第146話 みんな生きててよかった虫。
「ナラカサン! コノ人ヲ!!」
人質にされかけてたエルフさんを、そっと床に下ろす。
なんてひどいことを……両手も両足も、杭が打ち込まれまくってる。
息はあるけど……重傷を通り越して重体だ!
「ああ、ラトナ……! なんちゅう姿に!」
綺麗な銀髪が返り血で真っ赤になったナラカさんが走ってきた。
周囲に敵は……いるけど、すぐに飛び掛かってくるような気配はない。
「コレヲ!」
チェーンソーを引っ込めた右手をバッグに入れて、中級ポーションを何本か取り出す。
それをナラカさんに渡して――左手パイル速射!!
「がぎゃっ!?!?」
呆けたような人族の腹をぶち抜いて、真っ二つに!
「治療ヲ頼ミマス、ボクハ残リノ連中ヲ片ッ端カラブチ殺シマスノデ!」
「わかった! うちに任せときんさい! ムークさんも気を付けて!」
「ハイ!」
まだ胸の奥ではマグマが暴れている。
口に放り込んだ魔石を噛み砕き、ヴァーティガを握って――
「次ハ……貴様ダァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
一番近くにいる人族に向けて、飛び掛かった。
・・☆・・
「おのれ、薄汚い虫めがアアアアアアアアアアアッ!」
魔力を帯びた大剣が、横薙ぎに振るわれる。
それは、ボクの振ったヴァーティガと空中で衝突して――まるでガラス細工みたいに砕けた。
「――はあ?」
そして――ソイツの胴体を翻ったヴァーティガが泣き別れに切り裂いた。
呆けた顔をしたまま、上半身の断面が床に落下。
「即座ニ、クタバレ!!」
ばちゅん、と足で蹴り飛ばす。
ソイツの頭は砕け散った。
「フウ、フウ、フウ、フウ……!」
これで……生きてるのは全部、かな。
若干重く感じる足を動かして、例の装置の方へ。
「おお! ムーク! 見ていたが中々であったぞ! お主も成長したな!」
「アリガト……」
床に座り、座禅みたいな恰好で妖精に手をかざしているヴァルが歯を見せて笑っている。
「ソノ子ハ……?」
「うむ、お主が急いだお陰でなんとかなった! 峠は越したぞ!」
見れば、妖精は相変わらず意識はないけど……助け出した時よりは、生命力を感じるような気がする。
「ヨカッタ……! ヨカッタ~!!」
「ワレを甘く見るなよ? 言っただろう、死んでいなければ大丈夫だとな」
ボクの喜びように、ヴァルは少し心外だって顔をして……やっぱり笑っている。
「霧散することはないが、まだ時間はかかるがな。魔力を流しすぎても、弱ったこやつには毒となる……しばらくは、緩やかに注ぎ続けてやらねばな」
「了解」
上空を飛んでいたアカが降りてくる。
っと、このままじゃ肩に乗り辛いね。
「『ノグトーン』」
ヴァーティガアーマーが光の粒子になって消え、右手に握っていた本体が見慣れた棍棒の姿になった。
これ、この前ヴァルに教えてもらったんだよね。
展開したアーマーを棍棒に戻す呪文。
ええと、意味は……妖精の言葉で『収束』だったかな?
ともかく、これなら魔力が暴走せずにノーマル虫形態に戻れるんだ。
「おやびん! かた! かたーな! ぐさー! たいへん~!」
ム、なんですかアカそんなに慌てて……剣が刺さっとるがな!?
あ、エルフさんを人質にしてたあのカスの武器か……あんまり痛くなかったから忘れてた。
さっきまで怒り過ぎてて記憶が若干怪しい虫です。
「ドッコイセ」
スポンと引き抜く。
やっぱり指に針がささったくらいの痛みしかないや。
頑丈な我がボディに感謝。
「だいじょぶ? だいじょぶ~?」
「大丈夫。オヤビンハ元気爆発デ絶対無敵ナノデネ」
……なんか、この剣綺麗だけど気になる。
なーんか、モヤモヤするような~?
『むっくんには効いていませんが、呪いがかかっていますね。盗難防止の』
ピエ~!? え、ええええんがちょ!
放り投げてむっくん踵落とし! キモソードは粉々になった!
……ふう、これで安心か。
「アカ、少し手伝ってくれ。それとムーク、ピーちゃんも呼んでくれんか? 安定してきたゆえ、人手がいる」
「あい~! てつだう、てつだう~!」
了解ですよ~。
『ピーちゃん! 悪い奴はボコボコに成仏させたからこっちきて! 妖精ちゃんは無事だよ~!』
『わかったわ! 周りは騒がしくなってるから、そっちに行くわ!』
え? 何が騒がしいって?
『そこから逃げようとしている連中と、包囲している影衆の間で戦闘が起こっています。かなり外側ですが』
なんだって!? イセコさんがまだ来ないのはそういうわけか!
こうしちゃいられない! 援護に行かんと!!
『いえ、もうそろそろ全滅しそうなので大丈夫でしょう。俯瞰して見ていますが、まあ虐殺ですね、虐殺』
お、おう……それじゃ、ここを守るか。
あ! そうだエルフさん!
「大丈夫デスカ!」
「ああ、ムークさん! うちらぁは大丈夫じゃ。妖精の方は……?」
ナラカさんの所へ走っていくと、もう治療は終わってた。
床に寝かされたエルフさんの両手両足には、包帯が巻かれてお札がペタペタ張られている。
「コッチハ間ニ合イマシタ、峠ハ越エタヨウデス。コノ人ハ……」
「こっちも大丈夫よ。治療法具は持って来とったし、ムークさんのポーションもあったけえね!」
見れば、寝ているエルフさんの顔色はいいみたい。
よかった……
「手籠めにでもしようとして、呪いに気付いたんじゃろうね……戯れになぶりよったんじゃ、屑共が」
腹いせに拷問してたんだ……やっぱり全員コロコロしても問題ない相手だった……
「ほいでも、ムークさんはやっぱりお強いんじゃねえ! 人族共がボロ布みとおになっとった! 胸がすくような気持ちじゃあ!」
ナラカさんのお目目がキラキラしてる……
うん、一切後悔はしてないけど……殺戮を褒めまくられるのはやっぱりすっごい違和感ががが。
と、とりあえずバッグからタオルと水ボトル出して……湿らせ湿らせっと。
「ドウゾ」
「ありゃあ、こりゃすまんね。ありがとう!」
ナラカさん返り血まみれだからね……あのでっかいでっかい鉈で大暴れしてたし。
ボクと同じくらい死体がスプラッタになってる……スキアエルフの皆さんはパワーファイターなんですなあ……
『魔法も得意ですが、それよりも肉弾戦よりの方々ですね。脳筋エルフとも呼ばれたり呼ばれなかったりするようです』
どっちなのだよ……ムムム!
なんか、大勢の足音がする……まさか、新手!
「ムーク様! ムーク様~!」
じゃなかった! イセコさんだ! 両腕ブレードが血で真っ赤のイセコさん!
それに続く、黒子さんの集団……影衆の皆さんだ!
「イセコサン! 大丈夫デスカ!」
「こちらは問題ありません! そちらは!?」
「大丈夫デス~! 皆無事デス~! デモ怪我人ガ~!」
妖精はどうしようもないけど、エルフさんの方が!
「療法士! 搬送の準備を!」「ハッ! こっちだ! 担架持ってこい!!」
黒子さんの中から、担架を持った人たちが走り出て来た。
「ムーク様、よくぞご無事……まさか、これをお1人で!?」
おおう……気が付いてみれば死屍累々ですな。
無我夢中で大暴れしたもんね……ほとんどヴァーティガアーマーで撥ね殺した相手だけど。
トップスピードで突っ込むんだから、我ながら軽トラアタック以上の破壊力だったと思う。
「ゴメンナサイ……情報収集ノ為ニ捕虜ヲ取レバヨカッタト今気付キマシタ……」
ションボリ虫です、ハイ。
「ああ、それにつきましてはご懸念なく。手の者が脱出を試みた連中を確保しております」
「有能! 素敵!!」
さすがニンジャ……! ニンジャは異世界でも有能なんだ!
「あ、ありがとうございます……!」
なんかワタワタしてる!
そんな間にも、エルフさんが担架に乗せられて運び出されていく。
ナラカさんはそれに同行するみたいだ。
「ロロンタチハ?」
「囲いの者たちと残党の処理に当たっていただいております」
そっか……妖精の緊急事態だったから後悔はしてないけど、足並みを揃えられなくて悪かったなあ。
あ! 妖精! 妖精たちの様子見に行こう!
もう大丈夫だとは思うけど!
・・☆・・
(三人称)
ザヨイ家の影衆、サジョンジの影無し、それに首都付きの衛兵などによって、堆肥場が包囲されている。
まさに、蟻の這い出る隙間もない見事な包囲網だ。
それを、魔導探知にかからないかなりの遠方から監視する影が2つ。
小規模な森に身を隠し、頭からすっぽりと魔力を遮断する外套を羽織っている。
「ルゥタオ上級僧」
低い男の声だ。
「私の『今の』名前はアイレンよ、間違えないで」
それに答えたのは、二の街に拠点を置いていたアイレンだ。
「失礼いたしました……いかがなさいますか?」
「いかがも何も、身動きなんて取れるわけないじゃない? 今怪しい動きでも見せてごらんなさい、あっという間に首と胴が離れるわよ」
煙の出ない煙草を咥え、呟くアイレン。
「ザヨイに、サジョンジ、トリハまで動いてるのよ……逃げることもできないわ、現状だと。それとも、貴方だけで連中を向こうに回して戦えるとでも? 私は御免だわね」
「いえ……自分には不可能です」
男の声に、悔しさが滲む。
「そう、それでいいのよ。特にノキのカルコがヤバいわ……相手取るには最低でも特級僧兵が3……いえ4人はいるわね」
「私は見たことがありませんが……それ程で?」
「それ程よ。そもそもこのトルゴーンで、多対一に持ち込める気がしないわ……察知されたら同格の連中が突っ込んでくるのよ、やってらんないわ」
軽く首を鳴らすアイレン。
「【大角】が南にいてよかったわ、アレが首都にいたらと思うと寒気がするわね」
「……今は当主の息子がいますが?」
「はん、あんなの『ただ強い』だけよ。損害度外視なら殺れるわ……もっとも、その先が続かないけどね。【大角】の爺は駄目、絶対に駄目。寿命で死ぬまでほっとくのが最善手ね……裸で深淵竜と戦う方がまだ勝機があるわ」
音も立てず、アイレンが立ち上がる。
「撤退するわ、最低でも半年は大人しくしとくわよ。どうせ、保護する生き残りもいないだろうしね、あの様子だと」
「……御意」
2人は、森に溶け込むように消えた。




