第157話 邂逅、アレな方の人族!
「おいおい、まーた新しい妖精ちゃんかよ。ムークさん、アンタすげえな……」
「ゾゾルゾルゾル……アハハ」
二の街、ヤマダ蕎麦の店内。
ボクはここで、ざるそばを啜っている。
「つるつる、おいし、おいし~!」
「むむむ、やはりワサビは最高だな……!」
一緒に舌鼓を打っているのは、アカとヴァル。
そして……
「チュピピヨ!!」
半分くらいそばつゆまみれになっているピーちゃん!
今日はボクと妖精3人で街ブラなのです。
ピーちゃんも孤児院以外が見たい! って言ってついてきたのよね。
ミライ飯店に行こうか悩んだけど、お蕎麦の話をしたらこっちに行きたいって言ったからさ。
ロロンとマーヤ、それにアルデアは3人でお買い物。
なんか服とか言ってたから、二の街にはいるんだろうけど。
あ、もちろんお金は渡しましたよ? ロロンに。
10万ガルを渡そうとしたら涙目で断られたので、1万ガルだけどさ。
色々不安だから50万ガルくらいアルデアに渡そうかと思ったんだけど、こっちのマジックバッグに全部入れとけって言われました。
大金持ってるのって落ち着かないんだけどなあ……
ともあれ、今はお蕎麦に集中しよう、そうしよう。
「で、美味そうに食ってくれてるのは見てわかるんだが……アレ大丈夫なんか?」
「体系的ニアアスルシカナイノデス。妖精ナノデ窒息トカシマセン」
そう言うと、ヤマダさんはほっと息を吐いた。
この人もとっても優しいね~。
『美味しいわ! とっても美味しいわ! この街でこんなに美味しいお蕎麦を食べられるなんて知らなかったわ!』
「いやあ、そう言ってもらえると嬉しいねえ。……アンタも蕎麦知ってんのか、小鳥ちゃん。ムークさんから聞いたのか?」
ヤマダさんが照れてる、いい人すぎる!
『違うわ! さっちゃんから聞いてたの! 昔作ってもらったお蕎麦も美味しかったけど、これも美味しいわ! 十割蕎麦ね!』
「さっちゃん……? ロストラッド風の名前だな? 同郷人か?」
あ、500年以上の時間の流れが問題をややこしくしている!
ここは説明せねば!
「実ハデスネ――」
「はぁあ~……! コイツは驚いた! 長生きってのはすげえな……!」
ピーちゃんの出自を紹介すると、ヤマダさんは驚愕している。
「ミライ飯店は俺もたまに行くから知ってたが……そうか、あのでっけえ銅像がこんなにカワイイ小鳥さんだとはねえ……」
『大きすぎるわ! かわいいけど、大きすぎるわ!』
クソデカ銅像に対する感想は結局それなのね、ピーちゃん。
『ねえねえ、ヤマダさんはあのヤマダ王さんの親戚なの?』
「ああいや、ムークさんには言ったが側近の子孫だよ。残念ながら? ご先祖は男だったんでな……血は繋がってねえはずだ」
なんか、女性だったら子供産んでるみたいな言い方ですね……ヤマダ王さんはすごいなあ。
さぞモテたんだろうなあ……まあ、モテるか。
一から国作ったし、超強いし。
「店主! テンプラおかわりだ!」「アカも! アカも~!」
よく食べるねえキミたち。
経済を回せるからどんどん食べておくれよ~?
「あいよ! 今日はいい白身魚が手に入ったからな、どんどん揚げるぜ~?」
ボクも食べる~!
……あ、そうだ!
「ヤマダサン、何処カデ『米』ッテ買エマス?」
聞きたかったんだよね! これ!
ミライ飯店にはチャーハンがあったから、ここでも流通してることはわかってたんだけど。
……じゃあなんで五代目さんに聞かないかって?
そりゃあ……絶対に! 無料で! くれるって! 確信してるから!!
これ以上無料でものを貰うのは悪いのよ……のよ……
「お、流石は食通のムークさんだな! ロストラッド産でよけりゃ、卸問屋を紹介するぜ」
「ヤッタ~!」
これでお米が食べられる~! 自分で炊いて食べられ……鍋も買わなきゃ! 飯盒的なものも!
うっひょひょい! これで経済がさらに回せるぞい~!
「おこめ、おこめ?」
「チャーハンノ元ダヨ、アカ!」
この言い方はどうかと思うけど、アカ的にはよかったみたい。
「アカ、あれしゅき~!」
お蕎麦を啜る手を止めて、嬉しそうに左右に揺れている。
『ピーちゃん、申し訳ないけどお願いがあるんだ。昔聞いたことがあるって感じで……お寿司について聞いてくれない?』
『わかったわむっくん! 任せて!』
さらに追撃で聞いておく……けど、あんまりボクが色々知ってるのもアレなので、ピーちゃん経由!
『ヤマダさん! お寿司って知ってるかしら? かしら?』
「おー! ピーちゃんの時代からあったんだもんな……勿論知ってるぜ!」
ヤッター! お寿司もあるんだ!
「だがなあ……トルゴーンじゃ立地の関係でネタの種類が少ないんだよ。マデラインには海があるから、向こうの寿司屋にゃネタが豊富だって聞いてんだが……」
あー……川しかないもんね、この国。
マデラインには海があるからね……っていうか唯一の海に面してる国なんだっけ、トモさん。
『正確に言いますと、この近辺では……ですね。ロストラッドの北から森を抜ければ海に到達できますが……ここからではマデラインが近いです』
そうなんだ! 世界地図とか見てないからなあ……っていうか存在してるんだろうか?
『こちらでは確認できますが……むっくんがもう少し成長すれば地図機能もアンロックされますね』
むしろこの短い期間でここまで来たんだから上出来だと思うな、ボク。
焦らずゆっくり行こうよ、トモさん。
『まあ……もう! むっくんったら! ポイントをお出ししておきますね!』
なんで? まあいいけどさ。
「今出せるのは『カンピョウマキ』しかないが……食うかい?」
「食ベルマスゥ!」『欲しいわ! 欲しいわ!!』
この世界にもカンピョウってあるんだ!?
あ、もしかしたら似てるだけかもしれないけど、それに準じるものはあるんだ!?
ボクとピーちゃんは、躍り上がって喜んだ!
ヤマダ蕎麦、最高~!!
・・☆・・
「エト……アレカ!」
道を行く移動虫、むっくんです。
ヤマダ蕎麦での食事を終えたボクらは、ヤマダさんのくれたメモ片手に彷徨っている。
「んにゃむう……すひゃあ……」「むう……むう……」「チュピピ……チュチュ……」
ザルソバ、テンプラ、そして山盛りのカンピョウマキを平らげた妖精たちは、みんな仲良くマント内で就寝している。
いや―美味しかった、概念で知ってるけどカンピョウマキって最高。
「グフフ……」
今から行くお店には海苔もあるって話だから、含み笑いが出ちゃうねえ。
『メモ片手にほくそ笑むイケメン虫……ここに目撃者がいなくてよかったですね?』
おおっと、気を付けないと不審者にされてしまう。
ここは、三の街の北側区画。
広くて見晴らしのいい道には、トモさんが言うようにボクしかいない。
ヤマダさんが教えてくれたのは卸のお店なので、二の街じゃなくてこっちにあるんですって。
ロストラッドからはるばる運ばれて来て、ここから飲食店に搬送されるのだとか。
そんなボクの行く手には……大きな大きな倉庫が見える。
あれが、目的地だ。
三の街には同じような建物が多いけど、簡単な地図も描いてもらったから迷う心配はなかった。
「おお、ヤマダ蕎麦の大将からかい! へえ……兄さん、虫人なのに通だねえ」
「ヘヘヘ……」
倉庫の前にいた人族のおじさんにヤマダさんの手紙を渡すと、笑ってボクを招いてくれた。
ひんやりとした広い倉庫には、綺麗に並んだ棚がいっぱいある!
奥の方の扉は両開きってことは、あっちで搬入とかするんだろうねえ。
「ウチは卸なんでどうしても量が多くなっちまうが、構わねえかい?」
「ドントコイデスヨ!」
お米は長期保存がきくし、いくらあっても構いません!
「ア、ソウダ。ココデ米用ノ鍋モ買エルッテ聞イタンデスガ」
「おお、あるぜ。普通の鍋でも調理はできるんだが、専用のモンなら美味さが違うからな!」
「ヤッタ! 買イマス買イマス!」
むっほっほ、回すぞ……経済を!
「そいじゃ、まずは米だな……ほい、これで一俵だ」
おじさんが見せてくれたのは……米俵! ではなくどちらかと言うと現代の米袋に近いものだった。
ほほう……たしか一俵は30キロだから……これで足りるかな。
美味しかったら飛んで来ればいいしね! 飛空隊の許可をいつの間にか取ってくれていたイセコさんには頭が上がりませんよ……
「ええと、あと海苔だったな? 持ってきてやるからここで待ってな~」
「ハーイ」
とりあえずバッグに入れちゃお……むんっ!
あらやだ、片手で持ち上がる……地球の一般成人男性よりかなーり力持ちになっちゃった! 特に困らないけど~!
……あ、これって種籾なんかな? 地球みたいに精米機とかないし……どうしよ?
精米ってどうやるんだったっけ……?
『私の知識にありますよ。そうですね……瓶に入れて棒でつくやり方でいいでしょう』
あー! なんかドラマで見たような気がする! 概念で!
瓶もあるし、それでやってみようか。
駄目ならその時に考えよっと。
『……ムーク、ムーク!』
お、おお? どしたんヴァル? 起きてたの?
そんで……なんか焦ってない?
『そのまま聞け! お前の後ろに人族がいる!』
『……? そりゃいるでしょ? ここ、ロストラッドのヒトのお店だしさ』
『違う! 以前に孤児院にやってきた人族だ! ほら、あの2人……ワレらで判別した、あの!』
……へ? それって、オルクラディの!
『あの時の密偵!? でもイセコさんは皆殺しにしたって……?』
『だがいる! あの時の、女の方だ!』
ま、マージか!?
幽霊じゃないなら……逃げのびてたんだ!
『……ど、どうしよ』
『向こうはこちらへ歩いてくるが、特に殺気はない。お主が露見した原因だと気付いていないのだ……自分で言うのもアレだが、妖精がこれほどヒトと近いのは珍しいからな。そのことに思い至っていないのだろう』
あ、そっか。
あの時のボクはただ通り過ぎただけなんだからね、安心安心。
後ろから足音が近付いてくる。
余りに反応しないのも不自然だから……ボクは今気付いた感じで振り返った。
「ア、コンニチハ」
「こんにちは」
そこにいたのは……あの時とは別人だった!
あの人族の女は黒髪ショートカットだったけど、この人は茶色のセミロングだ!
それに……顔も違う気がする!
「珍しいですね、虫人さんがこの店に来るなんて」
「知リ合イニ紹介サレマシテ……」
女のヒトはふわりと微笑んだ……全然悪い人に見えない! やっぱりボクの目は節穴だ!
と、とにかく……ここを乗り切らないと!




