第144話 突入虫。
「私にしっかり掴まっててくださいね! ムークさん!」
「ハイ~!」
びゅうびゅうと吹く風に負けないように、大声で返す。
うはあ……いい景色!
「もっとです! もっとギュッと! 落ちちゃいますよ~!」
「ハ、ハイ~!」
それは困るので、ギュ~!
「そ、そうです! それでよろしいです! きゃーっ♪」
なんか楽しそうだね……この人。
ボクは、現在鞍に座って前の人にしがみついている。
ナラカさんに頼まれた……スキアエルフさんと、妖精の捜索依頼のためだ。
眼下には、首都の風景が見える。
そう、今のボクは空の上にいる。
自分で飛んでるわけじゃなくて……飛竜に乗って。
ボクが掴まっている相手は……トラコさん! 初めて孤児院に来て空を飛んだ時に注意された、『飛空隊』の方だ。
イセコさんに出発しますよ~って言われた時は歩きかと思ったんだけど、緊急事態なので空から一気に行くことになったんだ。
『アカ、ヴァル、大丈夫?』
『だいじょぶ!』
『うむ、飛竜というものは見た目よりも静かに飛ぶものだな』
よしよし、懐に入っている妖精たちも大丈夫そう。
『ピーちゃん、肩に来なくて平気?』
『平気よ! 私はあっちについたらお空で監視するから、このままで大丈夫だわ!』
飛竜の横で飛行するピーちゃんは、せわしなく周囲を見回している。
みんな、やる気は十分だね!
今回の作戦に参加するのは、ボクと妖精たち、ナラカさん、それにイセコさん……この3人が空から。
マーヤとロロンは、影衆さんの別動隊と一緒に地上から向かう。
アルデアは……たぶん飲みに行ってる。
急な話だったから仕方ないネ。
空から飛竜で接近して、妖精たちに上空から探査してもらって……地上部隊と息を合わせて一斉に突撃する。
だから、空から向かうのは全部で3匹の飛竜だけだ。
飛空隊は下から視認しにくい結界魔法を展開しているらしいけど、それでも大部隊で飛んでいると、魔力の違和感からバレかねないから……らしい。
なので、こうして大人しく空の上虫と化している。
『精霊避けの魔法具があるらしいけど、わかる?』
『この距離では無理だが、近付けば大丈夫だ。探査の確度を上げるためにも、ワレをしっかり握っておけ』
ほーん……なんだろ、アンテナ的な意味?
まあ、了解ですよ。
「ムークさあん! 二の街を抜けますよォ!」
「了解!」
おお、二の街の外壁があっという間に近付いてくる!
空を飛ぶって、やっぱりチートだ!
そんなことを言っている間に外壁を通過。
下には大きな街道と畑、ため池、それに牧場が点在する広大な空間が広がる。
「それではこれより、第一目標へ向かいます! ハイヤーッ!」
「ギャッギャッ!」
くん、と飛竜が右に曲がる。
これから、ナラカさんが目星をつけた場所の上空を通過しながら妖精に探査してもらう。
もしも反応があれば、飛空隊経由で伝達。
地上部隊と連携して突っ込むってわーけ。
ボクのやることは簡単だ。
反応があった場所に突撃して、妖精を助ける!
エルフさんの方はボクにはわからないので……ナラカさんにお任せするって寸法さ!
よおし、かわいそうな妖精の為に頑張るぞ~!!
・・☆・・
『いないわ! ここじゃないわ~!』
『うむ、おらんぞ』『いない! いな~い!』
「ココニハイマセン!」
「了解です! 次へ向かいますッ!」
トラコさんがふくらはぎで飛竜をトトン。
すると、加速感。
あっという間に次の目標へ。
むーん、ここで2個目か。
ナラカさんがチェックしていた場所は、全部で3か所。
ということは、次で最後だ。
今までに調べた場所は、どっちも広い牧場。
いないとはいえ怪しいことに変わりはないので、ここにも影衆さんが張り付いて監視に移る。
だって、そもそも精霊避けの魔法具を設置すること自体が怪しいんだもんね。
ごくプライベートな場所ならともかく、牧場の広い範囲を封鎖するなんてさ。
これから向かう場所は、堆肥場って所だ。
生ごみとかを肥料に転用する場所だね。
臭いのこともあるし、三の街のはずれに位置していても不思議じゃない。
でも、精霊避けをする必要もない。
さて……どうなるかな。
『不安か? まあ安心しておけ。アカはまだ幼い故難しいが、ワレとピーちゃんならば妖精が瀕死でも回復できる』
あ、その可能性を一切考慮してなかった。
妖精はその……アレなヒューマン国家では希少なペット扱いだから無下にはされてないんじゃないかって思ってたし。
そもそもその扱いからして腹が立つけども。
『どうやるの?』
『うむ、ようは魔力を分けてやるのだ。ワレもピーちゃんも存在している時間が長いからな、内に貯め込んでいる魔力量は膨大だ……それを注げば、大丈夫だ』
なるほど。
前にアカが大怪我した時にやったような感じね。
わかりやすい。
まあ、怪我してないのがいいんだろうけど……
保護? された時は怪我してたって言うし……どうなんだろう。
それに、エルフさんも心配だ。
行方不明の方は女性らしいので……想像したくもないことを想像しちゃった。
だけど、ナラカさんが言うには『そうされたら周囲に呪いをばら撒くようになっている』ってことだから……ソレは無いみたいだけど。
呪い……こわ!
『あーね、割とポピュラーよ。名家のお嬢ちゃんとかも大なり小なりやってる感じね』
そうなんだ、流石シャフさんは詳しいね。
『簡単なのだと生殖器が爆発するやーつで、難しいのだと問答無用でぶち殺すやーつ、あと、マージできっついのは血族さかのぼってぶち殺すやーつね』
ヒェエ……こ、こわ。
ボクは絶対大丈夫だけども……呪いってコワイ!
『しゃーない、男女問わず強姦魔なんぞ生かしといてもイイコトなんにもないし~? 慈愛派閥的にはギルティ対象だし~?』
『私はどの派閥でもありませんが、NGですよむっくん。お隣様は……物凄く嫌な顔ですね、把握いたしました』
ボクの周りの人はいい人ばっかりだなあ……そしてお隣さんもいい人みたいでよかった。
ま、トモさんが仲良くしてる時点でいい人なんでしょうけども。
『まあ、ヨイショ虫! ちなみにですがむっくんの私への信頼度はいかほどで……?』
むーん……100点満点で100億点くらいですかね?
だってだって転生してからずうっとの付き合いよ? トモさんいなかったらボクはすぐに死んでそうだしね!
この世で一番信頼してるよ、トモさんのこと。
『ほ、ほほほう……や、やりますねむっくん……!!』
『トモちんトモちん、中華鍋磨きすぎて穴開いてんよ?』
『むむむ……母もウカウカしていられませんね……!』
喜んでいただけてなによりです。
それとママのことも大好きだよ?
『オアーッ!? メイヴェル様が壁にめり込んだ! トモちんの部屋の壁に!!』
ご、ごごごごめんなさい!!
『ふふふ! 問題ありませんよむっくん! あはは、今日はチャーハン祭を開催しますよ!』
『やったし~! お隣ちゃん、お皿持って来なきゃ……うは!? 皿でっか!!』
お、おう……元気そうでよかった……
・・☆・・
若干脳内で色々あったけど、飛竜は飛んでいく。
そして……いくつかの街道を越えた先に、最後の目的地があった。
なんか、厩舎? みたいな細長い建物が沢山見えてきたね……本来の施設だったら、あそこでうんちを肥料にするんだろうか。
それにしても広いな……影衆さんで囲うのも大変だろうな。
しかし、ヒトの気配がないのは広すぎるからか、それとも高度の問題だろうか?
首都の結界はあるんだけど、上空50メートルって所かな。
厩舎みたいな建物群の中心には……大きい、平屋建ての建造物。
学校の体育館みたいだ……あそこが生活空間になるのかな?
『ねえヴァル、ここは――』
「――いかん! 死にかけている!!」
マントから飛び出し、ボクの肩に乗ったヴァルは真剣な顔をしている。
なんだって……!?
本当ならここで地上部隊の到着を待たなきゃなんだけど――
「ムーク! もはや一刻の猶予もない! 援軍を待っていれば死んでしまう!」
『消えちゃいそう! 消えちゃいそうよ!!』
「やーだ! やだぁ! おやびん、はやく~!!」
――鞍のベルトを取って、トラコさんの肩を叩く!
「――予定変更! 緊急事態デスノデ! 先行シマス!!」
「ムークさ――」
体を倒して――ボクは、空中に飛び出す!
『ヴァル! 場所!!』
『あの建造物の内部だ! 今なら間に合う!!』
了解――補助翼展開!
魔力全開――アフターバーナー、全力起動ォ!!
あっという間に、屋根が近付いてくる!
――ム! なんかピリッとした!?
『結界を通過! 探知されました!』
構うもんか! 屋根から突撃してやる――スピード勝負だ!!
「『我ガ剣ハ、牙ナキモノノタメ』!!」
光り輝くヴァーティガを抱えつつ、両足を下に!
「『我ガ鎧ハ、寄ル辺ナキモノノタメ』!!」
ヴァーティガから外装がパージ!
空中で、ボクに追随している。
消えていく魔力を魔石で補填しながら――駄目押しッ!!
「――ラグン・ヴァルツッ!!」
浮遊していた装甲群が、一瞬でボクの全身に張り付く。
ソイチロ先生の教えのお陰だ! 抜群に反応がいいッ!!
『位置は正面! このまま行け、ムークッ!!』
『了解――アカ! 突入したらボクから離れて、大暴れするんだ!!』
『あいっ!』
アカの返事が返ってくるのとほぼ同時に、屋根に足が触れる。
まるで段ボールくらいの感触で――両足が屋根に突き刺さる! 衝撃波、連射ァ!!
バキバキと穴を広げて――建物に突っ込んだ!!
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