第104話 首都への道。
「混ンデルネ~」
「こみこみ、こみこみ~♪」
今日も今日とて、てってこ街道を歩く。
肩に乗ったアカが左右に揺れながら歌っているように、街道は人手が増えている。
上りと下り? 両方だ。
さすが、首都から直通の街道だね。
なんかむっちゃ歩きやすい。
『道も広くなってきたわ! 虫人さんの国は本当にしっかりした道路だわ~!』
頭の上でチュンチュクしているピーちゃんもご機嫌。
人は増えたけど、彼女たちが外で寛いでるから……よし! クソヒューマンはいないな!!
あ、ヴァルはマントの内ポッケでスヤスヤしています。
基本的に昼に寝て、夜は1人で起きてるみたい。
寝なくてもいいみたいだけどね、彼女くらいの妖精は。
完全に気分でスヤスヤしております。
「じゃじゃじゃ、平和なのす~」
ボクの横をアルマジロスキップをしながら嬉しそうなロロン。
うんうん、フワフワな髪の毛もキラキラしてかわいいね!
「このような時間も悪くないのナ。最近は修羅場続きだったからナ~」
今日は歩く気分らしいアルデア。
ボクの後ろを歩きながらそう呟いている。
悪くないどころか毎日これでいいよ、ボクはね。
「ん、ポカポカしてて気持ちがいいね、ムーク」
「ソダネ~……フワァア」
欠伸も出ちゃう。
「あはは、おっきな欠伸……ふわあぁ」
マーヤにも伝染しちゃったみたい。
まさに猫さん、かわいいね!
「……む、見すぎ。ムークはえっちだね」
「ナンデ!?」
この前温泉の時、紐だけでウロウロしてたマーヤを見た時は何も言わなかったのに!?
こ、これが女心と秋桜というやーつか……
『秋の空、ですよ。コスモス虫』
なんか爽やかな虫さんだね……また賢くなってしまった。
『ホラホラむっくん、向こう側のけもんちゅ見てみ~? めっちゃおっぱいでっかい! 牛系の子達はナイスバディだね~?』
うわすっご……なにあれ爆弾?
種族差って凄いんだなあ……
あ、先の方にいる角の生えたお姉さんはどんな種族なんだろ?
でっかいなあ……2メートルは優に超えてるね。
「ムーク様、何か気になることでもおありですか?」
おっと、丁度いいからイセコさんに聞いてみよ。
「アノ……先ニイル角ノ生エタ強ソウナ人ガ気ニナッテ。初メテ見タモノデ」
「……ああ、あの方は【オーガ】という種族ですね。西方12国の最北端【ウォルド】に多い方々ですよ……こちらで見かけるのは珍しいですね、傭兵か冒険者でしょうか?」
オーガ! なんか聞いたことある……鬼っぽい感じかな?
『前に言った『力の女神』様を信仰している国ですね』
ああ、鎖とハンマーがトレードマークの超強い女神様ですか……納得!
「ほおお……後ろから見ていてもすんばらしき体つきなのす……羨ましいのす~!」
ロロンが憧れからか、目をキラキラさせている。
キミも大きくなりたいんだねえ……わかるよ、ボクも虫時代は毎日大きくなりたかったもん。
……思えば10倍以上に大きくなったんだな、ボク。
〇ーウィン先生がブリッジして発狂しそう。
「にゃあ、オーガは大きいよね……色々大きいよね……いいなあ……」
マーヤ、最近にゃあにゃあよく言うようになってきたね。
なんだろ、打ち解けてきたってことかな?
ミーヤは語尾がニャだったけど、けもんちゅは奥が深いなあ。
でもほんと強そう……あ、振り返ったお姉さんと目が合った!
まあ、ボクのお目目は視線の先がよくわからんけど……
でも肩のアカが嬉しそうに手を振ったから気付いたみたい。
驚いたように目を丸くして……こちらへ歩いてきた。
肌は赤みが強い褐色で、髪の毛は金色。
んでんで、額のちょっと上から長い角が生えてる! ボクの角と同じくらいだ……でっか!
服装は露出の多い革鎧で、手足は金属のぶ厚い装甲を上から着込んでいるみたい。
そして武器は、背中に背負った……棍棒! 他人とは思えない!
「コイツは驚いた。妖精をこんな近くで見るなんてね」
ボクらの前まで歩いてきたその人は、そう言って歯を見せて笑った。
「こにちわ、こにちわ~!」
『格好いいお姉さんね! こんにちわ! こんにちわ~!』
早速妖精たちが飛び立って、その周囲を旋回している。
「はっは! はい、こんにちは! ふうん……虫人のにいさん、アンタよく懐かれてるね」
「懐クトイウカ、大事ナ家族デスノデ」
そう答えると、お姉さんの笑みはもっと深くなった。
ううむ……進化したボクよりも頭一つ以上大きい。
ボクだって日本人の平均身長を超えてるっぽいのに……この世界、でっかい人多すぎ問題。
「よかった、妖精を無理やり捕まえてるんなら半殺しにしてでも解放する所だったよ、ははは!」
「アハハ……」
ひょっとしてこの人も妖精過激派???
『いや、どちらかと言うと奴隷とかそういうことが許せないタイプの方でしょう。かの国はそういった思考の方が多いらしいので……ロストラッドのお隣ですし、人族とバチボコにやりあっている国ですよ』
納得……
「ちがう~! おやびんりっぱ、りっぱぁ! ちゅよい! かっこよ! かっこよ!」
「うんうん、悪かったねえお嬢ちゃん。そんな悪い奴らをいっぱいころ……やっつけてきたからね! 勘違いしちまった、ごめんね!」
お姉さんは豪快に笑いながらアカを撫でている。
今殺したって言わなかった? こわ……
「それじゃ、お詫びの印さ。親分と一緒にみんなで食べな!」
お姉さんが大きな干し肉を取り出して、アカに渡す。
マジックバッグ持ち!
「わはーい! ありあと、ありあと~!」
『ありがとうお姉さん! これどうぞ! 羽どうぞ~!』
そのお姉さんはおっかなびっくり羽を受け取り、アカとピーちゃんを撫でてまた歩き出した。
もちろん、ボクも皆もお礼を言ったけど『こっちこそ、妖精の羽なんて家宝にするよ!』と、お姉さんの方が恐縮して喜んでいた。
「嘘、これたぶんラーバボアのお肉。さっきのお姉さんすごい……!」
マーヤが驚愕していたので聞くと、なんでもクッソ大きくてクッソ強くて、おまけにクッソ辺鄙な所にしかいない魔物なんですって。
この世界、魔物も魔王もいるけれど……強い人もそこら辺をてってこ歩いてるんだなあ……
・・☆・・
「おいし! おいし!」
「ンマンマ」
「んめめな~!」
干し肉モグモグ、滅茶苦茶美味しい!
うまみが凝縮されている気がする! 今まで食べた干し肉で一番美味しい!
あれからちょっとした山を登って……今は八合目くらいところにある休憩所なう。
意外と広くて、そして意外と人が多い。
ボクらは端っこの方に腰を下ろし、焚火を囲んで休んでいる。
時刻は……たぶん7時くらい? 周囲は薄暗くなりつつある。
イセコさんが言ってただけあって、雨の中で登るのは嫌な山ですなあ……晴れててよかった。
残念なことに水場は……あるんだけど、人が多いのでお風呂はキャンセルです。
ボクや妖精たちはただ残念なだけだけど、他の皆はちょっとかわいそう。
「ふもも……とっても美味しい。アカちゃんとピーちゃんのおかげ、よしよし」
「んへへぇ、えへぇ」「チュピピ!」
「妖精様様なのナ、よしよし」
「きゃーはは! あははぁ!」「チュンチュク!」
アカたちは四方八方から撫でられてご満悦。
だって、この干し肉とっても美味しいからねえ。
「そういえば先程の方はいらっしゃいませんね……お急ぎだったのでしょうか」
ボクらと別れた時点で結構速足だったしね……大きいから歩幅も大きいのかな。
食べた上で再度お礼を言いたかったんだけどなあ……残念無念虫。
「モガフ……残念デスネエ。トコロデイセコサン、首都マデドノクライデスカ?」
結構進化したけど、トモさんの言ってたGPSはまーだ使えないんよね。
この世界の地図って超大雑把だから、イマイチ距離感がつかめないのよ。
高精度の地図は基本的に軍事機密みたいで、そこらへんのお店では絶対に売ってないしね。
なので……機密に詳しいイセコさんに、頼~る。
「……そうですね。途中でなにもなければ、あと7日も歩けば外延部には入れるかと」
「外延部?」
なんか聞き馴れない言葉が出て来たな?
「ああ、ムーク様は初めてですからね……そうですね、ガラハリを覚えてらっしゃいますか?」
「当然デスネ」
忘れられるはずもないね! 濃すぎる記憶! 色々ありすぎたから!
「首都ラグレスは、あの街をそのまま大きくしたような構造をしているのです」
お~?
中心部に山があって、それを囲うように4つの『街』があったんだよね。
ええ? じゃあひょっとして……
「……首都ッテ無茶苦茶大キクナイデスカ?」
アルデアが苦笑いしつつ、肩を叩いてくる。
「当たり前なのナ。この国で最も大きいのが首都なのナ~?」
そう言われればそうか。
色々と物を知らぬ虫、むっくんです。
「ふふ……そうです、大きいですよ。首都ラグレスは大きく分けて3つの区画に分かれています」
そう言うと、イセコさんは手ごろな枝を取り出して、地面をガリガリ。
えっと……大きな円の中に、中心から小さな円が2つ書かれている。
「まずはここ、一番外側が【三の街】と呼ばれています。最も外側に面していますので、堅固な城壁があって衛兵隊や傭兵、冒険者……それに、農家の皆様もここに多く住んでいますね。広大な畑もありますので、首都の食糧事情はここが支えていますよ」
「ホホウ」
スケールの大きいお話ですねえ……
「そして次が【二の街】です。ここは主に商家の皆様が軒を連ねていらっしゃいます、宿屋も多く、旅行者の方々はここへ逗留なさる場合が多いですね。あと、各種宗教の教会や療法院もここに多いです」
「ハヘエ……」
貧弱な想像力虫では推測もできぬ。
「最後は【一の街】です、ここはトルゴーンの中枢ですので……ザヨイ家や主だった大家はこちらにあります。国の運営や方針を決める【評定所】もこちらにありますし……まあ、一般の方々はあまり縁のない場所ですね」
江戸時代の城下町みたいに、何かあったら外側で食い止めるような構造になってるんだなあ。
ただ、この国には被差別階級とかいう概念はないみたいだからちょっと違うけど。
「ジャア、ピーチャンノ行キタイ孤児院ハ【二ノ街】ニ?」
「いいえ、首都に存在する孤児院並びに教育機関は全て【一の街】にあります。この国の未来を担う子供たちは、大家の方々と並んで決して失ってはならぬ貴重な存在ですので」
「トルゴーン最高……ナンテイイ国ナノダ……!!」
子供に優しい国! 妖精にも優しい国!!
どっかのクソヒューマンの国も見習え! 爪の垢を煎じて飲んで拒絶反応でのたうち回れ!!
「ラーガリも同じような感じかな。首都はね」
「ラーガリモ最高……!!」
「じゃじゃじゃ、帝国の首都も孤児院ば多がんす。子供ば害するのは最も恥ずべき行いだとされているのす」
「帝国モ最高ジャナイ……!!」
なんだよ~、周辺地域は良い国ばっかりだよ~!
異世界最高~!
『魔物がいますからね……守らないとあっという間に絶滅待ったなしですよ?』
そ う で し た 。
世界は優しいけど、優しくない……!!




