第161話 朝帰り虫。
「……ムンムム?」
目を開けると……知らないようで知っている店内!
昨日のお店だね……そして、ボクは何故ライブハウスの舞台みたいな場所で寝ているのか。
これは……もしや……
『はい、いつものように歌って踊りました。おめでとうございます! おひねりの最高額を更新しましたよ! お隣様もむっくん団扇を振り回して大興奮でした!』
そ、そうですか……またやってしまったか……
そしていつの間にそんなものを……
「ムムンム……」
むくりと起き上がる……あ、毛布だ。
「すひゃあ……」「チュピピ……」
傍らにはアカとピーちゃんがスヤスヤ。
「む、起きたかムークよ」
ヴァルは近くの樽の上に座り、小さなコップで何かを飲んでいる。
「ウン……マタ歌ッテ踊ッタミタイネ、ボク……」
「ふふ、大人気だったぞ。相変わらずお主の歌う歌は聞き覚えが無かったが、どれもいい歌ばかりだ」
そうなんだ……全ての記憶がないので何がウケたかわかんないね。
「あ、ムークさん、おはよう~!」
店の奥から出てきたのは……昨日助けた、ええと……ルーシュカさん!
昨日は踊り子さんみたいな服だったけど、今日は普段着? ですねえ。
やっぱり、そういう格好だとかなり若く見えるなあ。
「酔イ潰レテゴメンナサイ……アト歌ッテ踊ッタミタイデゴメンナサイ……ココノ店員デモナイノニ……」
酔いつぶれたおっちゃんが店のカラオケ独占してたみたいな感じだもんね……クソ客虫!!
「いいよいいよ! みーんな喜んでたもん! それに、ムークさんの歌って全然聞いたことないのばっかりで楽しかった~!」
「うむ、大層な盛り上がりだったな」
「エェエ……」
逆に居心地が悪いよう……何歌ったんじゃろ、ボク。
『主に昭和時代の唱歌や歌謡曲ですね。ピーちゃんの時代にも流行っていたようなものをよくご存じですね、むっくん』
記憶がない虫です……子ヤギの上のアルプスなんとかかな?
『あ、昨日も間違えていましたがそこは『小槍』ですね。子ヤギじゃありませんよ?』
そうなんだ!?
「アカちゃんもピーちゃんも一緒に歌って踊って、とおっても盛況だったんだから! 座長も大喜び!」
ルーシュカさんがニコニコしている……ボクはともかく、妖精のダンスはそりゃあ大人気だったろうね……
「ていうかさ! ムークさん!」
ずずい、と寄ってくるルーシュカさん。
な、なんですか?
「貴方、とおっても強くて有名なヒトなんですってね! お客さんが教えてくれたの! エンシュでアーゼリオンの軍隊を皆殺しにして、深淵竜を真っ二つにしたって本当!?」
「モノスゴク盛ラレテイル!?!?」
ボクが想像上の英雄みたいになってる!?
尾ひれがつくどころか、主翼に尾翼が加わってジェット機になってるよ!?
「あ! 盛られてるってことは、活躍したのは本当なんだね! すごーい!」
「エットォ……何ト言エバイイカ……」
「あーあと! 【大角】将軍様の隠し子って本当!?」
「ソレハ違イマスウ! 知リ合イダケド無関係デスウ! ボク孤児! 孤児ダカラ!」
せめてこの噂だけはここで殺しておかねば!
「えっ……ご、ごめんなさい!」
アーッ! 孤児設定だけが伝わってしまった! ンギー!!
コミュニケーションってとっても難しい! 難しい!!
・・☆・・
「ルーシュカ、アンタは思ったことをなんでもかんでも口に出すのをやめな。おおかた昨日の男連中だって、ボロクソに言ったから激昂されたんだろ? まったく……いやな相手でもうまく躱して逃げる話術ってのをしっかり勉強すんだよ」
「はぁい、座長ォ……」
ライオンさんに、ルーシュカさんが怒られている。
「何も媚びを売れって言ってるんじゃないんだ。上の姉ちゃんたちに教えてもらうんだね」
「はぁい……」
さっきルーシュカさんに聞いたけど、ここは家族経営。
家族って言っても、みんな義理の家族。
あのライオンのおばさん……名前はザミーラさん……が引き取った戦災孤児さんなんだって。
立派だ……立派過ぎる……
そして、ザミーラさん自身はとっても有名な女傭兵さんだったとか。
どうりで……強そうなわけですねえ。
同じイヌ科で親子だとばかり……
『ツッコミ忘れていましたが、ライオンはネコ科ですよ』
そうなんだ!?
また賢い虫になってしまった……!
「それはそうとムークさん! 昨日はありがとうねえ」
「エ、エエ?」
なんかしましたか?
「アンタと妖精ちゃんたちのおかげで売り上げがいつもの4倍近いんだよ! 毎晩やってほしいねえ!」
「ソ、ソウデスカ……ア、コノオヒネリヲ……」
昨日稼いだおひねり、総額1985ガルです……多い! ちょっとした冒険者仕事くらいの!
「何言ってんだい! そりゃあアンタが稼いだもんだよ! 取っときな! 妖精ちゃんたちにも給料を払いたいくらいさ!」
「エェエ……」
おおん……いいのかな……?
「ふむにゅあ……」
あ、アカが起きた。
「オハヨ」
「むいむいむい……おはよ、おはーよ!」
するするとボクの体を登り、首筋に縋り付くアカ。
こしょばい&あったか~い!
「チュピピヨ~」
ピーちゃんも起きて、フラフラ飛びながら肩に着地。
おお、左右に揺れとる。
『おはよう、ピーちゃん。昨日はアカと一緒に手伝ってくれたみたいでありがとね』
『むんむむ……おはよう! おはよう! とっても楽しかったわ! 楽しかったわ~! 演奏の人たちも即興で合わせてくれたし、素敵なコンサートだったわ~!』
そんなことになってたんか……
どんどん大掛かりになっている気がするな、ボクの歌い踊り。
そろそろお酒で意識飛ぶのやめて欲しいなあ。
「アカ、おやびんのおうたしゅき、しゅき~!」
『私も! 私も~!』
「エッヘッヘ……アリガト」
ま、いいか! 2人も、ヴァルも好きだって言ってるし~?
「こんなに妖精に懐かれる人は初めて見たよ、ホントに」
「だよね~! アタシも~!」
そもそも妖精さんがあんまり表に出てこないからねえ。
「さて、それじゃ朝飯も食ってってくんな! アンタのお陰で昼は休みにするからさ! はっはっは!」
「あ、それいい~! 食べてって、ムークさん!」
これは……わかるぞ! 絶対に断れない感じの! 空気!
『ソソソ、もう受け入れるしむっくん。トモちんおかわり~!』
『中辛麻婆丼お待ち、です。お隣様は豚バラ丼です、キムチトッピングでどうぞ』
2人とも朝からなんと重いものを……!
・・☆・・
「わぅう! おいちゃんおかえり~!」「ぴゃ~!」
孤児院の門をくぐると、ピーちゃん像(大)の向こうからヘレナちゃんとユキちゃんが走ってきた。
朝から元気ねえ。
「タダーイマ……ット」
ダッシュジャンプから、そのままダイレクト抱っこに移行するボク。
さすがけもんちゅ、こんなに小さいのに運動能力が高い!
「ぴゃう! ぴゃう~!」
出遅れたユキちゃんは、足元でピョンピョン小ジャンプしている。
かーわい! 刃収納状態の隠形刃腕ですくいあげてキャッチ~。
「タダーイマ!」「ぴゃ!ぴゃ~!」
そのままユキちゃんは嬉しそうにボクや肩のアカをぺろぺろ! ぺろぺろ!
ヴァルは頭の上に避難しております! どうにもぺろぺろは苦手みたい。
「おいちゃん、どこいってたの~? ロロンおねえちゃん、しんぱいしてたよ~?」
「ナント言エバイイカ……ウウーン……人助ケ?」
色々とややこしいからねえ。
とりあえず、抱っこしたまま歩く……ヘレナちゃんはあったかいねえ。
「おや、朝帰りムークなのナ」
ひらりと降下してくるアルデア。
「色々アッテネ……」
「ふふん、いい店を見つけたのなら後で教えるのナ~?」
あのお店はとってもいいお店だったから、教えるけどさ。
今度は演奏とかも聞きに行きたいし。
「すんすん……おいちゃん、またいいにおいする~!」
「ソソソ、オ土産アリマスヨ~?」
帰りの市場でお菓子と果物をね! ね!
「あたちのぶんも、ある~?」
「アルニ決マッテルデッシャロ~? ホラ高イ高~イ!」
「わぅう~! あはは、あははは~!」
これでお土産ないデース! とかいう人はボコボコにしてやりますよ~!
ヘレナちゃんを抱っこしながら校舎へ……あ、ロロンだ!
「ムーク様! おかえりなさいやんし~!」
洗濯物を干していたロロンが、顔をほころばせて走ってくる。
朝から仕事熱心のかわいアルマジロ!
「たろいま、たろいま~!」「はわわ……あはは!」
肩から飛び立ったアカが、そのフワフワヘッドに突撃していった。
あの子あれ好きねえ。
「あ、おいちゃんおいちゃん!」
「ハイハイナンデショ」
「おきゃくさんきてるよ~」
……お客さん?
「――久しいな、ムーク殿」
食堂に行ってみると……そこにいたのは、ハンゾさんだった。
いつものような兵士姿じゃなくって、動きやすそうな服を着ていらっしゃる!
「ドウモドウモ、御無沙汰シテオリマス」
ディナ・ロータスの時以来じゃん。
あれから時間はそんなに経ってないけど、内容が濃すぎるからすっごい前のことに思えるよ。
「ぬ、新顔か。ワレはヴァルナディーナ、長い故ヴァルでよい」
「また妖精が増えている……トリハ・ハンゾだ。よろし……まさかその腕の中にいるのも?」
肩のヴァルに挨拶したハンゾさんが、抱っこしているユキちゃんを見て目を丸くした。
「ぴゃう! ぴゃう~!」
「ユキチャンデス、最近知リ合イマシタ」
元気に挨拶するユキちゃんに、ハンゾさんは二コリと微笑んだ。
「ふふふ……規格外だな、英雄殿は」
そんなんじゃないってば~!




