第103話 雨上がりの道行き。
「ムーク様、昨晩は、その……」
朝起きると雨はすっかり上がって、天気は快晴。
朝ご飯を用意するロロンを横目に、作りかけの木像をシャッシャしていたらイセコさんがやってきた。
無茶苦茶モジモジしとる……
彼女は顔布を下ろしている……あれ、なんで? ボクらの前ではいつも素顔なのに……ああ。
そっか、泣いちゃったから目が……
あの後、随分泣いてたからなあ……テツーゾさんって方に、とってもお世話になったんだろうなあ。
「ナンノコトデショ? 昨日ハスゴイ雨デシタネエ?」
そんな彼女に、ボクはすっとぼけることにした。
(推定)男に抱き着いて泣いたなんて、若い娘さんからしたら恥ずかしいでしょ。
「あめ、あーめ!」
何が楽しいのか、アカがボクの膝でキャッキャしている。
かわいい!
「そ、そうですね! 酷い雨でした!」
「ソウデスヨオ。デモ晴レテヨカッタデスネ、今日モ頑張リマショ」
そう言って手を差し出すと、イセコさんはキュッと握ってくれた。
うーん、すべすべであったかい!
「……関係ナイ別ノオ話デスケド、ボク達ハオ友達ナンデスカラ。ナンデモ頼ッテクダサイヨ、ネ?」
「……はい、はい!」
顔布からチラッと見えた目は真っ赤だったけど、イセコさんはとっても綺麗な笑顔をしていた。
「アカも! アカもおともだち! おともだち~!」
『私も! もちろん私も~!』
うーん、やっぱり笑顔が一番ですね!
『ムーク、ムーク』
おやヴァル、すぐ近くにいるのにどうして念話を?
『お主も中々やるではないか。戦士たるもの、傷ついたおなごに寄り添えぬようではな……ふふん、見直したぞ』
……この子起きてたのかな?
『さあ……何のことかわかんないけど、まずボクは戦士じゃないと思うの』
ジト目になった!
『はん……見下げたぞ』
ちょっ!? なんで~!?
ニヤニヤしちゃってさ~!!
・・☆・・
「前方にコボルトがいましたが、処理しておきました!」
「後方にゴブリンがいましたが、処理しておきました!」
「この先に地竜がいますので、処理して参ります!」
イセコさんの殺意が高すぎる!
あれからご飯を食べて出発したんだけど、イセコさんがブンッて消えたかと思ったら周辺の魔物をコロコロしまくっている。
お陰でボクたちは何をすることもなく、街道をてってこ歩いている。
平和だなあ……
「戻りました」
戻ってきた!
戦闘モードは顔布ありだけど、なんかムッチャやる気に満ちている!
「エット、無理シナイデクダサイネ?」
「はいっ! お任せを!!」
違ァう!? あっまた消えた!
駄目だこれ、何を言っても裏目に出てしまう……
「イセコさん、やる気すごい。昨日の話に感化されたのかな」
「ワダスもかの勇士たちば、見習わねばならねえのす!」
マーヤは首を傾げ、ロロンはぴょんぴょこしている。
……まあ、間違ってはない、のかな?
ボクに泣いてる所見られたから恥ずかしいのかしら?
そんなに気にしなくてもいいのにねえ~?
『(昨日の5兆点から半分引いとくわ)』
『(2,5兆点虫……)』
ムムム、また寒気が?
「今日も上空は平和なのナ~」
「メギーッ!?!?」
相変わらずボクの肩に着地するアルデア!
進化しても重いものは重い! 言わないけど!!
「降リテクンナイ?」
「ムークの肩はポカポカでいいのナ……足が冷えたからちょっと待つのナ」
暖房器具か何かですか、ボクの肩は!
「わかる、肩車の時ポカポカで居心地よかった」
わからないでよし! マーヤ!
『アルデアさん! 次は私! 私!』
「アカも! アカも~!」
妖精は……いいか! 小さいし!
・・☆・・
「んにゃ、みゃみゃ~……♪」
マーヤが草の上で寝転がって柔軟体操をしている。
こういうの見ると猫ちゃんっぽいな……かわいいね!
結局イセコさんがむっちゃくちゃ頑張って、魔物無風地帯だった。
そして次の休憩所……は、お昼には到着しなかったので、軽食を取って移動。
ボクの素敵な体内時計によると、だいたい3時くらいに到着することができた。
そこは、絨毯みたいな感じで草が生えている空間だった。
もちろんいつもの東屋もある。
「ごろごろ~、あはは、ごろごろ~」
「芳しい草の匂いは良い……むう」
『素敵な陽気よ! 素敵な陽気だわ~!』
マーヤと妖精たちは、綺麗な草の絨毯の上を満喫中。
微笑ましいねえ……ボクはなにしよ――ムムム!!
向こうに池がある! 大きくて綺麗なのが!
この休憩所には他に誰もいないから……!
バッグに手をイン! 出でよドラム缶!!
「――オ風呂ノ時間ダアアアアアアアアアアアッ!!」
昨日は入れなかったからね! ね!
「まるで子供ナ、あはは」
そんなこと言っててもアルデアも入るでしょ!
「ムンムンムン……」
「むんむんむん……」
アカと一緒に、釣り竿を握っている。
ボクは自前の、アカもそう。
いやあ、先走っちゃったけど流石にお風呂には早すぎた。
なので、ドラム缶には水だけ汲んで……その横で久しぶりの釣りと洒落こむことにした。
思えばここ最近修羅場続きだったからね……ほっこりする時間も大事。
「アカ、退屈ジャナーイ?」
「つりしゅき! おやびんといっしょ、もっとしゅき!」
は~~~~~~~~~~~……なんじゃこのいい子。
撫でとこ、撫でとこ!
「ヨーシャヨシャヨシャ……!」
「きゃーはは! あはは~!」
のんびり釣りができる上にアカを撫でれる……天国って意外と近所にあったんじゃな。
駅から徒歩5分、コンビニ近くの物件って感じ!
『よくわかりませんがご機嫌ですね』
うん!
色々大変だけど、今を全力で楽しまないとね! ね!
『まったく……ちょっと偉すぎるのでポイントを付与しておきましょう』
やったね!
――と、ボクのウキに動きが!
フィーッシュ! ムム! これは大物の予感だ!!
竿が超しなってる!!
「しゅごい! おやびん、がんばえ~!」
「任セテオキンシャイ! ヌアーッ!!」
リールを巻いて巻いて――ごぼう抜きじゃあああああああっ!!
さあ出てこい! 今晩のおゆはんになるかもしれん魚さんよ!!
「……アアン」
水面に浮かび上がったのは……たぶん、狼さんの頭蓋骨。
バケツとか長靴じゃなかったけど、どっちみち食べられるような物じゃないからリリースだね、リリース。
はあ……重いと思ったんだけどなあ。
「オ?」
なんか水面がバシャついてる。
ひょっとして、この骨の下になんか魚が!?
こうしちゃいられない、すぐにこのウルフボーンを引き上げなギャーッ!?!?
「アイダダダダダダダ!?!?!?」
狼くんの骨が! 骨がボクの手にガッツリ噛みついてるぅ!!
ホラー! ホラーだ! ここの池は呪われてるのか!?
お風呂はキャンセルした方がよさそう!
「おやびん! ふんにゅ~!!」
「ギイイヤアアアアア!?!?!?」
アカの電撃がお骨に直撃し、噛まれているボクも痺れ虫になった。
お、おおお……水に濡れてるからよく電気を通すねえ……あばばば。
「ムーク! 大丈夫!?」
悲鳴が聞こえたのか、マーヤが走ってきた。
「タシュ、タシュケテ」
「あはは! なにその格好、かわいい!」
可愛くはないでしょ!?
とにかくこの呪われし骨をなんとかしておくんなまし!!
「それで……わあ、大物だね。そのホネガシラ」
ほねがしら?
イワガシラなら知ってるけど……
「ナニソレ……?」
あ、痺れが取れてきた。
「知らないの? 骨みたいな頭の魚。焼くととっても美味しい」
なんやて!? あ、本当だ……魚の頭だけ骨を被ったみたいな感じ。
でも美味しいのか……これ。
「ソレナラ……イイヤ!」
「ふふ、やっぱりかわいい」
だから可愛さはないでしょ~?




