第105話 でっかいという感想しか出てこない虫。
「おやびん! かべ! かーべ!」
「壁ダネエ、圧倒的壁~」
視線の先には、壁がある。
今まで見たどんな街よりも……大きくて、たぶん分厚い壁だ。
「なんとはあ……一度見た帝都と同じくらい大きいのす!」
「ほんと、それにこっちの方がしっかりしてる」
ロロンとマーヤも驚いている。
そっか……帝国の首都もこれくらいでっかいんだなあ。
周囲を平原に囲まれた、壁。
端が見えないほど大きく長い壁に囲まれたそこは……首都。
『あー! 思い出してきたわ! 確かにあの街よ! あの街だわ~!!』
ボクがこの世界に転生して、二足歩行になって、今の体になって……その頃からぼんやりと設定していた目的地。
ピーちゃんと仲良くなってから、しっかりとした目標になった場所。
「着イタ! 着イタ~!!」
「はい、ムーク様……あれがトルゴーンの首都、【ラグレス】です」
ラグレス! いやー! 感慨深い!
「ついた、つーいた~!」
ボクの手を取って謎ダンスするアカ。
それに合わせて、ボクも踊る! うっひょ~!!
乱入してきたピーちゃんとも踊る! 踊る~!
「ロロン! 長イ長イ旅モ一段落ダヨ~!!」
「はぁい! あの森からこごまで……ううう、到着したのす~! はわ! はわわわ~!?」
嬉しい! 嬉しいのでロロンを抱え上げてグルグル回る! まわーる!
「ふふ、ムークったら子供みたい」
「木か石と、どちらがマシかナ~?」
ボクは、アルデアのジト目をよそにしばし踊り続けるのだった。
「ふぁあ……騒がしいなムーク。一体何のさわぎ……ふあ!? にゃんだお主!? 放せ馬鹿者!?」
正確には、テンションが上がり過ぎて最終的にヴァルに本気キックされるまで踊り続けたのだ。
頬が割れました! 痛い!!
・・☆・・
あれから、当たり前だけど首都に近付けば近付くほど街道は平和でした。
イセコさんが言ったように、その平和な街道を歩き続けて……6日後にボクらはとうとう首都の前までたどり着いたのだ。
最後の日、つまり今日なんかは魔物の影すらなかったよ。
街道の周囲は広い広い平原で、隠れる場所なんか全然ないんだもん。
もしもスタンビードが発生してもすぐにわかるね、こんな感じだと。
「正気に戻ったか、痴れ者」
「ファイ……」
んで、現在。
ヴァルキックによってダンスを中断されたボクは、肩に乗ったヴァルに怒られながら歩いている。
「まったく、許可もなく女の肌を触るなぞ……ワレがその気なら首を落としている所だったぞ」
「ファイ……」
頬が痛い虫です。
なんなのあの攻撃力……
『街道で踊り狂う謎のイケメンとして話題にならずによかったですね』
ウン……人の目が無くてよかった。
ロロンにも悪いことしちゃったね……反省して今度からはやらないようにしよう。
『やれ』
っひ!? シャフさん!? な、なんで!?
『 や れ 』
ヒギャーッ!?!?
で、でも……
『なんこの虫ィ! 今日という今日は――』
『はいムロシャフト様、カツサンドをどうぞ~』
『ふんもも! ももんも! めめめめ! むめ~!』
無茶苦茶怒ってる……
『むっくん、ロロンさんは全然、全く、毛ほども嫌がっていませんので大丈夫ですよ。本当に嫌なら今頃むっくんの土手っ腹に槍が埋まっています。ほら、以前の人族への対応を思い出しましょうね?』
ヒエッ……あれは怖かった……
『なので大丈夫です。これからもロロンさんを撫でたり抱っこしたり回れ回れ回転木馬しましょう、大いにしましょう』
い、いいのかな……?
『ロロンさんは嫌なら嫌とキッパリ言える方ですので』
むむん……
「おい、どうした? つ、強く蹴り過ぎたか?」
おわ、ヴァルがなんか誤解してる!
「大丈夫、ヴァル大好キ、ゴメンネ?」
「む……ぬ! わ、わわわかればよいのだ! わかれば! 大いに反省したならワレが言うことはない!」
よかった、許された……ヴァーティガにそっぽ向かれたら最悪感電死しちゃうし……
『(……今更だけどこの子超チョロくね?)』
『(……むっくんも超絶チョロいのでバランスが取れていますね)』
そんな話をしたりしながら歩くこと……数時間。
いやー、壁がデカすぎて距離感がバグるねえ。
「【三の街】には東西南北、合わせて8か所の入口があります。我々は、あそこの混んでいる所ではなく……左の入口から入ります」
え?
目の前には長蛇の列があって、その先には大きな城門がある。
その左……? あ、ある。
なんか、小さいけど衛兵さんの数が多い入口が。
「大丈夫ナンデス?」
「はい、ムーク様。あの場所は特務を受けた兵士の専用出入り口です」
ボクは特務を受けていた……?
いや、そんな記憶はないのですが???
「ふふ、ムーク様はザヨイの魔導紋をお持ちですので。それを賜るということは即ち、この国においては上位レベルの兵ということです」
「エェエ……」
重い。
重すぎるこの魔導紋……
そんな重要物をポンとくれないで……
「あのね、ムーク」
マーヤがボクの肩を叩く。
「混乱してるみたいだけど。ムークは鎮魂の巫女様を助けてる。それって偉業だから、偉業」
「ホエ~……ア、ソウカ」
完全に忘れてた。
ラクサコさんって超絶重要人物だった……
「あはは! あははは! 何その顔、かわいい! あははは!」
めっちゃ笑うじゃんマーヤさんったら。
牙がきらっとしてカッコカワイイねえ!
「はわぁあ……特務兵……ムーク様が……英雄……大英雄……」
ロロンがなんか不穏な事言ってる!?
ちょっと、しっかりしてアルマジロさん!!
「ホラホラ、何をボサッとしているのナ。今日はちゃんとしたベッドで眠るのナ~♪」
「オワワワ」
歩く! 歩くから! 押さないでアルデア~!!
何やかやで門に近付いていくと、ある一定の距離まで来たところでそこにいる衛兵さんたちに動きがあった。
さりげない感じで隊列を組み直して……あれは、ボクらが何かしたら即座に無力化できるような動きだろう。
あと、今更だけど横の一般入場者? さんたちにむっちゃくちゃ見られてる気がする。
怖いので横は向きません。
アカはたまに手を振ってる気配があるけど。
「――そなたらの所属と名を述べよ!」
門を守る兵隊さんの中から声がする。
一番奥に立っている……全身鎧みたいな甲殻を持っている、クワガタっぽい人から、
強そう……二の腕なんかロロンの胴回りくらいある……
あと何? その鉄柱みたいな槍は。
「――ザヨイ・ゲニーチロ閣下が臣、クノエ・イセコ!」
ざわ、と色んな所から声が聞こえた。
イセコさんの苗字ってクノエっていうんだ~、初めて知ったな~?
「そして、こちらが――!」
あ、ボク!?
やっば、魔導紋構え! 魔力オーン!!
すぐさま空中に映し出される、綺麗な紋章!
「ガラハリ、そしてエンシュでの功甚だしと称される――ムーク様とその御一行である!」
うわぁ!? なんか今度は「おお!?」みたいな声がいっぱい!
そんなに噂になってるんですか、ボクは!?
ひいい! ずっと並んででも一般入場した方がよかったかも! 誰も許してくれないと思うけど!!
「うむ、確かに――総員ッ! 槍ィ! 構えッ!!」
クワガタさんが大声を出すと、衛兵さんたちは左右に広がって槍を両手で捧げ持った。
ま、まさか……!?
「お待ち申しておりました――英雄殿ッ!!」
「「「フーッ!! ラーッ!!!!」」」
やっぱりぃ!? やっぱりこうなったァ!!
『ラクサコさんを助けて、ゲニーチロさんに魔導紋をいただき、エンシュでスタンピードを防いで……その上テオファールさんのお友達ですよ、むっくんは。そろそろ諦めなさい、ぶっちゃけかなりの有名人です』
ひぐう……表面上はわかってるけど根が小市民なのでつらいのだ……のだ……
「ほぉおお……わだ、ワダス、感動したのす……ムーク様の武名がこごまで……ううう!」
ロロンが削岩機の親戚みたいに振動してる!?
あああ、泣かないの泣かないの~!
「さあ、参りましょうムーク様」
「ファイ……」
『こらむっくん! あなたはおやびんなんですから! そんなにおどおどしていたら周りの人まで軽く見られますよ! 猫被り虫になりなさい!!』
字面がグロすぎる……化け物でしょその虫。
で、でもわかったよトモさん!
そうだね、ボクだけならいいけど……ロロンたちまで笑われちゃったらかわいそうだもんね!
ボクは、胸を張ってマントの位置を直し……顎を引いて、堂々と歩き出した!
ひぃい……落ち着かないよう! でも頑張る! おやびんなので~!!
・・☆・・
「アレが噂の、【大角】様の隠し子ってお人か……! なんてえ偉丈夫だ」
「見なよあの棍棒、片手で軽々と……エンシュの救い主ってのは、与太じゃなさそうだぜ」
「まあ……なんて凛々しいお方かしら! 見て、あの雄々しい角!」
「それにあのお体……! 艶々よ! まるで甲冑みたい! 素敵~!!」




