第78話 八方丸く収まった! やったネ!!
「そもそもは私と結婚させるつもりだったらしいのネ。だが年が離れているのと、私が早々と妻を見つけたので……その話は立ち消えになったというわけネ」
リーバンさんは続ける。
「乗り気だったのはデラル殿ネ。こっちの父上は『息子たちの嫁には心底納得して嫁いでもらいたい』という考えだったので、あまり本気にしてはいなかったのネ」
温度差ってやーつであるか。
……っていうかリーバンさん妻帯者だったんですか、おっとな~!
『嫁がいりゃ大人ってのは甘々だし! そんなもんで大人になるわけじゃないし~!』
そ、そうですかシャフさん。
「デルフィネの兄上が出奔したのも大きな原因ネ。アレでデラル殿はどんどん意固地になったネ」
「ああ……そういえばそんなこともあったナ」
そんなことがあったの!?
と、ボクの驚きに気が付いたのかアルデアが肩を叩いてきた。
「デルフィネの兄上は、父上から望まぬ嫁取りを強いられて出奔したのナ。たぶん今は帝国かラーガリにいるのナ」
え、ええぇ……まさかの兄妹揃って出奔家庭!?
そりゃあ妹の時は追手も放つね……自業自得だけども。
「ちなみに、我が弟も全然乗り気ではないのネ。アイツももう心に決めた人がいるらしいのネ」
あぁ……片方のお家だけがムキー! ってなってるのね……
「父上はとにかく人の話を聞かないのナ……自分の思ったことが一番正しいと信じ込んでいるのナ。兄上もそれで嫌になったのナ……母上も父上の言いなりで……」
デルフィネさんは頭を抱えている。
毒親ってやーつなんかな、こういうの。
「なるほどナ。前に言っていた『鱗人と揉めた』云々もどうせただの言い訳だろうナ~」
付き合ってられん、って顔で首を振るアルデア。
巻き込まれた側にとってはたまったもんじゃないねえ。
「おやびん、おやびんあ~ん! あ~ん!」
「モゴゴ」
アカが口にクッキーを捻じ込んできた。
「えへへぇ、おいし?」
「アカガクレタカライツモノ100倍オイシイ! エエ子ジャネ~?」
撫でる撫でる、撫で撫でる。
「きゃーはは! あははぁ! あはぁ!」
は~……癒されるわぁ。
「それで……親の付き合いの関係上、嫌々ながら探しに出ることになったわけネ。ムーク殿にアルデアを助けてもらった時は、一応探しているという建前の為に動いていたのネ……正直な所、仲間たちと徒党を組んで狩りをして過ごしていたのネ」
「なるほどナ。どうりで『狩り司』殿にしては動きが遅いと思っていたのナ」
「仲間もみんな嫌気がさしているネ。かといってすぐに里に戻るもの面倒だから……1年くらいは帰るつもりはなかったネ」
やれやれ……って感じに腕を上げるリーバンさん。
そらんちゅもそのボディランゲージやるんだ。
外人さんみたい!
「今回のことだって、北部で魔物を狩ろうとやってきた結果ネ。その途中でディナ・ロータスが出たという話を聞いて、物見遊山に来てみただけネ」
あー……本当に偶然見つかっちゃったんだね。
「じゃ、じゃあ本当に……?」
デルフィネさんが目を輝かせている。
「連れ帰るつもりなんて毛頭ないネ。それに、もし万が一そのつもりだったとしても……ムーク殿がそちらに付いている時点で即刻手を引くのネ。前のアジャルタの件もあって……もう恥の上塗りはできんのネ!」
ボクには気を使わなくていい……けど、この場合は利用させていただこう。
「なので、安心するといいネ。ここで私は何も見ていないし、聞いていないのネ? もしも里から催促があれば、マデラインに行ったようだとでも言って海の魔物を狩りに行くのネ」
この人狩り好きすぎじゃない?
狩り司さんってそういう感じなんか。
「ホホーウ。これは思ったより話せるのナ……我が槍が唸る羽目にならずによかったのナ~♪」
お酒グビグビアルデアさん。
水みたいに飲むね……
「そもそもネ、ディナ・ロータスの腹をぶち抜いた上にブレスに逆らって突撃するような御仁相手に戦いたくないのネ? しかもそちらのアルマードの方もいらっしゃるし……とても勝ち目がないのネ?」
「アレ、何デ知ッテルンデス?」
どっかで見てたんかな?
「空から見てたのネ。気乗りがしない状態で戦っても無駄死になのネ、しかも悪くもない相手を……やる気が出るわけがないのネ?」
よかった……頑張って戦ってよかった……
「と、言うわけで正式にデルフィネはマデラインに行ったということにするのネ。心配せずに新婚旅行と洒落こむのネ……トーラス殿、よろしくお願いするのネ」
「はっはい! 全力でデルフィネを守ります! 守りますとも!!」
真剣な顔をするトーラスさんを、デルフィネさんはもう顔を真っ赤にしてニコニコ見ている。
あら~、仲良きことは美しきかな~!
「んへへ、なに? なぁに?」『ご機嫌ね! うっふふ、うふふ!』
思わず妖精たちをナデナデしてしまった。
……なんでしょうヴァル、こちらを睨んで……?
「はん、気の利かぬ男よな」
「イギーッ!?」
撫でて欲しいならそう言ってよ! なんで小指をそんな方向に曲げながら手を引っ張るのォ!?
力が強い! 指の関節が増えるかと思った……!
「ダッテ『気安ク肌ニ触レルナ』ッテ……」
「ふふん、いいことを教えてやろうムークよ。いい女とは我儘なのだ」
……そうですか。
拙者は一生女性には勝てそうもないでござるよ、ニンニン。
『だからサムライかニンジャかどちらかにしなさい』
『どうしてそこで諦めるんそこで! もっと熱くなるし! 馬鹿野郎! 馬鹿むしんちゅ~!』
女神様たちのディスに殴られながら、ボクはとりあえず安堵の溜め息を漏らすのだった。
ヴァルも撫でた。
『むふふ』と言ってた。
なんかカワイイ。
・・☆・・
「ほう! 丸く収まったとな! はっはっは! それはよかった!」
戻ってきたルツコさんは呵々大笑している。
ほんと、明るさの塊みたいな人だ。
「エエ、コレデ安心デス」
「すひゃあ……えへぇ……」
膝の上で爆睡するアカを撫でる。
あれからしばらく歓談して、リーバンさんは帰って行った。
しばらくトルゴーン北部で狩り三昧してからマデラインに行くんだって。
前に会った時の印象とかアルデアの話から、結構な堅物的なイメージの人だったけど……そんなことなかったねえ。
何度でも言うけど、よかったよかった。
「ソチラハドウデスカ?」
「準備は滞りなく済んだ! あとは明日来るであろう解体の者らを待つだけだな!」
こっちも早く終わってよかった。
あのデッカイ亀さんを解体するんだから、絶対大所帯だろうねえ。
「うむ、それについてだが……」
どかり、とボクの横に腰を下ろすルツコさん。
「駆け落ち問題も片付いたので丁度よいな。しばし滞在してもらうことになるので、何かあれば何でも言ってくれ」
「……滞在?」
なんでぇ?
「……ぷっ」
ルツコさんはボクを見て噴き出した。
「はっはっは! 従妹の言う通りだ! なんとも善性の塊だな、ムーク殿! はっはっはっは!!」
ムッチャ笑うじゃん。
この人の笑顔って一切暗い部分がないんよね……太陽みたい。
で、どういうことぉ?
「はっはっは! ……ふぅ、あのなあムーク殿、貴方が倒したディナ・ロータスの査定が残っているだろうが?」
「エッ……倒シテナイデスヨ?」
マジで!? 亀さん買い取ってくれんの!?
で、でもボクは厳密には倒してないじゃんか!
「謙遜を言うものだな? ムーク殿があの攻撃で弱らせてくれたので私の魔法が通ったのだぞ? 功労者そのものではないか!」
む、むーん……そりゃあお金があるに越したことはないけど……
「おっと、これはもう騎士団の決定事項故、もうどうにもならんぞ? それに、ディナ・ロータスは素材の宝庫! 実入りもさぞ良いだろうさ!」
「エェエ……」
強引! 強引すぎる……これ絶対断れないお話じゃんか。
騎士団の決定とか言ってたし。
「ムーク殿は眠っていたがな、お仲間にはその時に話しておいたぞ! 皆快諾であった!」
「ア、ソウナンデスカ……」
もう何も言うことができぬ虫です。
「此度の顛末は手紙で従妹にも伝えておこう! 彼女も喜ぶであろうな!」
「ソンナニ……?」
ラクサコさんか、なんか懐かしいなあ。
「はっはっは! 英雄殿は面白いな! さて、夕餉までごるゆりとなされよ。今風呂も作っておるからな、今晩はゆっくり休まれるがよかろう!」
そう言って、ルツコさんは去って行った。
うーん、動作に無駄がない!
いつ見てもキビキビしている!
しかし……お風呂!? お風呂ですと!?
なんて素敵な言葉だ……
お風呂を作れるなんて、さすが騎士団!
『どこに関心しているのですか……』
お風呂!!
『正直でよろしい! 微笑ましいですよ!』
ありがとうママ!
・・☆・・
「フイィ……」「はふう……」「ピピヨ……」
お風呂、お風呂だ。
10人くらいでも楽勝で入れそうな湯船を、全身で堪能している。
入っているのはボクとアカ、ピーちゃん。
「体ばほぐれやんすな……」
「生き返りますね……」
そして、ダルトンさんにトーラスさんも。
ここは、騎士団の皆さんが作ってくれたお風呂だ。
大きな大きな天幕の中に、土魔法で作ったという湯船がある。
足元はスノコ? と砂利が敷き詰められて汚れることもない。
お湯の方もなんかパイプみたいなもので循環していて、魔石を使った装置に繋がっているとか。
これでいつまでもあったかいし、お湯も綺麗になるってわーけ。
魔法ってすごいなあ……
「何はともあれ、これで一段落ば付きやんしたな」
「ええ、本当に……皆様には感謝の言葉もありません!」
トーラスさんが頭を下げる。
いや~……色々大変だし相変わらず痛い思いもしたけど、終わってみれば一件落着ですなあ!
「ふみゅ~……」「チュチュピ……」
仰向けに浮かぶ妖精たちを見ながら、ボクは暖かいお湯を堪能するのだった。




