第79話 色んな人がワッと来た。
「おやびん! ひと、ひといっぱ~い!」
「ソダネエ」
あんぐ、ばきばき……硬くて香ばしいパンが今日も美味しい。
そんな朝ご飯を堪能しつつ、肩で興奮するアカと一緒に野原を眺めている。
昨日の騒動から一夜明けたそこには……ヒトがいっぱいいる。
「外殻の切り出しは昼からだ!」「髄液の採取は首じゃ無理だ! 砕けた足を使え~!」「荷車もっとくれ~! 数が足りねえぞ~!」
彼らがアリみたいに群がっているのは、ディナ・ロータスの死体だ。
昨日見た時と違って、木で足場が組まれていてちょっとした工事現場みたい!
メンバーはたくさんのむしんちゅ、それに獣人さんだ。
竜車もズラ~……っと並んでいる。
もちろん、走竜ちゃんもいっぱい。
「ムム……アレハロドリンド商会!」
見慣れた旗を付けた車が多いね……
いや、しかし様変わりするなあ。
「今朝早ぐに到着されて、あっという間にああなったのす。なんとはあ、壮観でやんす~!」
いつの間にか隣にいたロロンが教えてくれた。
昨日あんなに戦ったのに早起きさんですなあ。
ボクはお風呂の後妖精たちとスヤスヤしてましたよ……いやあお風呂って最高ですね。
あ、もちろん男女別ですよ、別。
なんかそれ知ったシャフさんが舌打ちしてたけど。
騎士団特製のお風呂が混浴なワケないでしょ。
後で知ったけど、巡回騎士団さん結構女性兵士も多かったし。
鎧着てるヒト=女性って感じでいいみたいね。
「おやびん! アレおいし? おいし?」
アカがディナ・ロータスの死体を指差している。
「ドウナンダロ……」
うむむむ……スッポンとかは美味しいらしいからひょっとしたらいけるのかな?
だけど、ディナ・ロータスはゾウガメっぽいから……ゾウガメって美味しいのだろうか?
「甲羅や皮膚は硬くて食べられねっす。だども、身は長持ちして美味えと聞いておりやんす」
ロロンペディア!
「オイシイッテサ!」「わはーい!」
アカとハイタッチ!
それは是非食べてみたい! 苦労したんだから美味しくあってくれ!
「ふわぁあ……朝から元気だな、お主らは」
ふわふわ飛んできたヴァルが肩に着地。
そのままアカに抱き着いて、ほっぺをもにゅもにゅしている。
「あはぁ! あははぁ! おはよ、おねーちゃ!」
「んふふ……おはよう、良い朝だな」
仲良きことは美しきかな……純粋な意味で知り合ったのは最近だけど、いつの間にやらすっかりなじんだねえ、ヴァル。
アカもお姉ちゃんができて毎日大喜びだ。
ピーちゃんもいるし、我がパーティの妖精密度がどんどん上がっていく! 特に困らない!
そういえばピーちゃんは……ウワーッ!?
朝食のパンに突き刺さって寝てる! いつものこと!!
でも救出せな! 誰かに間違えられて唐揚げパンにされるかもしれない!!
・・☆・・
「ヒマ……」
「ひま、ひ~まぁ?」
野営地に張られた天幕の中でごろ寝虫。
アカが目の前でボクの真似をしてニコニコしている。
「おやびん、ひま、なぁにぃ?」
「ウムム……ソウダネ」
改めて言われると困るなあ……そうだ!
「コウヤッテ何モシナイデ、アカトオ昼寝デキルッテコトカナ~?」
「はわぁ……ひま! ひましゅき! しゅき~!」
キャッキャしながら顔に激突してくるアカの可愛さよ。
でもまあ……暇です、ハイ。
何故こうなっているのか。
『滅茶苦茶ですからね、体内の魔力が』
……そうなのだ。
解体業者さん? と一緒に来た中に、一級療法士の人がいた。
っていうかその人、リーチミで会ったシャフさんとこのシスターさんだったのよ。
お名前はハリコさんです。
んでんで、ボクを診察してもらったんだけど……軽く額に手をかざしただけでハリコさんは血相を変えた。
『まあ、まままあ大変! よく立って歩けてますね!? 誰か! すぐに横になれる場所を~!』
その鶴の一声で、あっという間に設営されたのが……ボクがいる天幕だ。
ハリコさん曰く、ボクの体内の魔力がもう……台風がいくつもあるくらい乱れに乱れているのだとか。
安静にしていれば大丈夫……というか、安静にしてないとアブナイ!! ということで……ごろ寝虫と化したのだ。
ちょっとダルいな~? くらいの感じなんだけど、お医者さんの見立てではボクは大層な重病人らしい。
大丈夫ですよ? というボクの意見は全員によって封殺されました、まる。
今も天幕の入口には騎士さんが2人いて見張っている。
……なんで女性兵士なんですかね? 今もアカとキャッキャしているボクをチラチラ見てるけど。
ちょっと手を振ってみようかな……無茶苦茶顔を逸らされた!?
おおん……もうやらんとこ。
『ヴァーティガさんも大いに使いましたし、電磁投射砲を何度も発射しましたし……極めつけには最後の剣モードとアーマー形態の反動ですね』
ヴァーティガアーマー……格好いいしむっちゃ強かったな……普段使いしたいけど、そんなことしたら魔力枯渇で死んじゃう。
『むっくんがよくやる魔石ボリボリも少なからず悪影響ですからね。枯渇からの急速回復は、並の魔術師ならば2回もやればぶっ倒れる行為ですので』
そうなん!? 割とちょこちょこやってるんだけど!?
『むっくんの頑丈さでしょうね。それに関して常時モニタリングしているので後遺症等は残っていませんけど』
そうなんだ……やらないわけにはいかないけど、魔力の総量も増やしておきたいね……
『ぶっちゃけかなり増えていますよ。魔力枯渇からの急速回復は、魔力の上限を引き上げる効果があるのです。これは魔術師だけではなく、身体強化魔法を行使する戦士の方々にも重要なことです』
ほんほん……あれ? じゃあ なんで未だに枯渇に悩まされてるの?
『消費する魔力が桁違いですから。むっくんの総魔力量を風呂桶一杯分と仮定しまして……洗面器一杯分ほど増えてもさほど変わりがないのですよ。こればっかりは地道にコツコツレベリングするしかないですね』
この世界、楽ができないことが多すぎるんですわ。
トモさんの言う通り、頑張って鍛えよう……この魔力暴走が終わったら。
『上昇志向が強いむっくんは素敵ですよ? 私も心が高揚してデミグラスソースの仕込みが捗ります』
すっかりレストラントモさんと化している。
そっちの世界でトモさんが人気者になってボクもうれしいや。
『まあ、お上手虫! ふふ!』
嬉しそうで何よりだよ。
「おやびん、ねんね、ねんね~……」
『眠れるときに寝ておくのが吉よ、大吉よ……』
アカがほっぺに寄り添って眠り始めて……いつの間にか飛んできたピーちゃんは胸の上で大の字になって眠っている。
「ふわぁあ……腹を借りるぞ、ムーク……ふむ、ゴツゴツもまたよし……」
ヴァルまで!?
ふむん……妖精に囲まれて、物理的に動けないや……
こりゃもう寝るしかないね、うん。
『ちすちーす、う~! しごおわ~! トモちんなんか美味しいモンあ~る~?』
『なんですか急に。こちらはまだ仕込み中ですので、昨日作って寝かせておいた無水カレーしかないですよ?』
『あんじゃーん! 超あんじゃーん!』
ふわぁ……平和……最高……寝るぞい、ぞいぞい……
・・☆・・
「……ここに絵師を連れてきてあの光景を絵にしておきたいわ」
「妖精と一緒に眠るいい男……! なにあれ、宗教画?」
「しかも無茶苦茶強いし、優しいし、できすぎでしょ?」
「さっき手を振られた時にビックリして舌噛んじゃったわよ、アタシ」
「はぁあ……目の保養、目の保養ねぇ……」
『おひょひょ、うひょひょ! えーしえーし、カレーが進むし~! はぐももも』
『むっくんは人気者ですねえ、あむあむ……ふむ、いい出来です!』
・・☆・・
「ウーム……ウムムム……ハワワ……」
なんか生あったかい気配がする……ふわぁあ、起きようかな。
「ギャウ! ギャルル!」
「ホワーッ!?!?」
視界がベロ! 青臭い! 青臭い!!
「ナ、ナナナ……ア?」
ボクをベロンベロン舐めまわしている、走竜ちゃん。
なんだけど、なーんか見覚えがある、ような~?
この世界に来て結構経つけど、なんとなーく顔の見分けができるようになってきたんよね……
そんで、この子は……ああ!
「ハンゾサンノ時ニイタ……イーダチャン?」
「ギャウ! ギャーウ!」
そうですよー! みたいな感じで吠える走竜ちゃん。
やっぱり! この子はサジョンジの2人がブラック化して大暴れした時に生き残ってたイーダちゃんだ!
ロドリンドのヤタコさんとこのシュテンちゃんと迷ったけど、この子のほうが目がちょっと丸いんだよね!
当たってよかった~……!
しかし、よくこの天幕に入れたね……結構広いけどさ。
「おお、やはりここに来ていたか」
入り口の方から聞き覚えのある声がする……あの人は!
「急に走り出したから何事かと思ったぞ。ふむ、倒れたと聞いていたが元気そうだな、ムーク殿」
「ハンゾサン! 何故ココニ!?」
やっぱりトリハ家のハンゾさんだ!
首都に帰ったはずなのに、どうして?
ハンゾさんはベッドの横まで歩いてくると、そこにあった椅子に腰を下ろした。
「うむ、『例の魔物』について調査を仰せつかってな。この近辺にも以前ヤツらが出たと聞いてやってきたのだ」
あー、クジラモドキにオオムシクイドリも出たねえ。
「ナルホド」
「今回は通常のディナ・ロータスだったが……大いに活躍したそうじゃないか、ムーク殿は」
「マアソコソコ……ソコソコデス、ハイ」
ベッドの上で上体を起こす……アカたちがいない。
起きてオヤツでも食べに行ったんかな?
「アノ、カルコサンハアノ後?」
「彼女はまた南へとんぼ返りだ。南部であの魔物どもの目撃情報が多いらしい。ノキ家だけでなく、他に私兵を派遣している家も多いぞ」
はえ~……サツバツ!
エンシュとか大丈夫かなあ……?
「ギュルルルル……」「オオウ」
太腿に頭をぐいぐい押し付けてくるイーダちゃんを撫でつつ、ボクは溜息をつくのだった。




