第81話 見積虫、色々諦める。
「恐らくではあるが、奴らの目的は卵の回収だったのだろう。ディナ・ロータスの卵は高度な魔法具の材料にもなるし、目が眩むほど高価でもあるからな」
忌々しそうにハンゾさんが言った。
ああ、ルツコさんがなんかそんなことを言ってたね。
「アノ、ジャアボクラハ何デ襲ワレタンデスカ?」
ハンゾさんは困り顔。
「まあ……運が悪かったのだ。たまたま連中の逃走経路にムーク殿たちがいたのだろうさ……誰でもよかったのだろうな、離脱までの囮になれば」
「アア……ソウイウコト……」
完全に貰い事故じゃないか、ンモ~。
どんどんヒューマン国家が嫌いになる今日この頃。
「アノ、ボクヨク知ラナインデスケド……オルクラディッテドンナ国ナンデス?」
前にトモさんにさわりだけでしか聞いてないんよね。
「ふむ……まあ、夜の小話には丁度いいか」
お茶を飲み、ハンゾさんは一息ついて話し出した。
「正式名称は、神聖オルクラディ王国という。国家君主は代々女だと聞いているな」
ほうほう、女王様が統治してる国なんだ。
「元々はアーゼリオン王国の属国だったのだ。それが1000年ほど前に独立して今の形になった」
「属国?」
「ああ、どこかで聞いたことがあるんじゃないか? 【ログン教】という名を」
あー! それってアーゼリオンで信じられてるって言う選民思想の宗教!
「知っているようだな……元々はアーゼリオンで始まったその宗教が分派してな。その分派を国教として成り立ったのが、オルクラディだ」
えぇ……元々同じ宗教が分裂?
うへぁ、めんどくさそう……
「アーゼリオンも中々の宗教国家だが、オルクラディはその非ではない。俺達西の国にはアーゼリオンが矢面に立つ関係上かかわりは薄いが……【神聖僧兵】と呼ばれる連中は強敵だ、ムーク殿がかち合った中にも混じっていたと思う」
「アー、ナンカイマシタネ」
ダルトンさんが物理的に消したやつか。
たぶん、強かったっぽいし。
「ロストラッドがそうであるように、帝国は年中オルクラディと小競り合いを繰り返している。まったく……俺たちが気に入らないなら、関りを持たんで欲しいものだな」
「本当ニソウデスネ……」
なんでちょっかいかけてくるのさ……
「だがまあ、そのようなわけにもいくまい。奴らはどちらも人族を至上とする国家……単純な労働力や愛玩用として奴隷が必要なんだろうよ。ハッ、反吐が出る」
「ナンテショウモナイ国……」
どちらとも未来永劫仲良くできそうにないネ!
「同意だな。今でも時々こうして侵入を許してしまうが……これは仕方がない、西方12国には様々な人種がいる、人族だからと言って片端から排除するわけにもいかんのだ。本当に、ロストラッドと同じ人族だとは信じられん」
山田さんの国の人、肩身が狭そうだなあ……
でも、この世界に来てからいい人間さんなんてほとんどあってないよ、サカグチさん以外だと……転生者のイルゼと、鑑定士のおじさんくらいかな?
いい人の比率が低すぎるんじゃ……もちろん他の種族にも嫌な連中はいるだろうけど、なーんか目立つんよねヒューマン。
「例の黒化の件もある……今回の連中が『当てられ』ておらずによかった」
「ウヘァ……たしかに」
あのクソキショ肉魔法? がパワーアップしてたらと思うとね……
「そうだ、ムーク殿には話しておこう……先日カターダという街で黒化した虫人が出たぞ」
「ナンデスッテ!?」
それは一大事だ!
「キチオムという盗賊でな、牢獄に収監されておったのだが……牢を破壊して脱走した」
「エライコッチャ……」
もう影響が出ている!
「まあ、元々監獄に収監されるような相手だからな。兵を伏せておいた結果……問題なく討ち取れたぞ」
「ア、ヨカッタ」
もう片付いてる!
「手練れ10名で囲み、魔法をありったけ打ち込んでトドメを刺した。あの時俺も見ていたが……ヒトを超えた防御力だったぞ」
でしょうね……例のサジョンジ2人も、戦い方はともかくしぶとかったもん。
「しかし罪人全員がああなるわけではない。何の基準があるのかわからんのがな……悩みの種だ」
ふむん…ある意味魔物よりもタチが悪いか。
悪人だから即殺す! ってワケにもいかないもんね。
殺人事件の現行犯とかじゃない限りは。
「ギャウ、ギャウ」
「オワワワ」
食事を終えたイーダちゃんがノシノシやってきて、膝に頭をどーん。
重いけどカワイイ、カワイイけど重い。
「ふはは、懐いたものだな……大人の走竜は好き嫌いが激しいというのに」
「アラソウナン? ヨシヨシ、ヨシヨーシ」
「ギュロロロロ……」
イーダちゃんは目を細めている。
うーむ……ボクも飼いたくなってきたなあ! 伝手とかできたら検討しようかな!
「さて……もう遅い、病み上がりのムーク殿は寝るがいい。貴公は並外れて頑丈なようだが、休める時には休んでおかねばな」
「ハイ、ソウシマス」
散歩とお話でいい感じに眠れそう。
「ジャ、オヤスミネ~?」
「ギャウ、ギャッギャ」
イーダちゃんの頭を撫でると、彼女はボクの手をペロンと舐めて仲間たちの方へ帰って行った。
かしこい……! やっぱり大きい分脳もでかいのかしら?
「俺も寝るか……野営には慣れているが、たまには柔らかい布団で眠りたいものだな」
「デスネエ」
柔らかい布団はともかく、安全な場所でリラックスして眠りたいものですわよ。
今の環境は安全だけど、やっぱりお外だからねえ。
ハンゾさんに頭を下げて、天幕に戻ることにした。
しっかし人間の国ってヤバいとこばっかだなあ……
・・☆・・
「おお! ムーク殿! お久しゅうございます!」
「ハヘ?」
ぐっすり眠り、翌朝。
ご飯を食べて寛いでいると、お客さんが来た。
眼鏡をかけたゲンゴロウっぽいおじさん……あ! この人は!
えぇ~……と、ルアンキで会った……ああ!
「ジューザサン、御無沙汰シテマス!」
「これは! 覚えていただいたとは!」
この人はロドリンド商会の偉い人! たぶんヤタコさんの上司!
あの時はお礼だって言ってごっさりお金をくれたんだよね……ちなみにまだ使ってません、あのお礼。
だって全然経済を回せてないので……ので……!
「此度もご活躍のご様子……ディナ・ロータスの買取につきましては、私が担当をさせていただくことになりました」
「オオ……ソレハソレハ」
ロドリンドの車が多かったからそうじゃないかなって思ってたけど、まさかの顔見知りさんが来てくれるとは。
それは楽で良き良き!
「だれ? だぁれ~?」
アカは直接会ってないからなあ。
「ルアンキデ知リ合ッタ人ダヨ。ホラ、ヤタコサンヲ助ケタ時」
「ヤタコおねーちゃ!」
アカも覚えていたみたい。
この子、子供なのに記憶力とかすごくいいよね。
成長したらあっという間にボクよりも賢くなりそう!
『ルーちゃんの街ね! 懐かしいわ! 思えば遠くに来たものだわ!』
肩にいるピーちゃんが、感慨深そうにチュチュンと鳴いた。
そうだねえ……色々あったもんねえ……あの時はカマラさんもいたし。
……う、ちょっと悲しくなっちゃった。
いかんいかん。
「さて、それではこの場で軽く話し合っておきたいのですが……よろしいでしょうか?」
「アッハイ、ドウゾ」
まだ解体は全然終わってないけどいいんだろうか?
まあ、プロの人? が言うなら間違いないか。
「まずですね、今回の件でのムーク殿も取り分ですが……」
「お客様、こちらお茶でやんす~」
ロロンがサッと来た。
有能子分!
「おお、これはすみませんね……ええと、概算ですが500万ガル程度になるかと思います」
「――ッ!?」
あーっ!? ロロンが倒れた!!
すかさずキャッチ……気絶している……金額がデカすぎたんだ……
『むっくんは冷静ですね』
正直ロロンが倒れなかったらボクが倒れてたと思う!
そういう謎の自身がある!!
「あ、あの……どうなされたので!?」
「ア~……エット、チョットシタコトデス、ハイ」
ロロンをベッドに安置。
見開いた目を閉じさせ、フワフワ毛布をかけてあげて完了。
さて……話に戻ろう。
「ッテイウカ……高スギジャアリマセン?」
500万ガルですよ、500万。
「いえ、適正価格ですよ」
眼鏡をクイッとするジューザさん。
「まず、ディナ・ロータスの成体は素材の宝庫です。肉は美味で、なおかつ加工すれば長持ちする保存食になります。内臓も薬品の材料として珍重されていますし……なにより、甲羅と皮膚! これは魔法に対して高い耐性を持ちますので、引く手数多なのですよ!」
あ~……そういえば魔法全然通用せんかったもんね。
アレで盾やら鎧やら作ったら確かにすごそう。
「ですので……恐らく全身ひっくるめた金額がおおよそ750から800万ガル程度になります。そして騎士団との折衝により、ムーク殿の活躍大いに大とのことで……」
絶対ルツコさんだ……そう言ったの……
「普通ですと、あれほどの大きな魔物を討伐した時は複数の集団が存在していて……金額の取り分で揉めるのですが……今回はムーク殿とお仲間たちと、巡回騎士団様だけですので楽でした」
「ソ、ソウデスカ……」
これ、ボクがどういっても貰う流れだ……
500万ガルか……一気にお金持ち虫になってしまう。
これまでだって経済を回せてないから貯まる一方だというのに……のに……
「それで……了承していただけますかな?」
「ハイ……ヨロシクオネガイシマス……」
これしか言えない……
ヤダー! って言っても無理やり受け取らされる流れが見える見える……うう。
「それはようございました! それでは私は作業に戻ります! しばらくはこの状況が続くと思いますので、ごゆっくりなすってください! ああ、何かご入用であればウチの者にお申し付けください! では!」
ジューザさんはニコニコしながらシュバっと出て行ってしまった。
有能商人さんだ……
「おやびん、おかね、いっぱい?」
「イッパイダネエ……」
アカはそこらへんがよくわかんないからね、実感が湧いてないみたい。
ロロンはまだ起きてこないね……衝撃が大きすぎたんじゃろね……
「アカモ、ピーチャンモ頑張ッタカラネ、欲シイモノガアッタラボクニ何デモ言ウンダヨ?」
総取りなんてするわけがない! 皆で使おう、そうしよう!
「りんご! りんごほしい!」
『美味しいものが食べたいわ! 食べたいわ~!』
それは今までの日々と一体何が違うというの……?
欲がないなあ……いい子たちだなあ……
とりあえず撫でちゃろ! 撫でちゃろ~!!




