第74話 着装虫、頑張る。
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!? ガアアアアアアアアアッ!!」
「ヌグウウウウウウッ!!」
眼球にチェーンソーをぶち込まれたディナ・ロータスは、さすがにこたえたらしい。
ブレスを中断して、なんとかボクを振り下ろそうと凄まじいヘドバンを開始した。
だけど、チェーンソーと隠形刃腕、それに左手パイルで張り付いたボクはそう簡単にははがれないぞ!
いくらでも頭を振り回すがいい――なんか重力を感じるな?
――衝撃、激痛、軋む全身。
「ッグ、ク――!?!?」
こ、こいつ……!
顔面を、地面に叩きつけたなァ!?
トラックに突っ込まれたみたいな、衝撃ィ!
「ヌゥウウ――ガァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
回れチェーンソー! 電磁、赤熱化ァッ!!
頭の内側から焼き焦がしてやるぞォ!!
「グゥウウアッ!? ガアッ!? コンチクショウ!!」
ヘドバン、ヘドバンの嵐!
背中の装甲がなんかバキバキ鳴ってるけど、そんなものは幻聴! 幻聴デース!!
『――むっくん! またあの魔力反応です! 首が引っ込みま――』
アギャーッ!? そんなこと考えてなかったから腕が抜けないィ!!
このままじゃ――あっ。
・・☆・・
『――むっくん! むっくんウェイクアップ!』
……ぎ、ぎぎ、なんじゃ、ここ。
真っ暗で、生あったかくて、生臭い。
それに、ギッチギチに押し込まれてるから動けないィ……
『ディナ・ロータスの内部です! むっくんは首と一緒に内部に引き込まれました!』
か、亀の中か……そこら中筋肉みたいな感じ!
胃袋じゃなくてよかったけどね、消化されちゃうし。
『むっくん、他に何か気付きましたか?』
む……体が苦しいだけでだいじょう……違う!
なんかボクの魔力……自動的に減っていってない?
なんでぇ?
『ここは、どうやら胃袋のような空間です。このままでは魔力を吸いつくされてカラカラ虫になっちゃいます』
なっちゃいます、じゃなぁい!?
カワイくて綺麗な声だけどそれは看過できませんぞ~!
だけど、現状指一本も中々動かせないし……出る手段もわかんない。
くそう……なんとか全力で大暴れしるしかない――っぎ!?
し、締め付けが強くなっ――!?
「グゥムウウウ……コ、コノォ……!」
『ムーク! ムーク聞こえるか!?』
ヴァル!
『なんとかね! ちょっと死にそうだけど!!』
これどうしよ。
『それはわかる。なにせワレの本体はお主が握っておるからな』
あっそうか。
そういえばそうだった……なんか、外にいるのが当たり前になってたから……
『お主は今、ディナ・ロータスの内側におる。魔法が通じぬ魔物の、内側にな』
そうだけど……それが?
あ、いやちょっと待ってよ……そうか!
『やっぱり内側からなら、魔法も効くってこと?』
『その通りだ。いかな生物とて体の内側まで頑丈というわけにはいくまい。お主はそこで、内部に向かって魔力を叩き込め』
そう、だね! それではゼロどころかマイナス距離の電磁投射砲をお見舞いしてやる……!
『ありがとうヴァル、何とか頑張ってみるよ!』
『まあ、待てムーク』
お、なんすか?
じわじわ魔力がないなってるから手短にお願いしたいところ虫。
『【ふたつめ】まで唱えられたお主には……、二つの【ことば】を教えてやろう』
ふたつめぇ?
……ああ、励起呪法のことか。
『言うのが遅くなりましたが、電磁投射砲は過度の連続使用により極めて不安定な状態です。悪くすれば上半身が吹き飛びますので、使用は推奨しませんよ』
おおお恐ろし!
せめて下半身なら一考の余地があったけど、上半身バイバイは無理!
『話は済んだか? では手短に言うぞ』
よろしくお願いします、相棒!
・・☆・・
「念話は終わったのナ? ムークは無事ナ!?」
「おやびん、だいじょぶ!? だいじょぶぅ!?」
「うむ、元気も元気。腹が減ったと五月蠅かったぞ」
「なんだ……心配して損したのナ」「げんき! よかた、よかた~!」
「……アイツでよい、か。いや違う、アイツでなければならん」
「ヴァルおねーちゃ、どしたのぉ?」
「ん、なんでもない。迎撃は頼むぞアカ」
「あい~っ!」
・・☆・・
「『我ガ剣ハ、牙ナキモノノタメ』」
魔力が減る。
それと同時に、周囲を包む圧力が減った。
やっと左腕が動く……追加魔石、口に放り込んどこ。
これでジワジワ衰弱死ルートは避けられた。
『亀さんが異変に気付いて吐き出される前にやりましょうね』
よっしゃ! やーるぞ~!
魔石を噛み砕いて、魔力をおかわり!
「『我ガ鎧ハ、寄ル辺ネキモノノタメ』――」
うぅぐ……まだキツイ!
初めて唱えた時よりはマシだけど、それでもギリギリだ……!
『ムーク! ディナ・ロータスが異変を感じて暴れ始めたぞ! 吐き出される前に、一気にやれ!』
――了解、ヴァル!
ヴァーティガの外装? が弾け飛んだ勢いで、さらに圧力は減った。
相変わらず綺麗な大剣だ……そして、前は余裕が無くて気付かなかったけど……弾けた外装が、空中に浮かんでる!
うわわ、なんか揺れが酷くなってきた! 吐き出される前にやらなきゃ!
すう、と息を吸い込む。
目を閉じて、ヴァーティガを握る両手に意識を集中。
ヴァルが話してくれた言葉を、反芻する。
『――あの時、妙だとは思わんかったのか? ことばでは『鎧』と言っているのに、顕現するのは『剣』だ』
『――『鎧』は、あるのだ』
『――ヴァーティガを包んでいるものは、『鞘』ではなく――』
渦を巻く魔力が……ボクから、ヴァーティガに。
目を開けると、刀身がさらに輝きを増していた。
言葉を紡ぐ。
魔力を乗せて、ヴァーティガと一緒に戦うために。
『これは、我ら妖精の古き言葉。信なきものでは、たとえ口に出しても現象は起こらん』
『だがまあ、お主なら――ふふ、子細なかろう』
「――『ラグン・ヴァルツ』」
『意味は【憤怒の鎧】……お主には【甲殻】と言った方がよいかな』
『この世に数多ある悪を憎み、恨み……何の見返りもなく、儚きものの守護者となる』
『誰に頼まれたわけでもなく、絶望が押し寄せる最前線に立つ』
『……そのような真っ直ぐで、底抜けの大たわけにしか使えぬ鎧よ』
・・☆・・
(三人称)
「ムーク様は――!」
甲羅に手足を引っ込め、ディナ・ロータスが大地で震えている。
何の攻撃もしていないが、震えているだけで小規模の地震さながらに大地を震わせている。
「ヴァルさんから念話で無事とは聞いておりやんすが、それでも……」
全身の各所に少なくない擦過傷を負ったロロンが、槍を構えて敵を見据えている。
「じゃじゃじゃ、大丈夫でがんしょ」
その前に悠然と立つ男、ダルトン。
何度かのブレスを受け、ディナ・ロータスの手足に殴られていたその体には……ロロンよりも傷が少ない。
アルマードの、特に優れた戦士の硬質化した皮膚は……生半可な魔法金属の鎧すら上回る程の強度を誇るのだ。
「……オラぁは、方々の戦場でそりゃあ多くのいくさ人ば見てきやんした。ムーク殿は、その中の何人かによっく似だ目ば、しておるのす」
「目、でやんすか?」
ことん、と首を傾げるロロン。
「んだなっす、あの目ばした御仁は……強い」
三節棍をふるい、血と泥を落とすダルトン。
「力でも、技でもね。そったらもんは戦っておれば自ずと身に着くものでやんす……あの御仁らやムーク殿は、魂に『柱』ば通っておるのす」
ディナ・ロータスが震えている。
悲鳴を上げる頭は内部に収納されているので声こそ聞こえないが――まるで、体内の『異物』に苦戦しているかのようだ。
「柱……?」
「んだなっす。魂に確固たる柱ば通った者らは、何をしても『負け』ねえのす……たとえ戦場で倒れ、瀕死になろうとも心は負けてねえのす……いんや、もしかしたら……死んでも」
どこか羨ましそうに、ダルトンは言った。
「ロロンさ、あんだの親分さんはたんげ強いお人でやんす。だども、まだ歩き始めたばかりのご様子」
彼はロロンを振り返って、破顔。
「アンタさんが傍らでしっかと支えてやったもんせ。あん人はきっと……もっともっと大きな男になるのす」
その言葉に、ロロンが頷こうとした瞬間。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?!?!?!?!??!」
ディナ・ロータスの巨体が、上に向かって『跳ねた』
・・☆・・
『――ワレは知っている。あやつのような大たわけを、ヒトが……何と呼ぶのかを』
『そう――大英雄、とな』
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