモオ手伝イシマスヨ!」
フンス! と胸を張るボクです。
遠い遠い過去の同郷が作ったお国ですしね!
風評被害なんてボコボコにしちゃるぞ~い!
「頼もしいな、本当に助かる……怪しげな連中は揃って精霊避けの呪法を使っているからな。それ自体は違法なモノではないから、なんともならぬ」
「ナルホド……イツカラデスカ?」
「うむ、いつでもいいぞ」
あら、それは都合がいい。
今帰ってきたばかりだけど、この国とロストラッドのためでしたら頑張る虫になりますよ!
「……待て、まさか今から行く気か? そこまで逼迫した問題ではないぞ」
……ハンゾさん、さてはボクの表情を読んだな?
さすがは警察的な立ち位置のむしんちゅ!
『むっくんは体が五月蠅いので……』
ムギギギ……
「今日は首都に帰った挨拶を……と思ったのでな。他方面への連携もある故、今すぐにというわけにはいかんぞ」
「アッソウナンデスカ……」
ハンゾさんはお茶を飲み、一息つく。
「ふふ、英雄殿は相変わらずだな」
「んだなっす~!」
ロロンが超嬉しそう……この子ってばもう……
「庭にイーダが来ている。イリュシム先生に許しも貰ったから、しばしここで預かってもらうことになってな……」
イーダちゃんが!?
「あやつは子供好きだ。今まで休みなく働いてくれたからな……俺もしばらくは首都で動く故、その間はここで休暇というわけだ。本家にとも考えたが、子供はここが多い……ミカーモ家には頭が上がらぬよ」
走竜ちゃんにも休暇があるなんて、ホワイトな職場ですねえ。
そして、こことの付き合いもあるんだねえ……
「というわけで、今日は挨拶だけだ」
お茶を飲み干して、立ち上がるハンゾさん。
「スマンが少々引継ぎの仕事がある。『仕事』の時は前もって俺がここへ来る手筈になっているから……いつも通りに過ごしてくれ」
「アッハイ」
それを言って、彼女はササっと食堂から出て行った。
急いでるわけじゃないけど、動作が機敏……! さすが敏腕刑事さん! ……いや違うか。
「ぴゃう~」
ユキちゃんが、マントに入ったり出たりと楽しそうに遊び始めた。
元は子供の狐だったから……こんなもんかな? アカよりも幼い感じ。
まあでも、かわいいからいいや!
「マタ変ナノガイルンダネ~……モシモ密偵ダッタラボコボコニセントネ!」
「んだなっす! あげな者共ば、生かしておく必要はねがんす!」
ロロンもやる気……殺る気満々だ!
頼もしい……頼もしアルマジーロ!
「来る日に備えで、槍の鍛錬ばしてきやんす~!!」
おお、凄い勢いで走り去っていった。
「ぴゃ?」
ユキちゃんが首をかしげている、カワイイ。
「ボクラハ何ヲシヨウカネ~? ……ソウダ!」
とりあえずイーダちゃんに挨拶して……それからアレだ!
お米を! お米を炊くのだ~!!
・・☆・・
「ギャルルルル……」
「気ニナル~?」
ぱちぱち、と火の弾ける焚火の前にいる。
後ろから、ボクの肩にズーンと頭を乗せてくるのは……走竜のイーダちゃん!
すっかり子供たちの人気者と化していて、校庭で走り回って遊んでいた。
ボクも子供たちと一緒に遊んで……んで、今に至る。
許可を取って校庭の隅で火を起こしています!
柱を立てて、棒を渡して……そこに! お店で買った鍋を吊り下げております!
見た目はアレ! 飯盒によく似てるねえ!
あのおじさん、野外でも使えるやーつをチョイスしてくれたんだねえ……
あの時買ったお米は玄米だったので、脱穀は瓶に入れて棒でツンツンするやり方でやりました。
お水の分量とかは、頼れるトモさんが教えてくれたので大丈夫でした!
「いーにおい、すゆ~!」『お米よ! お米が炊ける匂いよ~!』
アカとピーちゃんは謎ダンスでウッキウキです。
いい匂いだよねえ、コレ。
「ギャッギャ」
「キミモ食ベレルノダロウカネ?」
お米は穀物だから……いけるのかなあ?
ま、この子たちは賢いから自分で判断できるでしょ。
「ん~? 変わった匂いがするね。それなーに?」
マーヤもやってきた。
「オ米~。タブンオイシイヨ、食ベル?」
「あはは! たぶんって何?」
「ボクノ炊キ方ガ悪カッタラ大変ダカラネ……」
なにせ、人生初だし~?
あ、もう一個用意しとこ。
テーブルを出して、お皿を置いて……っと。
「あ、ケズリブシ! これ好き」
「ボクモ~」
今回はオニギリにする予定です。
なので具は……おかか! 厳密には違うけどね!
削ったヤーツに醤油を垂らして、よーく混ぜたモノですよ。
それで……海苔も!
「にゃあ、その黒いのなに? なんか……いい匂いがする!」
「海苔ッテイウノ。海藻ヲ紙ミタイニ平タクシタモノダヨ」
マーヤは一枚手に取って匂いを嗅いでいる。
猫さんだからこういうの好きなんかな?
「ソノママ食ベテモ大丈夫ダヨ」
と言うと、そのままパリリと齧る。
あ、お目目がキラキラしてる。
「ん~! 美味しい、これ!」
「ぱりぱり、おいし、おいし~!」『いい海苔ね! 香ばしくって海の匂いがするわ! するわ~!』
あらら、妖精たちも。
ま、在庫は無茶苦茶あるからいいけどね~!
「わうぅ、おいちゃんなにこれ~?」
テーブルの上に乗ったオニギリを、ヘレナちゃんがキラキラ見つめている。
「オニギリッテ言ウオ料理。食ベテイイヨ~?」
「わーい!」
初めてにしては中々よくできたと思う!
お米もしっかり炊けたし、中の具もしっかり入れたしね!
あ、そういえば梅干し探すの忘れてた……まあいいか! また探そうっと!
それではみんなで……イタダキマス!
「アムム……美味イ!」
お米の味と、オカカがバッチリ決まって美味しい! 美味しい!
「まうまう……おいし! おいし!」
『いいお米よ! いいお米だわ~!』
「んんぅ……美味しいよ、ムーク!」
わーい! 皆にも大好評ですよ!
「ヘレナチャン、オイシイ~?」
「はもももも! おいひい!」
あら~、ほっぺにお弁当いっぱい付けちゃって~?
「わー! いいにおい!」「おいちゃんそれなに? なーに?」「おいしい? おいしい~?」
おやおや、食いしんぼの子達が続々と……よござんす!
握り虫むっくん、頑張りますよ~!!
「ギャッ、ギャウ~!」
あ、イーダちゃんもね!
いっぱい握らんとな~!




