第158話 ある意味ミッションコンプ虫。
「お知り合い、ですか?」
「ソウデスソウデス、オ姉サンハヨクココヲ?」
にこり、と笑う女性。
うむむ……正面から見ても全然悪い人だってわからんな。
「ええ、最近近くに引っ越して来まして……やはり地元の食材の方が好きなので」
「ナルホドー」
ここではロストラッド人のふりをしてるのか……
とにかく、この場で余計なことを露見させないように一般虫に擬態するのだ!
ここで戦いになって逃げられでもしたら、ボクには絶対に追えない自信があるし、他にも仲間がいるかもしんないし!
それに……あのクソキモ肉魔法をばら撒かれたりしたら、ボクは最悪再生できるけど……ここのヒトたちが死んじゃうかもしれないし!
『ふん、大した女狐だな。やはり一切の好意も敬意もないぞ? それと、微かだが魔術の反応がある……顔と、それに声も弄って変えているな』
ヴァルってば頼りになりすぎる!
そして魔法で整形もできるなんて……異世界怖すぎる!
「ホラよにいさん、お待たせ! っと……いらっしゃい! いつも来てくれてありがとうよ!」
おじさんが海苔と鍋が入ってるらしき袋を持ってきて、女性に愛想よく挨拶をしている。
「ええ、ここはモノがいいですから」
「嬉しいこと言ってくれるねえ! おじさんオマケしちゃうよ~!」
「ふふふ、ありがとうございます」
やっぱり、なんの違和感もないな。
これの善悪を判断できる妖精ってすごいな……
「ア、オ会計オ願イシマス~」
「あいよ、しめて250ガル! また来とくれよ~」
お米一俵と海苔、それに鍋だもんね、それくらいするか。
……むしろお安くな~い? 儲けとか出てます~?
「ハイ、アリガトウゴザイマス~!」
ボクはおじさんと……それから疑惑の女性に頭を下げてその場を後にした。
最後にもう一度振り返ると……ヒィ! あの女こっち見てる!
だけどボクは陽気な虫なので、大きく手を振ることでお茶を濁したのだった。
『きらい、あいつ、きらーい!』
『前に孤児院まで来た嫌なヒトね! もやもやよ! もやもやするわ~!』
『安心せよムーク。気付かれた様子はないぞ、よくボロを出さんかったな』
あ、ヴァル以外も起きてたんだ。
よかった、寝ぼけて外に出られたらえらいことになる所だったよ……
とにかく、一刻も早くここを離れるんじゃ!
変に思われない程度の早歩きで~!
・・☆・・
「(……今の虫人、少し姿が変わっているけどたしか孤児院の……? 随分見かけるわね。それに、大人の虫人にしては明るすぎるような……)」
「ええと、いつものでいいかい? それと、旦那さんは元気にしてる?」
「あ、はい。よろしくお願いします。ふふ……元気も元気、ここの食材にしてから少し太りまして……」
「(……まあ、変わり者なんでしょ。あれだけわかりやすく明るいと影の者でもないだろうし……)」
・・☆・・
「ムーク殿、お待たせいたしました。何かお話があるとか……」
案内されたお部屋に入ってきたのは……小さくて、でも綺麗なむしんちゅ!
ノキのカルコさん!
あれから、飛ぶと目立つので三の街をダッシュで移動して二の街へ。
そして、前にチンピラと喧嘩した時に収監されたプチ牢獄へ突撃。
そこの責任者さんに魔導紋を出して、影衆さんか影無しさんを呼んでくださぁあい! と絶叫。
それから、1時間くらいして……今来た!
「ソウデスソウデス! 実ハ――」
報連相は確実に! 正確に!
「……成程、把握いたしました。まだ生き残りが蠢いていたとは……我らの不手際でありまする」
ボクとヴァルの説明を聞き終えたカルコさんは、薄く殺気を放出させている。
おおお……すごい迫力だ。
「あの隠れ場にいた人員は全て葬り、例の女と同じ顔の死体もありましたが……どうやら、偽装……! オルクラディも一枚岩ではなさそうでありまする。別の派閥から派遣された者か……いや、明言は避けまする」
なにやら色々と難しい話が始まった……ボクは何もできません!
「……ともかく、この件は拙始め『影無し』『影衆』が連携して裏で当たりまする。ムーク殿たちはご懸念なく、普段通りの生活をなすって下さい……貴重な証言、感謝いたしまする」
ペコ、と頭を下げるカルコさん。
そうだねー、ボクは警察みたいなお仕事できないもんね。
精々頼まれたら妖精の運搬役をするくらいですな~。
……あ、そうだ!
「カルコサン、コレドウゾ」
懐から取り出したのは……イセコさんにも渡したお守り!
お世話になりっぱなしだからね! ちょっとでも恩返しせんとね!
「これは……拙に、でございまするか?」
カルコさんはお守りを受け取って、目をパチパチさせている。
ちなみにこっちには『カルコ』ってカタカナを崩した謎文字を彫っております。
『軽子』じゃなんかね……?
「妖精パワーノオ守リデス! イツモオ世話ニナッテマスカラネ、チョットシタオ返シデスヨ~」
「アカ、てつだった、てつだった~!」
『私の羽も入ってるわよ! 入ってるわよ~!』
アカとピーちゃんも嬉しそうに参戦してきた。
「……嬉しゅうございまする。ずうっと、大事にいたしますね」
カルコさんは、お守りをキュッと抱きしめて嬉しそうに笑った。
あら~! そういう顔すると一気にかわいく見えますね~!
いつもはキリッとした感じなのに!
何はともあれ、これで報連相は完了したね!
ボクのお仕事は終わり! 終わりですよ~!
探偵みたいなことはできませんので!
『(コイツ……どう思うお隣ちゃ……ヘビメタのコンサートかなんか? すんげえヘドバン!)』
・・☆・・
『さて、みんなこれからどうする?』
プチ牢獄を出て、街を歩く。
時刻はそろそろ夕方っぽいし、どっかで晩御飯でも食べようかな。
『ワレは腹が減ったぞ』
『アカも! アカも~!』
『私も! 私も~!』
マントの中から念話三連。
OK把握。
それじゃ、どっかいいお店を探そうかな~。
といっても、土地勘がほぼゼロなボクですので……街ブラしながら考えよっかね~?
「あらァ、ムークさぁん」
「ホン?」
妖精たちと念話で相談しながら歩いていると、道の向こうから声をかけられた。
そっちを見ると……蜘蛛のヒト! タヴィアさんだ!
「奇遇ねェ、運命感じちゃうかもォ」
「アハハ……コンニチハ」
綺麗な蜘蛛足を動かして、タヴィアさんが近付いてきた。
「こんな所でどうしたのォ? 買い物ォ?」
「アアイエ、晩御飯ヲ食ベル所ヲ探シテマシテ……ドコカイイ所、知リマセンカ?」
そうだよ、この人って地元民じゃないか!
聞いておこ、聞いておこ~!
「まァ、もう一つ奇遇! 私もこれから食事なのォ。ご一緒にいかがァ?」
ほほう! それはいい! あ……その前にっと。
周囲を確認……よし、人目はないな。
「……コノ子達モ行ケルオ店デス?」
マントを少し開くと、無言で手を振るアカたち。
「あらァ! 新顔ちゃんもいるわねェ! 大丈夫よ、ちゃんとしたお店だからァ!」
タヴィアさんは目を輝かせて微笑んだ。
やったね~! 妖精に好かれてるこの人が言うんなら、きっといいお店だ!
「オ~……」
「ね、いいお店でしょォ?」
タヴィアさんについて行って、歩くこと10分くらい。
到着したお店は……落ち着いた雰囲気の、こぢんまりしたお店だった。
木造の外観に、這う蔦の感じがとってもいい!
そして……なんかもういい匂いがする! シチューみたいな!
「ここは私のお店とおんなじでェ、お客さんを選びまくるお店だからァ? 変な客なんていないわよォ」
「ソレハアリガタイ……!」
まずタヴィアさんがドアを開けて中へ。
それに続き、ボクも。
「こんばんわァ、お友達も一緒なのォ。いいかしらァ?」
「はーい、どうぞ!」
お店の中は、3つのテーブルとカウンター席のみ。
全体的に木で構成された店内は、なんとも過ごしやすそうで安心する空間!
「まあ! タヴィアちゃんが男のヒトを連れて来るなんて! いらっしゃいませ!」
そして、カウンターの奥にいたのは……ドライアドさん!
緑色の髪と、赤みが強い樹木の肌をお持ちの……美人さん!
イリュシム先生よりもちょっと若い感じかな? 別に先生の外見がお年寄りってことじゃないけど……
「お好きな席にどうぞ、色男さーん!」
「ハイ、アノ……コノ子タチモ、イイデスカ?」
マントを開く。
すると、すかさず出てくる妖精たち!
物怖じしてないってことは……あのドライアドさんはいい人!
「こにちわ! こにちわ~!」
「ほう、いい店だ……森の香りが強い」
『こんにちは! とってもいいお店ね! 私はピーちゃん!』
店主さんは目を丸くして、しばらく後にニッコリ笑った!
「きゃあ! いいに決まってるわよ! っていうか虫人のいい男で妖精連れって……あなた! ムークさんでしょ! イリュシムねえさんとこにいる!」
「ソ、ソウデス……何故知ッテルンデス?」
「ねえさんから連絡がきたのよ! 昔馴染みの妖精を助けてくれた恩人が今泊まってるって! そっか、じゃあその小鳥さんがあの伝説の……ピーちゃんね!」
そっか、同じドライアドどうし……なんかの連絡網とかがあるっぽい!
『伝説のピーちゃん』って字面が面白過ぎるけど!
「ソウデス、コチラガ……伝説ノピーチャンデス!」
『なんだかすごい有名人みたいだわ! 恥ずかしいわ!!』
そう言うけど、ピーちゃんはかなりの有名人じゃな~い?
ともあれ、ボクはタヴィアさんの横に腰かけた。
彼女は蜘蛛ボディがあってボクよりも背が高いけど、上手いこと座るんだねえ。
椅子もちょっと違うや……特注かな?
「さ、何食べる? なんでも言ってよ!」
店主さんがニコニコしている。
何と言われても……? あ、そうだ!
こういう場合は……!
「オススメデ! オネガイシマス!」
「おすすめ! おすすめぇ!」
ボクの注文を、アカが楽しそうに繰り返した。
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