第80話 亀はデリシャスだったので許すものとする。
「ささ、ムーク様! 皆様! どんぞ! お食べえってくなんせ!」
「オー!」
夕暮れ時から夜に変わるくらいの時間帯。
ボクの前で湯気を立ててるのは……焼いたお肉!
でっかい……顔よりでっかいよ!
いい匂いがする! ニンニクみたいな!
「これがディナ・ロータスの肉……! 食うのは初めてナ!」
アルデアが目を輝かせている。
そう! これは……あの亀さんのお肉!
解体の人が持ってきてくれたんだ!
「イタダキマス!」「いたらきま~!」「チュチュピヨ!!」
ボク、アカ、そしてピーちゃんはパン! と両手を合わせていただきますをした。
あ、ピーちゃんは翼でしたね!
「ハモム……ム! ムムム!」
歯ごたえがあるお肉を噛み千切る……鳥っぽいけど、ちょっと違うお味!
そして鳥にはありえない……肉汁! じゅわーって肉汁!
でもしつこすぎもしない……!
結論! とっても美味しい! 美味しい!
「ンマ~イ!!」
「おいし! おいし!」
『亀さんを食べるのは初めてだけど、とっても美味しいわ! 美味しいわ~!』
ボロボロになって倒した甲斐があったってもんだよ! ほんと!
あ~……ここ数日は死ぬほど大変だったし、もう二度とやりたくないけど……リターンはあった! あった!
「酒が……酒がすすんでどうしようもないのナ! いくらでも飲めるのナ~♪」
「ふむ、なんとも美味い! ムークのお陰だな」
アルデアはお酒をガボガボ飲み、お肉をモリモリ食べている。
合間合間に野菜も食べていて健康的……いや、お酒で帳消しだね。
ヴァルも気に入ったみたいで、小さなナイフを使って器用に食べている。
ちなみにアレ、ロロンが作ったミニチュア骨ナイフです。
アカも最近上手に使うようになってきたねえ、進歩だねえ。
……ピーちゃん? キツツキみたいな勢いでお肉にめり込んでいってる。
猟奇的!
「美味しいのナ! ロロンちゃんは料理上手なのナ! 私も向こうに着いたら頑張って覚えるのナ~!」
「うん、楽しみにしてるよデルフィネ。それにしても美味しいね……!」
デルフィネさん達もイチャイチャしながら食べていらっしゃる。
あの空間にだけ砂糖が物凄く含有されてる気がする。
幸せそうでなによりです。
「ロロンモ食ベテ食ベテ! 美味シイヨ!」
配膳を終えて、横に座ったロロン。
エプロンを付けたまま、彼女は大きくお肉を頬張った。
「はも……んぐ……んんん! んめめなっす~!!」
うんうん、カワイイお顔!
ご飯はみんなで楽しく食べないとネ!
「ウム……昔食ったものよりもうめめでがんす。鮮度と料理人の腕前でやんしょ」
「じゃじゃじゃ! おしょすいごと……!」
ダルトンさんは、ものすごい勢いでお肉を食べている。
だけどぜんぜんがっついているように見えない不思議! お皿の上のお肉はどんどん消えていくのに!
ここは、ボクが療養虫にされている天幕の中。
出歩くのはダメ―! って言われてるから、どうせならここでご飯にしようとロロンが言ってくれたんだ。
いやあ、できた子分を持って幸せでござるなあ!
「――ムーク殿の好意で供与された肉だ! 皆のもの! 大いに噛み締めて明日への活力とせよ!!」
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」
ピエッ!? ビックリした……!
どうやらお外でルツコさんたちが食事を始めたようだ。
好意だなんて……あの人たちも大活躍したじゃんね?
「んぐ……それにしてもムークは太っ腹なのナ。騎士団のみならず、解体に参加した全員に肉を振舞うとはナ」
えぇ~?
「ダッテ腐ッチャウジャン。ソレナラミンナデ食ベタ方ガイイデショ~?」
「欲のない男ナ~? 売ればいいのにナ~?」
そう言うけどさ、解体の人も頑張ってるんだから……
そんな阿漕な商売しなくても困ってないし……
誠に! 誠に遺憾ながら、ルツコさんが言ったようにあの亀の所有権、大部分がボクになるらしい。
『だってお前が腹と喉ぶち抜いたから一番手柄じゃん(意訳)』と言われてしまうともう何も言えないのだ。
せめてもの抵抗として……お肉を振舞うことになったってワケ。
あとは買取金額についてだけど……一応、考えはある。
ま、それはそれとしてお肉を堪能しましょうかね~?
「おやびん、おいし! おいし~!」
「アラマア、ホッペニオ弁当ガツイテルゾ~?」
拭いてあげましょ、そうしましょ~。
「むいむいむい……えへぇ、えへへぇ! おかえし! おかえし~!」
「ムイムイムイ……」
ボクもそうだったのか。
もうちょっと綺麗に食べたいけど、いかんせん四枚歯だから加減が難しくてね……
「まったく、似たもの同士だな?」
「……フキフキ」
「むももも……うむ、苦しゅうないぞ!」
ヴァルも同じくらいついてるじゃん……妖精はスケールの関係で厳しいのかしらね?
ピーちゃんは……お肉に突き刺さってるのは仕方ないか、もう諦めたよボクは。
『むっくんのせいでステーキがうめえし! は~! ワサビショウユうんま! うんま~!』
『ニンニクポン酢も乙なモノですね……大根おろしが合います』
『レモンバターもいい味を出しています……美味です!』
神界もステーキパーティだね!
みんな楽しそうでボクも嬉しいよ!
『なんと優しき虫か……ポイントを付与しておきますね。遺憾ながらかなり少なめですが……』
『ちゃんと一般的な数値にしといてださいよ~? ともあれシャフさんポインヨもどぞ~!』
『うむむ……サイレント付与をし過ぎましたか……このトモ、一生の不覚。あ、お隣り様もどうぞどうぞ。焼き方は……血の滴るようなレア? お任せください』
あーあ、毎日こんなふうに幸せだといいんだけどなあ……世界が! 殺伐とした世界が! 憎い!!
・・☆・・
「……ムン?」
目が覚めちゃった。
どう見ても真夜中です、ありがとうございます。
「おやびん、こっち、こっち~……」
アカのカワイイ寝言を聞きながら、ゆっくり身を起こす。
ステーキ祭が美味しすぎて、お腹いっぱい食べてすぐに寝ちゃったんだよね。
牛になったらどうしましょ。
……あ、見張りさんがいない。
ちょっとお散歩するくらいいいよね、日中寝てばっかりだったから。
体内魔力が狂ってるからって、戦わなければ大丈夫でしょ。
ね、トモさん?
『そうですね、食事と休養で安定していますし……100キロまでなら許容しましょうか』
ボクはお遍路さんか何かですか?
『残念、ルートにもよりますがお遍路さんの歩く距離は1200キロほどですよ?』
そんなに!? ふわぁ、すごいなあ。
……とにかく、そんな大旅行には行かないですよ。
ちょこっと野営地を散歩するだけだから。
……あ、どうせならあそこに行こう!
「コバンワ~?」
「ギャルルル……ギュロロロロ」
どずーん、とのしかかってくる巨体。
そう、走竜ちゃんたちがいる所だ。
ボクを見るなり駆け寄ってきたイーダちゃんの他にも、ざっと20匹はいる。
ざっくりと区切られた空間で、なんとみんな綱にもつながれていない。
この子たち、かなり賢いし言うことをしっかり聞くんだろうねえ。
「キミモオ疲レ様。アレカラ元気ダッタ?」
「ギャウ、ガウウ」
「ムッワワワ」
青臭い! お腹いっぱい食べてるみたいでよかった!
「スベスベ、アースベスベ~」
撫でると、ひんやりしていて撫で心地がとてもよい。
アカに勝るとも劣らんねこれは……
「おや、誰かいると思ったら英雄殿じゃないか」
誰ですかボクをそんな名前で呼ぶのは……ハンゾさん!
干し草満載の荷車を押している。
「もう歩いて大丈夫なのか? 従軍療法士がかなりの重症だと言っていたが」
「オ腹イッパイ食ベテ寝タラ治リマシタ……手伝イマスヨ」
ここの隅に干し草を入れておく餌場があるみたいなので、お手伝い。
1人でやらせるには多すぎるからね。
「たまげた健啖家だ。俺も見習わねばな」
「食イシン坊ナダケデスヨ、アハハ」
干し草をぎゅっぎゅ……と。
早くしないとね、後ろに走竜ちゃんたちが列を作り始めているからね。
皆お行儀いいな……どっかのヒトよりモラルがありそう!
具体的にはオルクラディのやーつら! もう二度と会いたくない!!
「ディナ・ロータスの前に人族と戦ったと聞いたが」
「ア、ハイ。オルクラディノ兵隊ラシイデス……ナンカコウ、キショイ肉ヲ飛バシテキマシタ」
アレはもう二度と喰らいたくない……
「うむ、『肉樹の呪い』だな。アレは厄介だ……手早く適切に処理をせねば周辺の肉と同化し、臓器まで犯す呪いよ」
やっぱり同化するんじゃんアレ!
ぶるる……食らったのがボクでよかった。
干し草を詰め終わったので、ちょっと離れた所にある丸太に並んで腰かける。
あ、そうだ。
「オ茶ドウゾ」
「おお、すまない」
バッグにはなんでも入ってるからね。
炭酸水もあるけど……夜だから暖かいお茶の方がいいよね。
「結局、ナンダッタンデショウネ……オルクラディ」
「軽く死体の方を調べたが、よくわからん。例によって身元を特定できるモノも持っておらんかったし、なにより『肉樹』を使う呪法師の死体はすぐに腐って溶けるからな」
「エエエ!?」
なにそれ!?
「あ奴らは呪いを身に施してもいる。情報漏洩を防止するためだろうな……頼まれてもあのような忌々しい呪法なぞ習得する気はないが」
それについては完全に同意する虫です!
は~……オルクラディの人族とは初遭遇だったけど、やっぱりうんちヒューマンだったか……




