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第77話 ほっこりできそうでできない虫。

「おやびん、あーん! あーん!」


「モモメメメ」


「ほら水ナ、飲め飲め」


「ミミモモモ」


「あーん! あーん!」


「ハミャミャミ」


「ぬ、ケマが温まったのナ。飲め飲め」


「ムムファファファ」


「おやびん、あ~ん!」


「――ストップ! ストップ!!」


 ぜはあ、ぜはあ……し、死ぬかと思った。

お菓子と水分が交互にねじ込まれるんだもん……優しい拷問かなにかですか?


「なんだ、私が手ずから飲ませてやっているというのに贅沢な男だナ?」


 アルデア! なんですかその憮然とした顔は!


「テンポガ良スギルンジャヨ! 正月ノ餅ツキジャナインダヨ! モシクハワンコソバ!!」


「わん、こ? なんナ? 卑猥な言葉ナ?」


「違ァウ!」


 ディナ・ロータスとの激戦が終わったボクは、焚火の近くで介助されている。

いやー、無理しすぎて体が1ミリも動かんのよ。

排泄しないボディで助かったです。


 んで、ここにいるのはボクたちだけじゃなくて――


「おお! 気が付いたかムーク殿!」


 ガシャガシャと鎧を鳴らしながらやってきたのは、ジーグンシ・ルツコさん。

ここは、彼女ら巡回騎士団がいつの間にか設営してくれたらしい野営地なんだ。

場所は、戦っていた場所からすぐ近く。

なんでわかるかって? ……見える範囲に、ディナ・ロータスの成れの果てが転がっているから!

死体になってもでっかいなあ……当たり前だけど。


「色々、アリガトウゴザイマス」


「はっはっは! 何を言う! 救援に来たはいいものの、仕事らしい仕事をせなんだのだ! これくらいのことはさせてもらうぞ!」


 なんとカラッとした人だろうか。

見た目はラクサコさんによく似てるけど、中身はいい意味で体育会っぽい。

流石は騎士団長ってところかな……


「いやしかし、恩を返せると思ったらなんとも凄まじいものを見せていただいたぞ! 虚空から現れる鎧とは、いったい何という魔法なのだ?」


 あー、ヴァーティガアーマーのことか。


「アレハ奥義トイウカナントイウカ……」


 ボクにも説明が難しいのです。


「なるほどなるほど、奥義は秘するものだからな! これは失礼を致した、はっはっは! さて、今晩はごゆるりとされるがいい! 夜警は我々に任せてもらおうか!」


 ええ、そんな悪い……


「どの道ディナ・ロータスの死体を見張らねばならんからな! 明日には近隣から解体専門のものたちが送られてくる故、気になさるな! それでは一旦ここで失礼!」


 ルツコさんはババーッと喋り終えると、きびきびと去って行った。

うーん……言葉を挟む隙も無い。


「頼れるところは頼った方がいいのナ~」


 アルデアは達観してるねえ……あ。


「ネエ、トーラスサン達ハ?」


「……忘れていたのナ」


 ボクもだけど!


『ピーちゃん! ピーちゃん! 大丈夫!? 無事!?』


『まーっ! びっくりしたわ! むっくんこそ大丈夫?』


 よかった、元気な念話が返ってきた……


『色々疲れたけど、亀さんはコロコロしたから戻って来てくれていいよ~』


『まあ! あんなに大きい亀さんをやっつけたの!? むっくんはすごいわ! すごいわ!』


 えへへ……照れるなあ。


『じゃあ今から帰るわ! あ、そうそう……お客さんもいるのよ! 一緒に行くわね!』


 ……お客さん?


『――空の人よ!』


 ……なんて?



・・☆・・



「……ご無沙汰しておりますネ」


 ピーちゃんとトーラスさん達と一緒に帰ってきたのは、見知った人だった。

そして……できれば会いたくないな~と、思っていた人でもあった。


「見ての通りムークは半死半生ナ。これを好機と見てデルフィネを攫うなら……まずは私が受けて立つのナ……!!」


 アルデアに睨まれている、そらんちゅ。


「馬鹿を言わないで欲しいネ。激戦を潜り抜けた英雄に、そのような無体をするわけがないのネ」


 『螺旋大樹』の『狩り司』である……リーバンさん。

そう、今回の依頼主……トーラスさんたちへの追っ手、です!


 ど、どどどどうしよ……まさかこのタイミングで見つかるなんて!

リーバンさん以外の人はいないみたいだけど……!


『……ピーちゃん、この人どしたん?』


 肩に止まっているピーちゃんに念話。


『むっくんたちが戦っているのを遠くから見ていたら、いつの間にか隣にいたわ!』


 おおん……まあ、ボクがいるかどうかは別としてもあんなでっかいのが大暴れしてたらみんな気になるよね……

まあ、来ちゃったものはもうしかたないか……


 トーラスさんとデルフィネさんは、後ろの方で居心地悪そうにしている。

ボクらは雇われの身だからね! 安心してくださいよ! 守りますから!


「リーバンサン……前ハオ世話ニナリマシタケド、今回ハ別デスヨ。デルフェネサンヲ連レテ行クッテ言ウナラ……!」


 ギシギシ軋む体をなんとか起こし、ヴァーティガを掴む。

――掴んだところで、周囲に気が付いた。


 ――リーバンさんが、騎士さんたちに槍を突き付けられている。


 ……え!?

ちょっと! どういうこと!?

なんで騎士さんたちが!?


「これは穏やかでないな、空の民! ムーク殿は【大角】閣下や鎮魂の巫女様の大恩人! それを害そうとするなら……まずは我が第七巡回騎士団が相手となろうぞ!」


 ルツコさんが豪快に言い、腰の剣を引き抜いて構えた!

ちょ! ちょちょちょちょっと!?!?


「マ! 待ッテ! 待ッテ~!!」


 とりあえず事情を説明せんと! せんと~!



・・☆・・



「……トイウ、ワケナンデス」


 何故か結構な勢いで殺気立っている皆さんをなだめ、なんとかこれまでの事情を説明した。

勿論、事情を話していいかはきちんと確認を取りましたとも!


「むうう……!」


 そして、全ての事情を聞いたルツコさんは腕を組んで唸っている。

他の騎士さんたちは『どうしよっかな……』的な困り顔。


「……個人的には! 大いに同情したいし、手助けをしたい気持ちもある!」


 カッ! と目を見開いて、ルツコさんは言った。



「――だが! 巡回騎士団は……民事不介入である!!」



 なんか警察みたいなこと言い出した!


「これが無理強いによる刃傷沙汰ならまだなんとかなるが……この件については何もできん!」


 無茶苦茶申し訳なさそうな顔をしていらっしゃる……


「というわけで、当人同士でしかと話し合ってくれ! 我々は約に立たんので! ディナ・ロータスの解体準備にかかるとする! 総員、用~意!」


「「「応ッ!!」」」


 ルツコさんの号令に、騎士さんたちは声を上げ――もそもそと準備を開始。

色々な道具を持って、三々五々歩き出した。

やっぱりそうなるよねえ……バトル沙汰にならんでえかった……


「ああ、リーバン殿!」


 が、去っていくルツコさんはリーバンさんに声をかける。


「『巡回騎士団』としては関わり合いになれん。なれんが……『ジーグンシ・ルツコ』個人とあらば……首を突っ込むのも吝かではない! そこの女性を無理に連れ帰るようなことを考えるのであれば……」


 目がコワイ! 目がコワイ!!

体からも、魔力がゴウッ! って出た! コワイ!!


「――はっはっは! 冗談だ! はっはっは!! ではな!」


 にっこり笑うと、ルツコさんは今度こそ去って行った。

……冗談に聞こえない、不具合。


「……あれが音に聞こえた『焔姫』様ネ。なるほど……なんとも、傑物ネ」


 今まで座って黙っていたリーバンさんは、苦笑いして溜息をつく。


「――さて、ようやく話ができるネ。みんな座って欲しいネ……そもそも私は、デルフィネを連れ戻すつもりはないのネ」


 ……は?


「だろうと思ったのナ。その口から聞いて安心したのナ~♪」


 ボクの横に座っていたアルデアが、嬉しそうに胸元から小瓶を取り出す。

ちょっと待ってそれお酒では?


「なんナ? 周り中を騎士団が守っている状況で危険もないのナ? 事が済んだ祝杯ナ~♪ ナンナ、ナナンナ~♪」


 鼻歌交じりに酒瓶の栓を抜くアルデアである。

え、えぇ~……?


「あ、あの、私を連れ戻す気はないのナ……?」


 アルデアの後ろにいるデルフィネさんが、恐る恐る尋ねた。

更にその後ろでは、トーラスさんが心配そうにしている。


「殺気立ったお話ではないご様子、お茶をお持ちしました」


「お茶菓子もでやんす~!」


 イセコさんとロロンが連れだってやってきた。

今更だけど、ボクは焚火の近くで車座に座っている。

ボクの正面にはリーバンさんだ。


「では、私から話させていただくネ」


 リーバンさんは、お茶で口を湿らせて話し始めた。


「……そもそも、何故私がこんな真似をする羽目になったのか。それは私の父とデルフィネの父が古くからの戦友で、親友であるからネ」


 へえ、そうなんだ。


「デルフィネの父、デラル殿はネ……私の弟とデルフィネを結婚させるつもりだったのネ」


「……リードラと? そんな話は初めて聞いたのナ。デルフィネは?」


 アルデアは目を丸くしている。


「わ、私も初めて聞いたのナ! ……ひょっとして父上が言っていた『わしがふさわしい男を探す』っていうのは、まさか!」


 これはデルフィネさんも初耳みたい。

ほーん、なんか色々事情がありそうね~!


「ヒトの世は面倒だな……はもも」


「はむはむ、あぐあぐ」


『イチゴっぽいジャムがいい味出してるわ~! このクッキーは当たりだわ! 当たりだわ~!』

 

 ボクの膝でお茶菓子を楽しむ妖精たちは、そんな事情はまったく気にしてないけども。

妖精は平和ですなあ……

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます!あー。おっちゃんの下世話か。今回の発端は。アルデアさん見てたら空人は自由な民だと思っていたけど、所々伝統格式やらあるみたいネ。ピーちゃんアカちゃん…ややこしい話しなんていらな…
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