第72話 騎兵隊の到着だ! ……隊じゃなくない?
『――高速修復、実行!』
じわ、と熱を感じる。
まずは脚を治してくれるみたいだ……うぐ。
ヴァーティガから手を放すと、地面に倒れる。
震える手でマントを探って、魔石を取り出して口に。
噛み砕くと、魔力が回復して……ようやく、マトモにモノを考えられるようになっ痛ァアアアアアアアアイ!?!?!?
脳がまともに動き始めたら痛ぁあああああああああ!!
おしっこ漏れそう! 排泄しない感じの体でよかったくらい痛ァアアアアアア!!
「グゥウウウウウ!?!?」
ぞるん、と両足が生える。
お、お帰りボクの素敵レッグ……くそ、まだ力が入らない! そして全身が痛い!
ヴィラールさんの魔法具は本当にいい仕事をしてくれた……今度からはもうちょっと上の方にズラして貼っておこう。
なんとしても頭を守らないといけないしね!
「ムーク様ッ!!」
イセコさんが凄い勢いで走ってきた。
顔色が蒼白だ、絶対死んだと思われてたんだろう。
ちょっと涙目なのが申し訳ない。
「そのように大規模な回復術式を多用して大丈夫なのですか!? ご無理なさらず、悪くすれば衰弱死してしまいますよ!」
寿命くんがかわりに死ぬので大丈夫……とは言えないな。
『左腕は少し待ってください。イセコさんの言うように体に与えるダメージが多すぎますので』
うぐぐ……くそ、まだ足が動かない!
早くここから、ここから離脱しないと――ブレスが、また来る!
ディナ・ロータスはまだまだ元気なんだから!
「――ゴウラアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
ほらね!
……あんな威力のブレス撃ったんだから、もうちょっと消耗しててくださいよ!
「いけない! またブレスが――」
嘘でしょ!?
リキャストタイムが短すぎるんじゃよ!
あああ! ボクにもわかる! ヤツの口に魔力がぐんぐん集まってるのが!
「イセコサン逃ゲテ! ボクハ大丈夫デスカラ!」
ヴァーティガと魔法具の併用でなんとか死なないってついさっき分かったから!
「――お断りします! 『大いなる地母神よ、方陣を敷き守り給え、其方の領土を守り給え、無辜の民を守り給え』」
イセコさんの周囲に、魔力が渦を巻いて集まっていく。
それを体の周辺に纏わせたまま、彼女は凄い勢いで両手で印を結び始めた。
「『静謐よあれ、安寧よあれ、清浄よあれ』……『堅固なる城壁よ、あれ』!!」
「――グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
ウワーッ! ブレスが――来る!
「――『天上壁・不壊結界陣』!!」
また放たれた土石流ブレスが――イセコさんの前にある半透明の結界にぶつかって逸れる。
さながらボクらは、洪水に放り込まれた小舟みたいな状況になった!
「ぬ、うぅ、うぅうう――!」
イセコさんからどんどん魔力が抜けてる!?
結界の維持に物凄く使ってるみたいだ……!
「イセコサン!」
「ご、安心を。わが命に代えましても……ムーク様はお守り、いたします!」
違ァう!
ううう、これ絶対どいてくれないよ! 頑固! 頑固むしんちゅ!!
「グゥウウ……!」
オラ動けボクの両足! もう完全に再生したんだぞ! 女の子の危機なんじゃよ! 根性見せんかー!!
「ヌヌヌヌ……!!」
立った! むっくんが立った!!
でもマトモに動けない……
じりじり歩く以外の移動ができない! でも……歩けるなら!
「ギギギギ……!」
地面に突き刺さったままのヴァーティガ……その前に、出る!
「ヌウッ!」
深く突き刺さった本体に背中を預けて、両足パイルで体を固定!
隠形刃腕も追加展開!
『むっくん、それを行うと左腕の修復が後回しになりますが――』
モーマンタイ!
イセコさんを助けないとね――胸ハッチオープンッ!
「ムーク様!? いけない、おやめください!」
「イヤドス~!! アナタダケ苦労サセルワケニハアキマヘン!!」
なんか余裕が無くて舞妓はんみたいになった! いやむしろラクサコさんか!
今、ブレスは結界にぶつかってる! これでさらに圧力を減らせれば、イセコさんへの負担が減るはずなんだ!
むんむんむん……魔力、急速充填!
集まれボクの魔力! 渦を巻いて――貫け!!
――魔素凝縮電磁投射砲、ファイアッ!!
胸の中心から、いつでも頼もしいごん太ビーム発射。
イセコさんの横を通って、結界を通過して――土石流に激突! その激流を引き裂きながら前へ! 前へ!
視界は茶色でいっぱいだけど、あんなに目立つデカイ頭なんて目標を外すもんか!!
「ヌウウウウウアアアアアアアアアッ!!」
胸の帯電が激しくなり、視界が明滅する。
ボクのビームは素敵にブレスを切り裂いて直進している――気がする!
「――――!?!?!?!?!?」
ム、ムム!
ブレスを突き抜けて直撃した――気がする!
だって、明らかにブレスの圧力が弱まったもん!
ならば、さらに魔力を注ぎ込んで――頭ァ! 吹き飛ばしてやるッ!!
『あっ、むっくんストップ!』
なんて?
いきなりそんなこと言われても急にビームは止まらな――
「――ギベーッ!?!?」
吹き飛んだのは、ボクの装甲板でした。
あああ! 胸とか背中とかのスリットから魔力が逆流してバグンって! あだだだだ!?!?
『短い期間に連射しすぎな上、身心ともに疲弊していましたからね……ただ、向こう側でも何かあったようです、ブレスが終了しますよ』
ぎょ、僥倖……あがが、体が痛すぎる……
うぐ……体中の装甲がところどころ吹き飛んでる……
反動がデカすぎる……
「ムーク様! なんというお姿に……!」
「ダイジョブ……ダイジョブ……ソレヨリ逃ゲテクンシャイ……」
イセコさんは疲れているみたいだけど、まだ大丈夫そう。
よかったあ……
「貴方も一緒です! 怒りますよ!!」
「ファイ……」
も、もう怒ってる定期……
イセコさんはボクを引っ張り起こして、肩を貸してくれえた。
ううう、すいませぇん……
ブレスの巻き起こした土が晴れて、向こう側が見えてくる……わ、わわ!?
ディナ・ロータスの顔面、めっちゃ血だらけ!
ボクのビームがブレスを突き抜けて、人間で言うと額の部分に直撃したんだ、多分!
皮膚が吹き飛んで、肉がむき出しになってる!
やったね!
でも一つ、問題があるとすれば――
「ゴオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
まだ殺意マシマシの上に元気いっぱいだってことかな!!
ちくしょう! いい気になるなよ! ボクが身長57メートル体重550トンじゃなくて命拾いしたな!
『スーパーロボットむっくんは来世に期待しましょうか』
今世が終わらないように一生懸命頑張ります!
「瞬時に体を内部で入れ替えるとは……私も知りませんでした、お許しくださいムーク様」
イセコさんが、ボクの顔を見て申し訳なさそうだ。
「イエイエ、ダイジョブデス。イセコサンガ無事デエカッタ……」
トモさんも知らんかった情報なんだしね。
しかし出鱈目な体だよ……骨格どうなってんのさ。
「……私も防げて2回と言いましたが、先程のブレスはムーク様のお陰で威力が半減しておりました。あと2回は命に代えても防いでみせます」
トモさん! ボクがイセコさん抱えて飛べるようになる最低限を! 最大速度で治して!!
『注文のお多い料理店虫……了解しました』
頼むクソデカタートル! しばらく大人しくしてて――お前なんでもうチャージしてんの!?
それってチートでしょ! ボクのシマではノーカンだから――!!
「――ぬおおおぉおおおおおッ!!」
こ、この声はダルトンさん!?
一体どこ――甲羅の上!!
反対側から甲羅の上を走ってこっちに来たんだ!? 足が速い!
「させるかぁああッ!!」
ごぎん!! と轟音。
甲羅から飛び降りながら、ダルトンさんは三節棍をディナ・ロータスの頭頂部? に叩き込んだ。
彼の身長くらいあるタートルヘッドが揺れ、皮膚が割れて血が噴き出る!
「はいぃいいいいっや!!」
速射砲みたいな音が続く。
ダルトンさんが、空中で静止したまま両手の三節棍を縦横無尽に振り回して――所かまわず殴りつけてるんだ!
何で浮いて……ああ! ワイヤーみたいなのを甲羅に引っ掛けてるのか!
何はともあれこれはチャンス! 治療に専念しますよ!
「ゴウラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
ひぃ! 小規模なブレス的なものがダルトンさんに!?
「ぬぐわぁッ!?」
あああ、吹き飛ばされた!
見たとこ無傷だけど空中で踏ん張れなかったみたいで、お尻方面にクルクル飛んでっちゃった!?
それで……なんでこっち向くのタートルさん!
そんなに半月板損傷が気に障りましたか!?
「っちぃ! 来るなら来い!!」
いかん! このままじゃイセコさんが! ボクはまだ回復してないから援護できないし……!
トモさん! トモさんヘルプ~!!
「――助太刀いたすぞ! 御両人!!」
頭上に影。
上を向くと――細い走竜が飛んでる!?
アレは……雄か!
その走竜はボクらを跳び越えると、地面に着地。
一切スピードを落とすことなく、ディナ・ロータスに向けて走り出した!
あれ? 上に乗ってる鎧の人ってどこかで見たような――
「ああ! ルツコ様!」
あ! 思い出した! 巡回騎士団のルツコさんだ! たしかラクサコさんの従妹!
でも、なんで1人だけ!? 騎士団は!?




