第159話 夜歩き虫。
「ハグモム……ウママイ、ウママ~」
噛み締めると、パキっとした感触に続いて……肉汁が溢れる! 溢れる!
ハーブっぽい香りがまた食欲をそそって……いくらでも食べられる~!
「はちゅ、おいし、おいし~!」
アカも大満足でかじりついているのは……ソーセージ! 腸詰め!
ボリューミーで美味しい! ここでは『コルンデ』って言うんだって!
別にいいや! 美味しいから!
『噛み締めると肉汁がたまらないわ! 香草が爽やかで、いくらでも食べられちゃうわ~!』
「美味い……! このプリっとした歯応えがまた……!」
ピーちゃんとヴァルも気に入ったみたい。
このコルンデが、この店のおススメ……さらに!
「コノ、シチューモオイシイ……!」
一緒に出されたこのお野菜ゴロゴロのシチューが美味しいんだ!
あと、付け合わせのパンも!
固めで、麦の香りがよくって……!
総合的にとってもとっても当たりのお店!
「ムークさん、とっても美味しそうに食べるのね~」
「そうでしょォ? ちょっと子供みたいでかわいいわよねェ?」
店主さんとタヴィアさんが顔を見合わせて笑っている。
そりゃね……中身は赤ちゃんですしおすし~?
「それに……ミカーモ孤児院のピーちゃんに料理を振舞えるなんて、料理人冥利に尽きるわよ!」
「ホウ……何故デス?」
有名は有名なんだろうけど、なんでじゃろ?
「そりゃあ、ミライ飯店の初代ゴーサク料理長の味見役だもん! 『チューカリョーリ』をトルゴーンや周辺諸国に広めた伝説の料理人だからね! 初代さんは」
あ、そっか……この世界における中華料理発祥の店なんだった……あそこ……
厳密にいえば町中華なんだけど……
一から新ジャンルを立ち上げた大人物だもんねえ……
『ゴーサクさんはとってもとっても凄い人だもんね、ピーちゃん』
『そうね! そうよ! ゴーサクちゃんはとっても頑張り屋さんの素敵な子だったんだもの!』
ピーちゃんはチュチュン! と胸を張った。
さっちゃんさんやゴーサクさんのこととなると、嬉しそうだねえ……お食事中だけど、撫でちゃう!
「チュチュピ!」
おお、フワフワ……ってことは嬉しいんだね!
「んにゅへへぇ……」
アカもね! 撫でちゃう!
「こら、食事中だぞムーク」
「ゴメンナサイ……」
ヴァルに怒られちゃった。
「あははァ、やっぱり子供みたい! うふふ!」
タヴィアさんは大ウケしている。
店主さんもなんかこう……ニヤニヤしてる!
ま、まあいいか……楽しんでいただけて満足虫ですよ。
ソーセージ食べよ、モグモグ……美味しい!
「けぷう」「美味かった……うむう……」「チュンチュク」
料理はどれも最高で、その結果妖精たちはお腹をポンポコにしている。
ボクも大満足であるよ……!
「オイシカッタデス~!」
「お粗末様! いやあ、みんないい食べっぷりだったから見てて楽しかったわよ!」
店主さんも上機嫌。
「じゃあ、ここは私が払うわねェ?」
「ヴェッ!?」
何を言い出すんですかタヴィアさん!?
「駄目デスヨ! 紹介シテモラッタンダカラ、ボクガ奢リマスヨ! ムシロ~!」
でも、タヴィアさんはニコニコしている。
「んふふ、駄ァ~目♪ ムークさんにはあのチンピラを牢獄にぶち込んでもらった恩があるからねェ~♪」
……何故、バレてるの!?
「あははァ! ビックリしてるビックリしてるゥ! 実はねェ、衛兵にウチの常連がいるのォ♪ この前聞いてビックリしちゃったァ♪」
「オ、オウ……」
なるほどね……この世界には守秘義務がないのですかァ!
『そこにないならないですね~』
そうですか……おおん。
「あー! あの傭兵崩れのアホ、とうとう捕まったのね! ウチでも酔って暴れたからね、ロクな相手じゃなかったよ!」
「ま、これから辺境で強制労役だから……それが終わっても犯罪者は首都立ち入り禁止で二度と会わないだろうしィ? だからね、ムークさんにお礼ィ♪」
あああ! 一瞬で会計が終わっちゃった!!
経済を……経済を回せなかった~!!
っていうかそういうシステムがあるんだ!
それなら安心だね! あの衛兵さんを搔い潜って潜入なんて……申し訳ないけど、あの男にできるとは思えないし!
「ゴ馳走様デシタ……! アリガトウゴザイマス!」
「いいのいいのォ♪ これくらい軽いモンよォ♪」
それにしてもいい笑顔……美人ですね! ンモモ~!!
・・☆・・
『やはり夜は酔った連中が多い……ワレらは外に出ん方がいいだろうな』
『了解~』
『また来てね!』と店主さんに言われて、お店から出た。
タヴィアさんとは帰る方向が違うので、店先で別れる形になりました。
んでんで、夜の二の街をぽてぽて歩いております。
ヴァルは起きてるけど、アカとピーちゃんはポンポコ状態でスヤスヤ。
しかし、さすがはトルゴーンの首都。
夜だっていうのに人通りは多くて、店々の明かりもいっぱいついてる。
むしんちゅとけもんちゅがメインだけど、酔ってるって明らかにわかるのはけもんちゅが多いねえ。
むしんちゅさんは顔に出ないからね、感情も。
『ぬ、大丈夫だと思うが端に寄っておけ。酔っ払いが来る』
はいはーい。
あの人族さんね……無茶苦茶酔ってるなあ。
ボクが見かけ上単独行動でよかった。
ボク以外の仲間はみんな可愛かったり綺麗だったりするもんな~。
『悪い人?』
『ただの酔っ払いだが、わざわざ近付くこともあるまい?』
ですよね~……視線を合わさないようにすれ違う、っと。
見えてる厄介ごとは回避安定ですわよ~?
しかし、さっきから酔っ払いが多いね?
『むっくんがいる区画、飲み屋街プラス歓楽街ですので』
あ、そうなん?
ターロがいたら喜びそうな所だね。
……おとと、駄目だ彼はもう既婚者だった! ミーヤに殺されちゃう!
『一般的な獣人は一夫多妻が普通ですが……ミーヤさんは独占欲が強そうな気がしますからね』
ずううっとターロのこと好きだったんだもんね。
愛が深いんだろうなあ。
ボクにはまだそこらへんよくわからんけども。
『わかれし、積極的に学べし』
遠隔シャフさん神託!
が、頑張りますよ……
いやー、しかし賑やかですなあ。
あっちこっちで陽気な歌声とか音楽が聞こえてきて、ボクもなんか楽しくなっちゃうな~?
『歌って踊ると目立ちますよ? お隣様は何やら期待した目をしていますが……』
やりませんよ……素面なのに!
アレはどっちかというと発作みたいなもんで……
『……ぬ!』
おおびっくりした、どしたんヴァル?
『ムーク! 右の路地の奥から女の悲鳴だ! 誰かが襲われておる!』
なんじゃって!?
衛兵さん! 衛兵さ~ん……いない!
『タイミングが悪く、半径200メートル以内に衛兵らしき方はいませんね』
……じゃあ仕方ないネ!
『案内よろしく、ヴァル!』『心得た!』
後は帰るだけだったんだけど……さすがにコレを見過ごしちゃうのは駄目だと思うの!
慈悲なし虫にはなりたくありませんので~!
「ちょっと! やめて、離して! 私は娼婦じゃないんだから!」
「いいだろ金なら払うって言ってんだからよォ!」
「そうだぜ、一晩リュート弾くよりも何倍も稼げんだからさ!」
「そんなこと言って、そういうシゴトもやってんだろ~?」
ヴァルに言われて走り込んだ路地。
そこの最奥は、なんか広場になってて……人だかりがあった。
ガタイのいい男たちが、壁際に女性を追い込んで囲っている。
ここからじゃよく見えないけど、囲いの内側にいるのは薄着の女性……っぽい!
『むぅ……下衆な内面が透けて見える連中だな……!』
懐のヴァルがぷんすこ怒っているのが伝わってくる……これはどう見ても駄目な感じ!
「――ヤメロ! ソノ人カラ離レロ!!」
ボクの声に、男たちがこちらを振り向く。
ムムム……けもんちゅ2! ヒューマン2の4人組!
身なりからして、一般職ぽくない! たぶん傭兵か冒険者!
「あぁ? なんだテメエ……!」
「俺たちゃこれから楽しむんだよ、虫はお呼びじゃねえぞ! 失せろ!」
ウワー! 沸点が低い! なんですぐに武器抜くんですか!
お酒か! お酒のせいなのか!!
『はい、これでむっくんに正当防衛が成立します。ボコボコにするなりハンバーグにするなり、お好きにどうぞ』
異世界コワイ! あまりにも暴力が支配しすぎている!
「にいちゃんよぉ……英雄気取りか? 長生きできねえぞ、オラ!」
一番こっちに近いイノシシ系けもんちゅが、ロングソード片手に走ってきた。
「怪我スルゾ! ヤメトケ!!」
「そいつは……テメエの方だろうがよォ!」
イノシシは、走ってきた勢いでボクに剣を振り下ろす――しゃーない!
魔力循環! カモーン! チェーンソーアーム!!
「んなぁッ!?」
振り下ろされた剣を、高速回転するチェーンソーが迎撃!
噛み合った瞬間に、そこそこ綺麗な剣はバラバラになって――即座に衝撃波! 散弾ッ!
「げぇばあ!?」
イノシシは、お腹に炸裂した衝撃波で吹き飛び、壁に叩きつけられた。
「ロブソン!?」「てめえこの虫野郎!」「ぶっ殺してやるゥア!」
お仲間が寄ってきた! ああもう、結局こうなるのね~!!




